第三話 男二人の秘密の友情
どこにでもいるはずの女性、桜江千須佳は何気ない日常を送っていた。そんな時、悪の組織ダークビタビターズが現れ千須佳は戦士として戦うことになる。とある戦いで強いマリスに苦戦してしまうが、精神が一体化していた苦木流馬と交代することで新たな姿、アタックソードになって勝利するのだった。
ある日、千須佳は仲間である双見アラモードと三浦竹月とスイーツショップで話していた。
「まさかチーズレーザーにあんな能力があったなんて……。」
千須佳はチーズレーザーがアタックソードになり、人格も交代したことに未だ驚いていた。
「しかし、交代されていた方のことはわからないままですね……。」
竹月は、チーズレーザーがアタックソードになっている間の人格の正体がわからないことに言及する。千須佳もその正体が流馬だとは未だわからずにいた。しかし、いつものように特大爆盛パフェを食べていたアラモードがあることを推測する。
「あの人、ルビー指輪の持ち主ってことでしょ?」
「なるほど、それならあの方の言葉にも合点が行きますね。」
「え、どういうことですか?」
アラモードはアタックソードの人格の正体がルビーの指輪の持ち主と考える。そのアラモードの推測に、竹月も納得する。しかし千須佳だけはよく理解していなかった。
「千須佳さん、あの方はご自分のことをただのサラリーマンと仰っていました。そして本体はお手洗いに籠もっているとも仰っていました。」
「はい……。」
「つまりあの方はルビーの指輪の持ち主であり、千須佳さんがチーズレーザーになる度に精神を体から分離させ、指輪と共に千須佳さんと一体化しているということです。」
「ほぉ……?」
千須佳は竹月の話がわかるようでわからなかった。しかししばらく間をおいて、漸く理解する。
「えっと、つまり私がチーズレーザーになる時、強制的に幽体離脱と憑依をしているということですか?」
「ま、そういうことだろうね。」
千須佳は自分の中で怪現象が起きていると理解する。アラモードは軽い口調で同意するが、千須佳にとってはそれが恐ろしかった。
「いやいやいや、それはちょっとまずいですよ!それが本当なら私よりもその人の方が恐いじゃないですか!」
「仕方ないじゃん、そういう仕様なんだし。」
千須佳は強制的に幽体離脱している人がいるという事実を恐ろしく感じる。しかし、アラモードはそれでも平静を保っていた。
「凄い、全く動じない。これがベテラン戦士の風格……。」
千須佳は動揺を見せないアラモードに感心する。そしてアラモードはとんでもないことを口にする。
「よし、千須佳ちゃんも戦士としてやって行けそうだし、私はもう戦わなくてもいいよね?」
「え?」
千須佳はアラモードの言葉に耳を疑った。アラモードは戦わないことを提案する。
「ちょっと待って下さいアラモードさん!ただでさえ面倒な仕様のチーズレーザーを一人残して退場する気ですか⁉」
「大丈夫だって。ルビーの指輪の持ち主もいるんだし、もう一人じゃないよ。」
「体は一人なんですって~!」
千須佳は必死にアラモードにもまだ戦って欲しいと説得する。
「竹月さんも何とか言って下さい~!」
「そうですね。アラモードさん、少しよろしいですか?」
「うん。」
千須佳は竹月に協力を仰ぐ。竹月も理解してくれたようで、アラモードに話しかける。アラモードも竹月の話は素直に聞くような態度を取る。
「アラモードさん、流石に今の状態でアラモードさんのアシストがないのはよろしくありません。せめて戦士があと一人増えるまで戦ってはもらえないでしょうか。」
「まあそっか、竹月ちゃんが言うなら仕方ないね。」
「ナイス竹月さん!」
竹月はアラモードを説得し、アラモードは戦うことを決める。千須佳はホッと胸を撫で下ろすのだった。
明くる日、とある高校のとある教室で一人の男子高校生が担任教師に抗議していた。
「ちょっと待って下さいよ先生、これってどういうことっすか⁉」
彼の名は氷山雪大、以前千須佳が見かけた、コンビニの前で屯して買い食いをしていた男だった。
「何で俺が風紀委員なんすか⁉納得行かないっすよ!」
「お前がサボっている間に委員会を決めたんだ。だからお前は余った風紀委員だ。」
雪大は風紀委員にされたことに納得していなかった。担任教師は雪大が怠けている間に決めたので雪大を余った風紀委員にしたと話す。
「何なんすか!言っちゃなんすけど俺が一番風紀乱してるっすからね!」
「威張るな!」
雪大は自分が風紀委員に相応しくないと主張し、なんとか風紀委員から逃れようとする。しかし担任教師に一蹴され、諭されるように言われる。
「いいか氷山、はっきり言うがお前はサボり過ぎて出席日数が足りていない。ここから挽回するにはこれ以上サボらないことと風紀委員会活動による内申点しかないんだ。」
「マジすか……。」
担任教師は雪大に風紀委員会活動で内申点を稼がなければならないと諭す。雪大も流石に折れ、風紀委員になることを承諾する。
「そうだ氷山、風紀委員はこのクラスからお前と桐月だからな。」
「桐月?」
担任教師は風紀委員に雪大と桐月というクラスメイトが任命されたことを明かす。それを告げられた雪大は、教室の後ろの席にいるストレートロングに真っ直ぐ切られた前髪を持つ少女に目を配る。彼女の名は桐月翼咲、雪大と共に風紀委員に選ばれた者だった。
(喋ったことねぇ奴だな、しょうがねぇか。)
雪大は今まで言葉を交わしたことのない翼咲と風紀委員をすることを面倒に感じていたが、仕方がないと割り切る。
一方その頃、雪大とコンビニで出会った少年、水無西瓜は通っている小学校でいつものように授業を受けていた。他のクラスメイトが皆活発に授業に参加している中、西瓜は黙々と聞いているだけであった。
「ねえねえ、水無君が喋っているところ見たことある?」
「一応当てられたら喋ってるよ。それ以外はないかな。」
「あいついつも陰気だよな。」
クラスメイトの何人かは西瓜を見てひそひそと話す。
西瓜はクラスメイトの誰とも打ち解けていなかった。元々引っ込み思案な性格だったが、それが六年生になるまで続いてしまい、西瓜はいつしかコミュニケーションの取り方もわからなくなっていた。そして西瓜は今日もまた必要以上に喋ることなく放課後を迎えるのだった。
その日の放課後、雪大は翼咲と共に委員会に向かう。その間、二人は一言も交わさなかった。
(喋ったことねぇ上に喋ってるの見たことねぇよな。何考えてるんだ?)
雪大は翼咲の無感情な佇まいが苦手だった。思えば雪大は翼咲が喋っているところを見たことがなかった。
「氷山君。」
「な、何だよ……⁉」
翼咲はふと雪大に話しかける。雪大は急に話しかけられたため、動揺してしまう。
「あの、よろしくお願いします……。」
「お、おお……。よろしくな。」
翼咲が発したのは挨拶だった。雪大は動揺しながらも返す。
そして二人は委員会を行う教室に入るが、そこにはとある小柄な少女が腕を組んで仁王立ちしていた。
「来ましたか、お待ちしてしましたよ。」
「隣のクラスの奴か、よろしくな。」
少女は雪大と翼咲の二人に話しかける。雪大はフランクに返すが、少女は少し怒っている様子だった。
「あなたが氷山雪大君ですね。授業をサボっていると聞きましたよ。風紀委員会でこの赤園風布花と一緒になったからにはこれ以上好きにさせませんからね!」
少女は自身を赤園風布花と名乗る。そして風布花は雪大をこれ以上サボり魔にしないよう躍起になっていた。
(何だこの熱血少女?)
雪大は風布花から感じられる熱を暑苦しく感じていた。
「えっと赤園さん、とりあえず今日の活動を教えてくれる?」
「そうですね桐月さん、それでは早速今日の活動をお話し致します。」
翼咲が熱くなる風布花を抑えるように活動内容を尋ね、この日は雪大、翼咲、風布花の三人で花壇整備をするのだった。
一方、西瓜はクラブ活動を行っていた。西瓜が所属しているのはパソコン部で、その所属部員は西瓜一人となっていた。
「西瓜、お前の担任の先生から聞いたぞ。この前また授業をサボったんだって?」
「ごめんなさい、栗崎先生……。」
淡々とクラブ活動を行う西瓜に顧問の栗崎剛志が話しかける。栗崎はジャージ姿で屈強な体を持つ体育会系のような印象を受ける教師だが、パソコン部の顧問を務め西瓜が学校の中で唯一心を開いている人物であった。
「やっぱり居心地が悪いのか?自分のクラスが。」
「……はい。」
栗崎は西瓜に自分のクラスの居心地が悪いのかと尋ねる。西瓜は少し言葉を詰まらせながらも答える。
西瓜はパソコン部の先輩がいた時、今よりも少しだけ明るかった。しかし西瓜が入部してからは何故か新規入部が無くなり、先輩部員が皆卒業してからは西瓜一人だけになった。そしてパソコン部は廃部が検討されたが、栗崎が西瓜の居場所を守るために懇願し西瓜が卒業するまで廃部が延期された。今では西瓜にとってパソコン部だけが唯一の心の拠り所となっていた。
「正直、あのクラスって元気で明るくて…、ずっとパソコン部に閉じこもっていた僕にとって居づらいっていうか……。」
「そうか、そうだよな……。正直俺もあのクラス替えの時はちょっと『ん?』って思ったよ、西瓜が不利になるんじゃないかってな。」
西瓜は今のクラスが全体的に陽気なため打ち解けないことを明かす。栗崎もクラス替えの時から西瓜のクラスには疑問を持っていたことを明かす。
「でも、これから色々な人に出会う。俺も西瓜をずっと支え続けられるわけじゃないし、申し訳ないが……。」
「わかってます、僕も他の人とコミュニケーションを取らないといけないこと。でも今は、変われるきっかけを見つけるための時間を下さい。」
栗崎は西瓜に、今の引っ込み思案な性格のままではいけないことを諭す。それは西瓜自身もわかっているようで、今は変われるきっかけを探していると答える。
「そうだな、まだ全然若いんだ。思う存分悩めば、きっといい答えが見つかるさ。」
「ありがとうございます、先生。」
栗崎は西瓜の背中を押すような言葉を掛ける。西瓜もその言葉に嬉しくなる。そしてパソコン部はその日の活動を終えるのだった。
その日の夜、雪大は家に帰る。
「ただいま~。」
「お帰り雪ちゃ~~~~ん!」
「うおっ、抱き着くな!」
家ではベージュカラーの髪を後ろに結んでいる女性が出迎え、雪大に抱き着く。彼女の名は氷山瀬里奈で、雪大の姉である。瀬里奈は22歳で、雪大と二人で暮らしている。
「雪ちゃん、晩ご飯できてるよ。」
「おお、サンキュー。」
瀬里奈はそう言うと夕飯を用意し、雪大に振る舞う。
「雪ちゃん、美味しい?」
「うん、美味いよ。」
「本当?嬉しい♡」
瀬里奈は雪大に料理の評価を尋ねる。雪大は何気なく美味しいと言い、瀬里奈は嬉しくなる。
「ねえ雪ちゃん、ちょっといい?」
「おう。」
ふと瀬里奈は雪大の隣に座り、雪大に話を始める。
「お姉ちゃんね、新しい就職先が決まったの。」
「お、決まったんだ。」
「そうなの。駅前の大通り沿いにある大きなアパレルショップでね、店長がとても気さくな人ですぐに採用してもらっちゃった。これで氷山家も安泰だよ~~~~~!」
「だから抱き着くなって!」
瀬里奈が話したのは就職が決まったという話だった。瀬里奈は雪大を育てるため、大学進学を諦めて職を転々としていた。そして職が決まった瀬里奈は嬉しくなって雪大に抱き着く。
「これからお姉ちゃんもお仕事で忙しくなると思うからさ。」
「ああ、俺もご飯作るようにするよ。」
「ありがとう、雪ちゃん♡」
雪大は仕事で忙しくなる瀬里奈のために、食事を作ることを決める。これにはまた瀬里奈も嬉しくなる。そして瀬里奈は話題を変える。
「それでさ雪ちゃん、学校もしっかりね。」
「あ……。」
瀬里奈が切り出したのは学校の話題だった。これには雪大も気まずさを覚える。
「この前も学校から連絡があったよ、また授業サボっちゃったんでしょ。」
「ご、ごめん姉ちゃん……。」
瀬里奈は雪大に学校から雪大が授業を怠けたことを告げる。雪大も後ろめたさを感じながら瀬里奈に謝る。
「やっぱりクラスの子達と打ち解けられない?他のみんなはパパとママがいるとか思っちゃう?」
「別にそういうわけじゃねぇけどよ……。」
瀬里奈は雪大に心境を尋ねる。雪大と瀬里奈の両親は二人がまだ幼い頃に交通事故で他界していた。瀬里奈は雪大がそのせいで周りに引け目を感じているのではないかと心配していた。雪大は瀬里奈の目をしっかり見つめて答える。
「俺は姉ちゃんが居てくれればいいって。学校のことは悪いけど、自分が何をしたいのかまだ整理がつかねぇっていうか……。だから少し時間をくれないか?」
「うん、わかった。でもあまり他の人に迷惑を掛けないようにね。」
雪大は瀬里奈に、両親がいないことのコンプレックスを抱いているわけではないと答える。しかし雪大には思うところがあるようで、気持ちを整理する時間が欲しいと頼むのだった。
夕食や入浴を済ませ、自室の寝床に着いた雪大はポケットからサファイアの指輪を取り出す。
「はぁ……、そういえば誰がチーズレーザーなんだ?」
雪大はチーズレーザーのことを呟く。実は雪大こそが、千須佳がチーズレーザーになっている時に聞こえた声の一人、若い男性の声の主だった。
一方その頃、西瓜も寝床に着きポケットからエメラルドの指輪を取り出す。
「はぁ……、そういえば誰がチーズレーザーなんだろう……?」
西瓜も雪大と同じようにチーズレーザーのことを呟く。実は西瓜も雪大と同じくチーズレーザーの時に聞こえた声の一人、少年のような声の主であった。
「この間の戦い、あのお兄さんと交代できたよな。」
雪大は先日の戦いで、千須佳が苦木流馬と交代してアタックソードという姿になったことを思い出す。
「僕がチーズレーザーの中に入ったのも、きっと力になれるからなんだ。」
西瓜は自分の精神がチーズレーザーの中に入ったことが戦いにおける運命だと悟っていた。
「チーズレーザーが俺のやりたいことを見つける……、」
「チーズレーザーが僕の変われる……、」
「「きっかけになれば……!」」
雪大と西瓜は、チーズレーザーが自分自身にとっての転換点になることに一縷の望みを抱いていたのだった。
一方その頃、ダークビタビターズではケールスとゴーヤイドがチーズレーザーについて話し合っていた。
「あのチーズレーザーとかいう戦士、姿と人格を変えやがった。」
「姿はともかく、人格が変わるのは訳わかんねぇよな。」
ケールスはチーズレーザーの人格が変わるということに合点が行かなかった。
「どうする?あのチーズレーザーがこれ以上隠し玉を持っているとしたら……。」
「ああ、戦士共が最初はただの邪魔者だと思っていたがこれ以上は厄介だな……。」
ケールスとゴーヤイドは戦士をより危険視するようになっていた。しかしそんな二人に、新たな怪物が現れる。その怪物は黒ずくめでスタイリッシュな見た目をしていた。
「隠し玉を持っているのは戦士だけじゃないだろ。」
「ディフィート!」
ケールスはその怪物をディフィートと呼ぶ。
「人が負けた時の嫉妬、それは大いなる悪意になる。俺に任せれば戦士共など一網打尽だ。」
ディフィートは自分が人間界に行くと言う。ディフィートは自分の力に自信を持っているようだった。
「ディフィート、お前の力を見せてくれ。」
ケールスはディフィートに望みを託し、ディフィートは人間界に赴くのだった。
その週末、雪大はいつものようにコンビニの前に座り込み買い食いをしていた。そこに西瓜が通りかかる。
「あ、雪大さん。」
「お、西瓜か。」
雪大と西瓜は偶然の再会に喜ぶ。そして西瓜は雪大の隣に座り込む。
「元気してたか?」
「はい、お陰様で。」
雪大は西瓜に話しかける。しかし二人はそれぞれ暗い感情を抱えたままだった。
「俺さ、学校をサボっている間に風紀委員にさせられたんだよ。」
「風紀委員ですか?」
「そう、酷い話だよなぁ。俺に一番向いてねぇ委員会だろ。」
「そう、ですかね……?」
雪大は風紀委員にさせられたことを西瓜に話す。西瓜は苦笑いしながら答える。
「一緒にやってる奴らもやりづらくてなぁ。あんまり喋らねぇクラスメイトに隣のクラスの奴は小うるせぇガキみたいな奴だしよぉ。」
「それはちょっとやりづらいですね。」
「そうだろ?」
雪大は翼咲と風布花の愚痴も西瓜に溢す。これには西瓜も同意していた。そして二人は会話を続ける。
「お前はどうなんだ?西瓜。」
「そうですね、ちょっと顧問の先生にも学校をサボったことを注意されました。」
「顧問?お前何か部活とかやってんのか?」
「はい、パソコン部です。」
「おお、すげぇじゃん。」
「凄くないですよ、今は部員も僕一人だけになって廃部も決まりましたし。」
「なるほどなぁ。」
「もう学校で心を開けるのは顧問の先生だけになってしまって。このままじゃ中学校に上がっても誰にも頼れなくなるからいけないってことはわかるんですけど。」
西瓜は雪大に悩みを打ち明ける。西瓜が学校で心を開けるのがパソコン部の顧問の栗崎だけになっていること、このままでは小学校を卒業した後が心配であることを雪大に明かしていた。
「そうか、俺も似たような感じだよ。」
「雪大さんも?」
「ああ、俺も学校をサボったことを姉ちゃんに心配されてな。今は自分が何をしたいのかわからないって答えた。」
「そうなんですか……。確かに僕達、似ていますね。僕も顧問の先生に変われるきっかけを見つける時間を下さいって言いました。」
「そうか……。」
雪大と西瓜は互いに見つけるものがあることを明かす。そんな二人はより互いに親近感を覚えていた。
雪大と西瓜が仲を深めている頃、ダークビタビターズのディフィートはとある受験発表の場を訪れていた。
「よし、今年こそ合格するんだ……。」
ある男子学生のような風貌の男性は両手を握り締めて合格した受験番号が貼り出されるところを待っていた。
「ほぉ、合格発表とな。これはいいものが見られそうだ。」
ディフィートはその合格発表の場に期待をしていた。そして受験番号が貼り出される。
「2599……、2599……、ない!」
しかし男性の受験番号はなく、男性は絶望してしまう。
「来たか!」
ディフィートは勝機を見出したように男性に歩み寄り、話しかける。
「なぁお前。」
「何ですか?……って化け物!」
「いいから。今どんな気持ちだよ?」
「えっと、今まで頑張って来たのにこんな呆気ない結果になって絶望っていうか……。」
「ということはつまり?」
「え?」
「だからどうなって欲しいんだよ?」
「えっと、この世界なんか消えて無くなってしまえ!」
「頂きました!」
ディフィートは男性から悪意を引き出し、男性の頭に手を翳す。
「その悪意、今こそ解放しろ。」
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
男性の頭に黒いオーラが広がり、中からマリスが現れる。
「いいな、これがこいつの悪意から産まれたマリスか。」
そしてディフィートはマリスを連れて街へ繰り出すのだった。
一方その頃、街へお出かけしていた千須佳。そんな時街で人々の悲鳴が聞こえる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「嘘、またダークビタビターズ?」
悲鳴を聞いた千須佳は急いで走り出す。
「うわ、また暴れてる。」
駆けつけた千須佳はマリスが暴れているところを見つける。そこにアラモードと竹月も駆けつける。
「千須佳さん。」
「また出番みたいだね。」
「アラモードさん、竹月さん。」
アラモードと竹月と合流した千須佳は敵の前に立つ。そして千須佳とアラモードは指輪を嵌めてブレスレットを出現させる。
コンビニで屯していた雪大と西瓜は、それぞれ自身が持っている指輪が光っていることを確認する。
(うお、また怪物が現れたのか?)
(どうしよう、雪大さんもいるのに……。)
二人は焦ってしまう。そして互いに見つめ合って苦笑いする。
「「へへへ~。」」
「西瓜、何かよくわかんねぇけど怪物が出たらしいな。」
「そ、そうみたいですね。」
「ここは危険だから俺はこっちから逃げる!」
「それでは僕はこちらから逃げます!」
二人は互いに逆方向を指差して逃げ出す。
(西瓜に見られないところで指輪を嵌めないと!)
(雪大さんに見られても説明できないよ~!)
二人はそう思いながらそれぞれコンビニの後ろの角に隠れ、左手の中指に指輪を嵌める。すると二人の指輪は消え、二人の体は魂が抜けたように倒れ込む。
「エルフ!ダイヤモンド!チーズケーキ!」
「ゴブリン!オパール!パフェ!」
千須佳とアラモードの二人はそれぞれの幻獣、宝石、スイーツを叫び、ブレスレットのダイヤルを回す。そしてブレスレットを胸の前に持って行き構える。
「It’s so sweet!」
「スイートチェンジ!」
「特大爆盛チェンジ!」
二人はブレスレットから流れる音声と共に叫び、ブレスレットのディスクを回す。そして二人は戦士へとその姿を変える。
「濃厚な甘美、チーズレーザー!」
「伝説の甘美、レジェンスウィーテス!」
二人はそれぞれ名乗り、マリスに立ち向かう。
「はぁぁ!」
レジェンスウィーテスが二本のナイフでマリスを斬りつけようとする。しかしマリスは超高速で移動し攻撃を躱す。
「うわ、速っ!」
レジェンスウィーテスはマリスの超高速移動に翻弄されてしまう。
「今度は私が!」
チーズレーザーはそう言ってレーザー銃を持って構える。そして神経を集中させてマリスを撃ち抜くタイミングを伺う。
「今だ!」
チーズレーザーはマリスに向かってレーザー光線を放つ。しかし見事に外してしまう。今度はマリスが超高速で移動しチーズレーザーとレジェンスウィーテスに攻撃する。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」
チーズレーザーとレジェンスウィーテスは倒れ込んでしまう。そんな二人の前にディフィートが立つ。
「こいつは試験に落ちた奴の悪意から産まれたマリスだ。受験生は時間を大事にするからな、マリスも速く動ける奴になったんだろ。」
「また新しい幹部?」
「ああ、俺の名はディフィートだ。」
「ディフィート?負けるって意味……、苦い経験ってことか。」
ディフィートは余裕気に自己紹介をする。そしてチーズレーザーが絶望に伏しそうになった時、千須佳の頭の中から雪大が話しかける。
「ちょっとお姉さん、まだ絶望するには早いっしょ。」
「誰?別の人?」
「こっちは戦いの度に呼び出されて体を置いて来てんだよ、勝手に負けられちゃ困るぜ。」
「そっか、強制的に幽体離脱させられてるんだもんね。ごめん。」
「別に謝らなくていいだろ、世界を守るんだからいつだって駆けつけてやるよ。それより負けそうなら俺が代わるぜ。」
「……わかった、任せるよ。」
雪大は自分が代わると提案する。千須佳は真剣な目つきになりその提案を受け入れる。
「ダイヤルはどの色に合わせればいい?」
「俺は、多分青だ!」
千須佳は雪大に何色のところにある矢印に合わせればいいか尋ね、雪大は自身が持つサファイアの指輪を思い浮かべ青色と答える。
「いい?幻獣と宝石とスイーツだからね、声を合わせるよ!」
「ああ、とっておきのがあるぜ!」
チーズレーザーは立ち上がり、ダイヤルに手を添える。
「「ビッグフット!サファイア!ソーダフロート!」」
千須佳と雪大の二人はそう叫びダイヤルを青色のところの矢印に合わせる。
「It’s so sweet!」
「「シュワシュワチェンジ!」」
ブレスレットから流れる音声と共にチーズレーザーはブレスレットのディスクを回す。するとチーズレーザーはまた新たな姿へと変わる。
チーズレーザーの新たな姿は青地のスーツの上に白いファーで覆われ、大きな二本角が生えた帽子を被ったヴァイキングのような見た目をしていた。そして左手の中指にはサファイアの指輪が嵌められている。
「よっしゃー!俺も遂に戦士だぜ!」
「また姿が変わっただと⁉」
チーズレーザーとなった雪大は喜ぶ。ディフィートはチーズレーザーの新たな姿に困惑してしまう。
「ええい、構うものか!行けマリス!」
ディフィートは困惑しながらもマリスに攻撃するよう命じる。マリスは再び超高速で動き出す。
「またちょこまか野郎に翻弄されるのはごめんだぜ。」
チーズレーザーはそう言うと背中に弓矢を携えていることに気づく。
「ん、弓矢か?そうか、俺が弓矢ということは……。」
「何?弓道でもやってたの?」
雪大は弓矢を装備していることに親和性があるような口振りを見せる。千須佳はてっきり雪大が弓道を嗜んでいるのかと思い込む。
「いや、全くやったことはねぇ。」
「何さもう!」
しかし雪大は弓矢を握るのが初めてで、千須佳は愕然とする。
「けど、こいつは相性がいいはずだぜ!」
雪大は何故か自信を持ち、弓矢を持って引いたまま目を瞑る。
「感じるぜ、あの怪物が吹き起こす冷たい風を……。」
チーズレーザーはマリスが超高速移動をしている時に吹き起こる風を感じていた。そしてその風を読み解き、目を開く。
「今だ!」
その叫びと共に矢を放ち、マリスに命中させる。矢が貫かれたマリスは怯んでしまう。その隙を逃さず、チーズレーザーはマリスに駆け寄り持ち上げて投げ飛ばす。その力は今までにないほどの怪力だった。
「何だこの腕力、他のチーズレーザーの姿よりも遥かに強い力だ!」
チーズレーザーは自身の腕力の強さに感動する。
「おのれ俺のマリスが!」
ディフィートはマリスの超高速を破られたことに憤慨する。
「相手が悪かったなぁ。チーズレーザーは姿を変えることで戦術を変える戦士、この姿の時はチーズレーザー・パワーアローと呼べ!」
「おのれチーズレーザー・パワーアロー……!」
雪大は弓矢でディフィートを指し、自身をチーズレーザー・パワーアローと名乗る。
「あ、あの!」
「お、何だ少年?」
ここでチーズレーザーの頭の中から西瓜が話しかける。
「僕にもその……、世界を守らせてもらえませんか?」
「ああ、いいぜ!」
西瓜は勇気を振り絞って戦いに出る意志を伝える。雪大も賛同してブレスレットのダイヤルに手を添える。
「矢印はどの色だ?」
「えっと、多分緑です!」
「わかった、声を合わせるぞ!」
「はい!」
雪大は西瓜に合わせる矢印の色を尋ね、西瓜は自身のエメラルドの指輪を思い浮かべて緑色と答える。そして西瓜はチーズレーザーと声を合わせる。
「「ワイバーン!エメラルド!ホイップメロンパン!」」
そう叫んだチーズレーザーはダイヤルを回す。
「It’s so sweet!」
「「キラキラチェンジ!」」
ブレスレットから流れる音声と共にチーズレーザーはブレスレットのディスクを回す。するとチーズレーザーはまた新たな姿へと変わる。
チーズレーザーの新しい姿は袖や裾が破れた緑色の繋ぎを着ているような戦士だった。そして左手の中指にはエメラルドの指輪が嵌められている。
「凄い……!これがチーズレーザー!」
「また変わっただと⁉どれだけ変わる気だ!」
ディフィートは再び姿を変えるチーズレーザーに憤慨する。しかしチーズレーザーは不敵に立ち、手から巨大な緑色の星型手裏剣を召喚する。
「はぁぁ!」
チーズレーザーはディフィートに向けて手裏剣を複数投げる。手裏剣はディフィートを斬りつけた後ディフィートの周りを飛び回る。
「行きます!」
チーズレーザーはそう言うと飛び回る手裏剣を踏み台にしてディフィートの飛びかかる。それをトリッキーに複数回続け、ディフィートは翻弄されてしまう。
「くそっ、何なんだこの攻撃は!」
「言ったはずだよ、チーズレーザーは戦術を変える戦士だって。この姿の時はチーズレザー・トゥインクルカッター!」
チーズレーザーは自身をトゥインクルカッターと名乗る。
「やるじゃねぇかお前、もう一度俺に代われ!」
「はい!」
雪大はチーズレーザー・トゥインクルカッターの強さに感心し、もう一度自身に交代するよう言う。そしてまたダイヤルを回し、ディスクを回す。
「「シュワシュワチェンジ!」」
チーズレーザーはもう一度パワーアローに変わり、マリスの前に立つ。
「止めだ!」
チーズレーザーはまたディスクを回して力を溜め、マリスに向かって弓矢を引く。
「秘弓・氷雪の一射!」
チーズレーザーは矢を放つ。矢は氷を纏ったように硬くなり、マリスを貫く。射貫かれたマリスは消滅してしまう。
「くそっ!ここは一時撤退だ!」
ディフィートは劣勢になったことを感じ、人間界を去る。
「終わったか……。」
戦いを終えたチーズレーザーは左手の中指に嵌められているサファイアの指輪を外そうとするが、少し止まる。
「お姉さん。」
「何?」
雪大はふと、千須佳に話しかける。
「お互いの正体だけど、明かすのはまた今度にするか。」
「あ、いいけど……?」
そう言ってチーズレーザーは指輪を外す。そしてチーズレーザーは千須佳の姿に戻り、手にはダイヤモンドの指輪が握られていた。
「サファイアに、エメラルド……。」
千須佳は新たに現れたサファイアとエメラルドの指輪のことを呟く。そこにアラモードと竹月も合流する。
「千須佳さん、お疲れ様でした。」
「また新しい姿になったね。」
「はい、お陰様で。」
千須佳は新しい姿になった情報量に圧倒され、すっかり疲れてしまうのだった。
「ん~!」
雪大は精神が体に戻り、目を覚ます。しかしそこはどこかの休憩室のようだった。
「あ、目覚めました?」
「あ、はい……。」
雪大に声を掛けたのは屯していたコンビニの店員だった。どうやら雪大は倒れ込んでいる間、コンビニの休憩室のベッドに運ばれていたようだった。
「全く、あなた達がお店の近くで倒れていたから心配しましたよ。これから店内でお会計を済ませたら速やかにご帰宅して下さいね。」
「あ、すんません……。」
雪大は店員に叱責され謝る。しかし雪大はあなた達という言葉が引っ掛かってしまう。ふと雪大が隣のベッドに目を配ると、そこには西瓜がいた。
「お、西瓜もいたのか。」
「雪大さんも。」
二人は互いにコンビニの近くで倒れていたことに驚くが、ふと互いの左手の中指に嵌められている指輪が目につく。
「西瓜、お前のそれってエメラルドの指輪?」
「雪大さんのももしかしてサファイアの指輪?」
二人は互いの指輪を見てあることを察する。そして二人は微笑み合う。
「「ははははは!」」
「何だよ西瓜、お前がさっきの手裏剣投げてた奴か!」
「雪大さんこそ、弓矢の使い手だったんですね!」
二人は互いにチーズレーザーとして戦っていたことを知る。そのことが二人にとって嬉しかった。
「ちょっと、うるさいですよ二人共!元気になったなら帰って下さい!」
「「あ、すみません……。」」
二人は店員に怒られ、急いでコンビニを出る。
二人で一緒に帰っている時、雪大は西瓜にあることを提案する。
「なぁ西瓜。」
「はい?」
「チーズレーザーの正体がわかるまで、このことは俺達二人だけの秘密にするか。」
「そうですね。学校の人は勿論、家族にも言いません。」
二人は共にチーズレーザーとして戦う仲間であることを秘密にすることを提案する。西瓜もその提案に乗り、こうして雪大と西瓜は二人だけの秘密を持つのだった。




