第二話 先輩の一番苦いところ
どこにでもいるはずの女性、桜江千須佳は仕事で上司に怒鳴られるような生活を送っていた。そんな時、悪の組織ダークビタビターズが現れ窮地に陥る。しかし指輪の戦士に助けられ、自身もダイヤモンドの戦士の資格があると告げられる。流されるまま戦士となった千須佳だったが、今度は頭の中に声が聞こえるようになる。その内なる声に振り回されながらも初陣を飾るのだった。
「戦闘中に声が聞こえる、ですか……。」
「不思議だねぇ。」
千須佳は仲間である双見アラモードと三浦竹月に、頭の中に聞こえた声のことを話す。二人は不思議そうに千須佳の話を聞いていた。
「前例ってないんですか?」
「いえ、今までの戦いでもそのようなお話を伺ったことはありません。」
千須佳は竹月に前例がないのか尋ねるが、竹月も今までの戦いで前例を聞いたことがなかった。
「千須佳ちゃんが霊感強いだけじゃない?」
「霊感?もしかして幽霊ってことですか?」
アラモードは千須佳が幽霊の声を聞こえるようになっただけだと話す。
「幽霊って、今までのダイヤモンドの戦士の霊魂が私に宿ったとかそういうことですか?」
「いえ、その可能性はないですね。」
千須佳は前のダイヤモンドの戦士の霊魂が宿ったのかと考えるが、竹月はその可能性がないと考える。
「歴代のダイヤモンドの戦士は皆ご存命です。初代の方だけ亡くなったと伺っておりますが、亡くなられる前に戦士を引退されたので今更霊魂として現れるということはないでしょう。」
「そうなんですか……。」
「はい、それに一人だけならまだしも四人もいるとなるとまた別の線を考えた方がいいでしょう。」
竹月はダイヤモンドの戦士で亡くなった者が少ないことから、歴代のダイヤモンドの戦士の霊魂という線はないと考えていた。
「そうなると、全然関係ない野良の幽霊ってことかな?」
「そうですね、指輪の戦士と関係のない野良の幽霊と考える方が自然でしょうか。」
「野良の幽霊って何ですか……?」
アラモードは指輪の戦士と関係のない野良の幽霊が憑依していると考える。竹月もその考えに賛同するが、千須佳は野良の幽霊という聞き慣れない言葉に戸惑う。
「でもまあ別に戦えてなかったわけじゃないし、世界を守れるなら幽霊に取り憑かれるくらい安いもんでしょ。」
「えぇ……、そんな殺生な……。」
アラモードは千須佳の幽霊問題を特に気に留めていなかった。千須佳はそんなアラモードの態度に冷たさを感じていた。
「はぁ……、この先やって行けますかね?」
「大丈夫だと思いますよ。」
千須佳はこの先の戦いに不安を感じていた。そしてふと思った疑問を竹月に投げかける。
「ところで竹月さん、指輪の戦士って悪の組織が産まれる度に対抗する力も変わるんですよね?」
「はい、私達がダークストーリーズと戦った時の力は星座と宝石と童話、三年前にダークサイレンスと戦った戦士の力は花と宝石とダンスでした。今回の千須佳さん達の力は幻獣と宝石とスイーツのようですね。」
「スイーツって、本当に勝てるんですか?」
「指輪の宝石が選んだ力です。その力に間違いはありません。」
「なるほど……。」
千須佳は今回、ダークビタビターズに対抗する力がスイーツであることに不安を感じていた。そして千須佳はまたもパフェを食べるアラモードに目を配る。
「まあ、アラモードさんとは親和性高そうですよね……。」
「はい、アラモードさんは甘い物がとても好きな方ですので。」
「好きの常軌を逸してますけどね。」
千須佳は異常なまでのアラモードのパフェ好きに呆れてしまうのだった。
それから休日が明け、千須佳はまたいつものように仕事に励むが戦いのことで頭がいっぱいだった。
「はぁぁ……。」
「手が止まってるぞ、桜江。」
「あ、すみません苦木先輩。」
千須佳の後ろを先輩社員の苦木流馬が通りかかり、千須佳に声を掛ける。
「最近ちょっとごたごたしたことがあって。」
「そうか、お前も大変だな。」
「苦木先輩も?」
「まあ、大したことはないがな。」
千須佳は流馬に戦いのことで余裕がなかったことを吐露する。すると流馬も何か日常生活で大変なことがあったようなことを話す。
「まあ、お互い頑張ろうな。」
「はい、苦木先輩。」
千須佳は流馬に励まされ、元気を取り戻す。
「苦木君、ちょっとこっちへ。」
「はい、部長。」
そんな時、流馬は上司である部長に呼ばれる。
「これはどういうことかね!先月から君がリーダーを務める案件の進捗が芳しくないそうじゃないか!」
「申し訳ございません、メンバーも他の案件で忙しいみたいで。」
「言い訳は聞きたくないのだよ!この事態をどうするつもりかね!」
部長は流馬に怒鳴り散らす。しかし流馬は動揺する様子を見せず、真剣な眼差しを見せる。
「早急にメンバーを招集し、スケジュール管理のための会議を開きます。作業の時間は必ずあるはずなので、きっと間に合わせます。」
「そうか、頑張りたまえ。」
「はい。」
流馬の返答に、部長は怒りが和らぐ。流馬の爽やかとも取れる態度には上司の怒りが和らぐことも度々あった。
「やっぱり凄いな、苦木先輩……。」
千須佳はそんな流馬を見て憧れを持っていた。千須佳は流馬に助けられたことが何度もあったからだ。
「いつか私も苦木先輩みたいにならないと。」
そんなことを思いつつ、千須佳は仕事に打ち込むのだった。
それから流馬はお手洗いに行くが、洗面台で鏡に向かいながら台を大きく叩く。
「あ〜くそっ!何で俺が怒られなきゃいけねぇんだ。誰も俺のスケジュールを守らねぇのが悪いんだろ。」
流馬は自身を怒った部長への不満を漏らしていた。流馬は人前で爽やかに振る舞う分、裏では気性の荒い性格だった。
「桜江の奴もいつまでもできない社員でいられると思うなよ。毎回怒鳴られやがって、いい加減にしてくれよ。」
流馬は千須佳に対しての不満も漏らす。流馬は千須佳が新入社員の頃に教育係を務めていたが、いつまでも成長しない千須佳に痺れを切らしていた。
流馬はふとポケットに手を突っ込み、ルビーの指輪を取り出す。実は流馬がルビーの指輪の持ち主で、千須佳がチーズレーザーになっている間に聞こえていた声の一人、成人男性のような声の主だった。
「そう言えばこの指輪を嵌めたからだよな、変な戦士の中に入り込んだのは。」
流馬はチーズレーザーの中に入っていた記憶はあったが、その間は身動きが取れない状態で、チーズレーザーの正体が千須佳であることも無論知る由もなかった。
「チーズレーザー、もし俺があの戦士になることができたら好きに暴れられるのか……?」
流馬はチーズレーザーが戦っていた様子を思い出し、暴れたい衝動に駆られるのだった。
一方その頃、ダークビタビターズではケールスがゴーヤイドに戦士が増えたことを明かしていた。
「戦士が増えただと?」
「ああ、それにあんなに沢山産み出したマリスも一人残らずやられちまった。」
「マジかよ……。」
ゴーヤイドはケールスの話から、戦士を警戒する。
「どうする?ゴーヤイド。」
「仕方がねぇ、こうなりゃ数より質だ。」
ゴーヤイドはケールスのようにマリスを沢山産み出すよりも、強いマリスを産み出すことを考える。
「次は俺が行く。次こそは俺が戦士共を一網打尽だ。」
ゴーヤイドはそう言って人間界へ赴くのだった。
その夜、千須佳はふとダイヤモンドの指輪を嵌める。そして現れたブレスレットのダイヤルを見てあることが気になる。
「そう言えば、他の矢印って何なんだろう……。」
千須佳が気になったのは他の矢印についてだった。千須佳はチーズレーザーになる時に銀色の所にある矢印に合わせていたが、他にも赤、青、緑、白に分かれ、それぞれに矢印が描かれていた。
「何か良い能力とかあるといいな……。」
千須佳は他の矢印に特別な能力があることを祈るばかりだった。
明くる日、ゴーヤイドは人間界に行き、街をふらついていた。
「よーし、強いマリスを産み出すためには強い悪意を持った人間を探さないとな。」
そう言ってゴーヤイドが街中を歩いていると、刃物を持って暴れる男を見つける。
「うおおおおお!もうどうにでもなっちまえ!」
男は日頃の鬱憤を晴らすように暴れていた。ゴーヤイドはそんな男に目をつけ、腕を掴んで動きを止める。
「お前、その鬱憤を俺が晴らしてやるよ。」
「あ?何だお前は!」
男はゴーヤイドの姿に怒りを覚える。しかしゴーヤイドはそんな男を気に留めることなく男の頭に手を翳し、黒いオーラを出す。
「出でよマリス!」
そして黒いオーラからマリスが現れ、男はその場に倒れ込んでしまう。マリスは日本刀を携え、ケールスが産み出したマリスよりも強そうな見た目をしていた。
「ほぉ、これは中々強そうなマリスだぜ。」
ゴーヤイドはマリスの見た目に満足し、街中で暴れさせるのだった。
一方、千須佳はいつものように仕事に励んでいた。
「はぁ、仕事中にも戦いに行くことがあるのかな……。」
千須佳は仕事中も戦いの連絡が来ないか気が気でなかった。前回の戦いは休日だったから仕事に穴を開けずに済んだものの、仕事中に連絡が来たらどうすればいいのかと悩んでいた。そんな時、千須佳の携帯電話が鳴る。
「うわ、来た!」
着信は竹月からだった。千須佳は恐る恐る電話に出る。
「もしもし竹月さん?」
「千須佳さん、またダークビタビターズが現れました!今から来られますか?」
「あ、はい。行きます……。」
案の定竹月からダークビタビターズが現れたとの連絡だった。千須佳は渋々承諾し、電話を切る。
「もう、やっぱりこうなるんだから!」
千須佳は不満を漏らしながら外回りの準備をする。
「ちょっと外回り行ってきまーす!」
「桜江?」
千須佳は外回りに行くと言って会社を飛び出す。その慌て方に流馬は違和感を覚えるのだった。
「アラモードさん、竹月さん、お待たせしました!」
「千須佳さん!」
「大丈夫、私も今来たところだから。」
千須佳はマリスが暴れる街中に到着する。竹月とアラモードも到着していた。
「行きましょうアラモードさん!」
「うん。」
そして二人は同時に指輪を嵌め、ブレスレットを出現させる。
「エルフ!ダイヤモンド!チーズケーキ!」
「ゴブリン!オパール!パフェ!」
二人はそれぞれの掛け声と共にブレスレットのダイヤルを回して矢印に合わせる。
会社で淡々と業務をこなしていた流馬は、ポケットでルビーの指輪が光っていることに気づく。
「マジか、また戦いかよ。」
流馬は慌ててトイレに駆け込む。
「あんまりトイレに籠もってると思われたくないからな、さっさと片づけてくれよ。」
トイレの個室に入った流馬はそう言いながらルビーの指輪を嵌める。するとルビー指輪は消え、流馬の体は魂が抜けたようにぐったりしてしまうのだった。
流馬の分離した精神は千須佳の体の中に入る。
「It’s so sweet!」
「スイートチェンジ!」
「特大爆盛チェンジ!」
そしてブレスレットから音声が流れ、二人はその掛け声と共にブレスレットのディスクを回し、戦士へとその姿を変える。
「濃厚な甘美、チーズレーザー!」
「伝説の甘美、レジェンスウィーテス!」
二人の戦士はそれぞれ名乗り、マリスに立ち向かう。
「はぁぁ!」
チーズレーザーはマリスの間合いを取り、レーザー光線を放つ。しかし、マリスは日本刀でレーザー光線を振り払う。
「嘘、強いんだけどこのマリス!」
「私が行く。」
チーズレーザーは日本刀を使うマリスの強さに驚く。レジェンスウィーテスは自分が行くと言い、立ち向かう。
「はぁぁ!」
レジェンスウィーテスは二本のナイフを逆手に持ってマリスに斬りかかる。しかし、マリスの日本刀は強く、逆に斬られてしまう。
「くあぁぁ!」
「大丈夫ですか⁉」
レジェンスウィーテスは吹き飛んでしまう。レジェンスウィーテスを心配するチーズレーザーだったが、そこに後ろからゴーヤイドが飛びかかる。
「隙だらけだぜ!」
「え、何?」
チーズレーザーは突然飛びかかって来たゴーヤイドに驚くが、前回の戦いで現れたケールスと違うことに気づく。
「また幹部?しかもこの間の奴と違う!」
「ああ?俺はゴーヤイドってんだ。この間世話になったのはケールスだ!」
「ケールにゴーヤ?苦いんだけど!」
チーズレーザーはダークビタビターズの幹部が苦い物に因んでいることに気づく。
「ていうかそんなことはどうでもいい!早くマリスを倒したいんだから邪魔しないで!」
「うるせぇ!」
チーズレーザーはさっさとマリスを倒したい一心でゴーヤイドに攻撃するが、ゴーヤイドには歯が立たない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
チーズレーザーはたちまち返り討ちに遭ってしまう。
「くっっ……!」
チーズレーザーは地面に這いつくばってしまう。そんな時、流馬が千須佳の頭の中から話しかける。
「おい、何やってんだよ!こっちは忙しいんだから早くしろよ!」
「わかってるよ!こっちだって仕事抜け出して来てるんだから!」
流馬は千須佳に急かすようなことを強い語気で言うが、千須佳も仕事を抜け出している身なので気が立っていた。
「うるせぇなこんな体たらくで。俺が代わってやろうか?」
「できるならしたいよ。」
流馬は自分が交代することを提案するが、千須佳はできないと一蹴する。しかし千須佳はふとブレスレットを見つめて、あることに気づく。
「もしかして、ダイヤルを別のところに合わせれば……!」
「それだ!やってみろ!」
千須佳はずっと気になっていたブレスレットの矢印の数に何か秘密があるのかと考える。流馬も賛同し、やってみるように言う。
「何色のところの矢印に合わせればいい?」
「何色?そうだなぁ……。」
千須佳は流馬に、合わせる矢印が何色なのか尋ねる。流馬もわからなかったが、ふとルビーの指輪を持っていることを思い出す。
「……赤だ、赤に合わせろ!」
「わかった。いい?幻獣と宝石とスイーツだからね、声を合わせるよ!」
「ああ!」
流馬は赤色のところにある矢印にダイヤルを合わせるよう言う。そしてチーズレーザーは立ち上がり、ダイヤルに手を添える。
「「ユニコーン!ルビー!ティラミス!」」
千須佳と流馬は幻獣、宝石、スイーツを叫ぶとダイヤルを赤色のところの矢印に合わせる。
「It’s so sweet!」
「「ほろ苦チェンジ!」」
ブレスレットから音声が流れ、チーズレーザーは勢いよくディスクを回す。そしてチーズレーザーは姿を変える。
チーズレーザーのその姿は白地に赤いラインが入った侍のような和装で、髪も黒く後ろに長く結われていた。そして左手の中指にはダイヤモンドではなくルビーの指輪が嵌め込まれ、腰には日本刀を携えていた。
「……交代できたか。やればできるもんだな。」
「凄い、本当にできるんだ……!」
チーズレーザーは流馬のような口調になり、千須佳は頭の中に聞こえる声となっていた。
「それにしても女の体か、やりづらいな。」
「ちょっと、変なところ触らないでよ。」
「触るか!」
流馬は改めて女性の体にいることを実感する。千須佳は流馬に、体に触らないよう注意する。
「行くぜ!」
そう言ってチーズレーザーはゴーヤイドに向かって走り出し、腰の日本刀を引き抜きその勢いでゴーヤイドを斬りつける。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゴーヤイドはチーズレーザーの攻撃に怯んでしまう。
「おらぁぁ!」
そしてチーズレーザーは乱暴にゴーヤイドに日本刀を叩きつける。
「あの戦い方、千須佳さんではない……?」
遠くから戦いを見ていた竹月は、チーズレーザーの戦い方が千須佳と違うことを感じ取っていた。
「何だよ、姿が変わったかと思えば人が変わったように乱暴になりやがって!」
「ああ、こういう仕様の戦士なんだよチーズレーザーっていうのは。この姿の時はチーズレーザー・アタックソードと呼べ。」
「おのれチーズレーザー・アタックソード!」
ゴーヤイドもチーズレーザーの人格が変わったことに気づいていた。そしてチーズレーザーはアタックソードと名乗る。竹月はチーズレーザーの元に駆け寄る。
「あの、もしかして例の幽霊の方ですか?」
「幽霊?」
竹月は千須佳から聞いていた幽霊に人格を乗っ取られたと思い込み、話しかける。そしてそれは千須佳も同じだった。
「そうだよ、結局何者なの?」
「幽霊なわけねぇだろ、俺はただのサラリーマンだ。」
「サラリーマン、ですか?」
「ああ、本体はトイレに籠もってんだよ。」
チーズレーザーはサラリーマンと答え、マリスに立ち向かって行く。
「どいてろ!」
チーズレーザーはマリスと交戦中のレジェンスウィーテスをどかしてマリスを蹴り飛ばす。
「あれ、もう新しい姿になれるんだ。」
「ああ、さっさと片付けたくてな。」
レジェンスウィーテスはチーズレーザーの新しい姿に反応を示すだけで、その人格が変わっていることを気に留めなかった。そしてチーズレーザーは日本刀を鞘に納め、ブレスレットのディスクを回す。
「はぁぁ……!」
チーズレーザーは腰を落として構え、力を溜める。
「秘剣・粉塵の舞!」
そしてその掛け声と共に日本刀を引き抜き、粉状の斬撃をマリスに向かって放つ。マリスは体を斬り裂かれ、消滅してしまう。
「粉塵……?あ、ティラミスだからパウダーか。」
「ま、そういうことだ。」
千須佳は粉塵の意味がわからなかったが、ティラミスの力からパウダーのことだと理解する。
「くそっ、俺のマリスがやられやがった。ここは一時撤退だ!」
ゴーヤイドはマリスを倒されてしまい、分が悪くなったので人間界を去ってしまう。
「ふぅ、終わったか。戦いも楽じゃねぇな。」
チーズレーザーはそう言ってルビーの指輪を外そうとする。
「ちょい待ちお兄さん!」
「あ?」
指輪を外そうとした瞬間、頭の中に聞こえる声の一人である若い男性の声が話しかけ止める。
「元に戻る前に自己紹介しようよ、この間はどさくさで教えてくれなかったし。」
「面倒くせぇよ、今急いでんだよ。」
「はぁ⁉」
しかし、流馬は聞く耳を持たなかった。そしてルビーの指輪を外し、チーズレーザーは千須佳の姿に戻る。
「戻った……。」
「大丈夫ですか?千須佳さん。」
「はい、何とか。」
竹月が千須佳に歩み寄り、声を掛ける。そして竹月は千須佳に姿と人格が変わったことを尋ねる。
「千須佳さん、先ほどのは?」
「あ、あれが例の内に聞こえる声の一人っていうか……。」
「ああ、例の奴。」
千須佳はあれが前に話した幽霊と思われる存在だと話す。アラモードも歩み寄り、二人の会話に参加する。
「不思議ですね。」
「はい……。」
竹月は不思議なことだと呟く。そして千須佳も賛同するように頷く。ふと千須佳は手に握り締めている指輪を見る。それは元のダイヤモンドの指輪だった。
「ルビーの指輪を外したはずなのに、ダイヤモンドの指輪に戻ってる……。ルビーの指輪はどこから来たんだろう……?」
千須佳はルビーの指輪についても疑問だった。千須佳はルビーの指輪を持っていないにも関わらず、アタックソードの姿になった時はルビーの指輪を嵌めていた。千須佳はルビーの指輪がどこから来たのかわからなかった。
「……って、そろそろ会社に戻らないと!」
千須佳は漸く仕事を抜け出していることを思い出し、会社に急ぐ。
「すみませんアラモードさん竹月さん、それではここで!」
「はい、いってらっしゃいませ。」
「頑張ってね~。」
千須佳はアラモードと竹月に別れを告げ、二人は千須佳を見送るのだった。
一方、戦いを終えた流馬はトイレから目覚める。
「ふぅ……、一暴れして疲れたぜ。」
流馬は初戦闘の疲れが残っていた。といっても自分の体を使っているわけではないので身体的ではなく、あくまで精神的な疲れである。そして流馬は左手の中指に嵌められているルビーの指輪を見る。
「それにしても、本当に戦士になって暴れられるとはな。」
流馬は戦士になったことを思い出し、暴れたことに快感を覚えていた。
流馬がトイレから戻ってからしばらくすると、千須佳が焦った様子で外回りから戻って来た。
「どうした桜江?外回りが盛り上がったか?」
「いえ、収穫はないのですがちょっとドタバタしちゃって……。」
「そうか、まあ時間は大切にな。」
「はい、すみません……。」
流馬は遅くなった千須佳に軽く注意する。そして千須佳が席に着いた時、流馬と千須佳はそれぞれこっそりと指輪を見つめる。
(まあこんな部下のストレスもこれで解消できる。しかも自分の体を傷つける心配もねぇ。暴れて世界を守れるなら都合が良いな。)
(はぁ、結局交代した人とルビーの指輪は謎のままか……。一体何者なんだろう……?)
二人はそれぞれ心の中でそんなことを考えていた。そして二人は互いにチーズレーザーとして戦った仲間であることは知らないままだった。




