消えない輝き
わかりにくいですが、コンクール後の話に飛ばしました。
前の話を読んでくださってる方、読み飛ばしてないのでご安心ください。
コンクールが終わり、合唱部が部活動の拠点とする部室には新しい写真が増えた。
その写真は泣いたり笑ったり誇らしげな顔をした部員が、全員の力で漸く勝ち取った金のトロフィーと共に撮った素敵な写真だ。
そのとなりにきらきらと輝く金色のトロフィーが飾られるようになり、その輝きを見るたび"夢が叶った”ことが嬉しく思う。
「まさか先生が許可してくれるなんて驚きよね、ダメ元で聞いてみてよかったわ」
「そうだね!でも今日ぐらいはみんなでパーっとやりたかったから嬉しいな!ていうか…お菓子ってこれぐらいでよかった?もっと買った方がよかったんじゃない?!」
「えぇ…?もう充分買ったわよ。寧ろ、なんでもかんでも買いすぎ!少しは自重しなさい...!」
「えぇ岬のけち~。今日ぐらいいいよね、マリっち?」
「こら、結乃! 雨月さんを困らせないの!」
鞠は合唱部の同級生仲良しコンビである夏海と西野のコントのように息ぴったりの軽いかけ合いをみて微笑ましく思いながら、買い出ししたお菓子やジュースが沢山入っているビニール袋を机に置く。
「ふふ、でも 夏海さんのおかげで沢山買えたからよかったわ。少なすぎるとパーティーとはいえないものね」
「だよね!?さっすがマリっち!」
「雨月さんまで……」
実は念願だった1位をとったあとは泣いたり笑ったりとバタバタとしてお祝いらしいお祝いを皆していなかったのだ。
「このままじゃお祝いしないまま三年生は卒業になっちゃうんだけど!?」と夏海さんが気づいてくれて、顧問の先生に私達3人でお願いをしにいったら音楽室でささやかなパーティーを開くことが決定したというわけだ。
三年生は次の文化祭を終えたら受験勉強に本腰をいれはじめる為、部で顔を合わせるのも残り少ない。
せっかくだからお世話になった三年生の先輩に感謝を伝えるサプライズもしたいと思い、二年の先輩にお伺いをたてにいくと先輩達も同じ気持ちだったようでそこからは先輩達を交えてパーティーの日程や準備が本格的に決まっていった。
一年生である私達の仕事はパーティーのお菓子やジュースの買い出しだ。
「でも、まぁ……今日ぐらい楽しまなきゃね。それに先輩方に感謝を伝えたいもの。 さ、早く用意しましょ!先輩方が来ちゃうわ!」
「だねだねっ!皆をびっくりさせるぞー!」
先に来ていた先輩方が用意してくださったデコレーションされた音楽室にお菓子やジュースをパーティー風にセッティングし、先輩方が三年生の先輩方を連れてきてくれるのを楽しみに待つ。
夏海さん提案のクラッカーを一人1個づつ持ちドキドキとしていると、「音楽室でなにがあるの?」と聞き慣れた三年生達の声と共に扉が開かれた。
「「「先輩、コンクールお疲れさまでしたっ!」」」
私達は作戦通りクラッカーの紐をいっせーので引いて三年生を出迎える。
クラッカーの派手な音と共に色とりどりな紙吹雪が舞う、扉を開けた栗崎先輩はわっと驚いた声をあげてから、皆でホワイトボードに書いた『コンクール優勝おめでとう!お疲れ様会!!』の文字を見て嬉しそうな表情を浮かべた。
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「素敵なパーティーを開いてくれてありがとう。このパーティー、雨月さん達が考えてくれたんでしょう?」
皆のもとから少し離れた窓際の席で鞠はひっそりパーティーを楽しむ皆を見ていると栗崎先輩がケーキをよそった紙皿を持って空席だった隣に座る。
「楽しんでいただけてよかったです。私はお手伝いしただけでパーティーをしようと言ってくれたのは夏海さんなんですよ」
「ふふ、聞いたわ。すごく張り切ってたんですってね。雨月さんもありがとう、嬉しいわ。それに先生がケーキを買ってきてくれるなんてびっくり」
「そうですね。しかもチョコレートケーキ……意外な一面でした」
「先生、とっても厳しいものね。そうだ、鍵を返すときに先生にお裾分けしましょうか」
先生も部の一員なんだから、優勝の甘味を味わう権利があるわと笑う栗崎先輩に釣られてくすくすと鞠は笑い「なくなる前に取り分けておきましょうか」と立ち上がった。
「ねぇ、雨月さん 聞いてもいい?」
「はい…?なんでしょうか?」
鞠は呼び止められ、慌てて立ち止まる。
なんだか先輩が真剣な目をしている気がした。
「……どうして雨月さんは合唱部に戻って来てくれたの?」
栗崎先輩が私の目を見て真っ直ぐに問う。
とたんに周りの賑やかな声がどこか遠くに聞こえた。
鞠は姿勢を正し、同じように真っ直ぐに先輩を見つめる。
「…先輩や部の皆さんと同じ夢を私も追いたいと本気で思ったからです」
「先輩がソロを私にと言ってくれたとき、私はずっと先輩に憧れていたので先輩が私を勧めてくださったことが最初は受け入れられなかったです」
「私は栗崎先輩が一番ソロにふさわしいと思っていましたから、ショックでした。先輩が私みたいな一年生にソロの座を奪われても変わらず笑っていたことが……」
「その後、色々と私なりに考えました。答えを見つけるに時間がかかってしまったけれど、漸くわかったんです。先輩はなにも変わってなかったって、……夢を諦めずに真っ直ぐに追い続けている私の憧れた栗崎先輩なんだって」
入部当初は栗崎先輩相手にこんなにはっきりと物を言うことはなかったはずだ。
しかし、コンクールまでの日々を経て鞠も成長した。
もう夜空の一番星を眺めているだけの幼い少女ではなかった。
「私、先輩に憧れるだけじゃなくて、先輩や皆さんと同じ場所で同じ夢を追いたいと改めて思って戻って来ました。何度も先輩の思いを踏みにじってしまい申し訳ありません、そしてありがとうございます」
「私は気にしてないわ。私の方があなたを色々と困らせてしまったわ、ごめんなさい。
……それとね?戻ってきたあとから雨月さん、歌うのが楽しそうに見えてなんだか嬉しかったの」
まるで自分のことのように嬉しそうにしてくれる、栗崎先輩は鞠のことをずっと気にかけてくれていたのだろう。
鞠はそのことが嬉しいがなんだかくすぐったい。
「そうですか?自分では気がつかなかったです。なら、きっと友人のおかげだと思います。彼女が私に音楽の楽しさを教えてくれたから…」
自分では一生懸命で気付かなかったが、もしそうならば
彼女の影響だろう。
でもそうなるのも悪くはない、彼女の愛している音楽を私も愛したいと思うから。
ふわふわとしたあたたかな気持ちで胸がいっぱいになる。
「素直なお友達がいるのね」
「はい。ソロは責任感もあって大変でしたがすごく楽しかったです」
「…ふふ、ソロを貴女に選んだ私は間違いなかったってわね!」
「はい!」
今は歌うことが楽しいだけではなく、鞠は合唱部にいることが楽しいと思えるようになった。
最初はギクシャクしていたメンバーとも、練習を重ねるうちに鞠のコンクールへの思いや目指す気持ちが一緒であることが伝わってからは先輩だけでなく、同学年の友人ができた。
もしかしたら、ここが彼女の言う私が私らしくいられる場所なのかも…。
「でも…」
でもどうして今も彼女と過ごした日々は私のなかでこんなにも強くキラキラと輝いているのだろう?
合唱部での日々はどれも楽しいが、そのことを考えるとどうしても旧校舎にいる友人のことを思い出してしまう。
確かに合唱部は私が私らしくいられる大切な居場所だ。
そこには自分の夢や憧れや仲間もいる。
でも、旧校舎で出会った彼女と共に過ごした時間も私にとっては私が私らしくいられた大切な時間だと思うのだ。
鞠は窓の外にある旧校舎を見て、彼女と過ごした時のことを思い出した。
突拍子もなくおかしなことを言い出す彼女に呆れながらも笑ったこと、やたら機嫌のよすぎる雨のアリア、彼女の細い指が鍵盤を自由に滑るのが美しかったこと。
鞠の記憶や心の中でもう一つの大切な時間だった場所は今でも輝きを失わずにきらきらと宝石のように煌めいていた。
「雨月さん…?」
難しい顔で黙ってしまった鞠を栗崎先輩が怪訝そうな顔で見つめている、鞠はそんな先輩の様子にさえ気付かずに勢いよく頭を下げる。
「ごめんなさいっ、少し大切なことを思い出したので抜けます!」
鞠はそのまま音楽室を飛び出した。
旧校舎へと向かう足は自然と駆け足になっていく。
鞠は今すぐ、彼女に会いたかった。
息をきらしながら旧校舎の中にすべりこみ、旧音楽室の扉をガラリと開けると埃っぽい空気がぶわっと舞う。
「ねぇ!私、鞠よ。いるわよね…?どこにいるの?隠れてないで出てきて…!」
「ねぇ、いるんでしょ…?ねぇ、ねぇってばっ…!!」
鞠が何回も呼び掛けても彼女は現れなかった、最初は彼女のことだから悪戯をしてるのかと思ったがなんだか違う気がした。
「もしかして、いないの…?」
鞠はがらんとした雰囲気の旧音楽室を見渡しぽつりと呟いた。
なんとなく彼女はここにいない、鞠にはそう感じる。
「どこに、行ってしまったの…?ねぇ…ねぇ…っ!!」
「……わ…たしっ…」
鞠は床にへたりと崩れ落ちるように座り込んだ。
彼女はどこに行ってしまったのか、探したくても鞠には検討もつかなかった。
次回は明日お休みし、木曜日に更新予定です。




