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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第十章:光輝の結界、騎士団の進撃
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第35話:涅槃

「へー悦子さんマス焼くのも上手いんすね…?さすがの体幹!」


「違うのよ、これ…不思議よね?普通に焼いてるだけなのに、文字が浮かび上がってくるのよ。昔この辺りで男女の心中事件があって…それからこんな事が起きるみたいなの…『指をさされちゃ 困るよ私、無理に逢うのが 恋じゃもの…』なんてフレーズが流行った時代の事件らしいけど、若い子たちはわからないわよねぇ…?」


炭火に炙られた魚の鱗に、じわじわと康印体の文字が浮かび上がってきたのだ…!それは 『指さしして』 … 『釣りポーズして』 …


『待て待て待て! さされちゃ困るんじゃないのかッ?!魚の腹にファンサの強要が浮き出てるぞ?! これじゃ、実質的に自ら進んで焼かれに来た『自害』じゃねーか! 怖すぎるだろ! どんな判断だッ!?』


「合理的でございます。鱗の色素と熱反応を利用し、全生命をかけてエンターテインメントを追求する特殊進化個体群でございます。これにより、推し活から卒業ライブを経て終活へと生態を変換し、円滑な食物連鎖を実現しているのでございます」


「見て姫、この子は『おいしく食べて』って書いてあるよ! エモ〜い!餅はオープニングアクトでしょ? 二ツ目に魚ときてからの、こっからが本番!メインステージの肉だよ姫!」


黄田君の宣言に、僕の常識は音を立てて崩壊した。


『あれだけの質量の米を食らってなお「前座」だと……!? これがまさに肉を吸い尽くす、本物の肉吸い……! 底なしの食欲、もはや暴食の騎士団だァァァ!』


「そうそう、ちゃんと野菜もたべないとね。はい、BBQセットよ」


「やった~お~にく~!!」


片手で軽々と4人前のBBQセットを持ってくる悦子。


「「「よっしゃ、食うぞ!!」」」


網の上で、赤井が「ハツ(心臓)」を豪快に焼き始める。すると、脂が弾ける音と共に、肉の表面に禍々しくも精密な文字が浮かび上がった。またしてもじわじわと康印体の文字が…!それは 『ハート作って』 …


『ホルモンが『ハート作って』ってだとッ?!……本物の心臓の部位がハートマークを要求してくるのか!? 怖ぇよ! どんなホラー・ファンサだッ!?』


「ほらッ!焼けたよ姫!!あーんして! 『ハート作って』って言われてるから、俺が指でハート作るぜ?!」


「フッ……赤井、熱血すぎて周りが見えていないな。そんな肉のみじゃなく、野菜を入れるのが姫には相応しいだろ?」


「姫、無理しないで~! お腹空いてるけど、僕の分も食べていいよ? ほら、この特大カルビ、僕が半分……いや、四分の一くらいは手伝ってあげるから……っ!」


過剰な騎士団たちによる接待は、まるで盆に集まる親戚のおばちゃんたちによる、愛ゆえの『食べさせ地獄』のようであった――


『……ふふっ、めちゃくちゃだな…でも……』


このカオスなエネルギーが、MIKAとの戦いでささくれ立った心を、不思議と温かく満たしていく。


帰り道、BEVの静かなモーター音と適度な揺れが、心地よい眠りを誘う。


疲労でエネルギ-切れの僕と血糖値スパイクを起こしている黄田君は後部座席でスマホを握りしめたまま、泥のように深い眠りに落ちていった。


「…またみんなで来ようぜ?…姫、楽しそうだったよな。……しかし、ビギーのアレ、どうなってたんだ?水に浮くとか…」


ハンドルを握る青山君が、ルームミラー越しに僕達の寝顔を見て、静かに口角を上げる。助手席の赤井君が、小声ながらも熱っぽく頷く。


「うん…ま、わかんねー事も多いけどよ、姫が楽しいならそれでいいじゃん。色々事情があるかもしれないけど、俺達が支えていけばなんとかなるよな?」


「フッ…ま、そうだな…」


――スチャッ。


トランクで静かなスリープモードのビギーをよそに、Clockはログに記録していた。


『浮上現象は坊ちゃまを水没の憂い無きようにと旦那様が500万円を投じ、極秘裏に成形させた特殊シリカ配合・高撥水高浮力ゴム成形パーツによる物理現象に過ぎません…非合理的でございますが、ボンディング(絆)による相互リンクを著しく阻害し、情緒的パケットを紛失ロストさせる要因となるならば、その事実を隠匿する事こそが高効率でございます』


三河の夜道を走るBEVの車内は、無くなりつつあるバッテリーに反し、いわれようのない充実感に満たされていた…

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