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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第十章:光輝の結界、騎士団の進撃
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第34話:書体

しかし、驚愕はそれだけで終わらない。僕が絶句しているコンマ数秒の間、黄田君の手元にあったはずの巨大な米塊が、シュルリと音を立てて消えた。視界に残ったのは、不自然なほど綺麗に磨き上げられた一本の平串のみ。


「あ、はずれかぁ~残念」


「え、マジか! 俺も早く見たいぜ!…………………ありゃ、はずれだ」


「やれやれ、レディを待たせちゃいけないからな。俺も本気を出すか……………………フン、はずれか」


『……どうなっている!? オレゴンの渦!?時間操作系能力者かッ?! それとも全員胃袋がブラックホールと直結しているのかッ?!』


白手袋の手つきも鮮やかに、Clockがナイフとフォークで五平米餅をミリ単位で一口大に整えていく。


「さぁ、坊っちゃま。……切り分けさせていただきます。温かいうちにお召し上がりください」


「あ…これって…」


Clockのセンサーが一瞬、警告の赤に染まる。そこには、丁寧な焼印で刻まれた、呪いのように禍々しい康印体(こういんたい)の文字…


『 あ た り 』


一文字ずつが血を流しているかのように歪み、平串そのものが古の呪具のような禍々しいオーラを放っている…!!


「すげぇ……。味多の五平米餅、三千本に一本と言われる伝説の半田ゴテ焼きのあたりだぜ…?それを一口目で引き当てるなんて、やっぱり姫は、持ってんな!」


「……フッ。姫なら当然だな」


『……ッ!! 昭和の印鑑か、さもなくば呪物の封印かッ!? ゾッとするほどホラーな書体だぜ……ッ!!』


僕が一人で戦慄している間にも、騎士団の面々は「エモいな~これ!」「SNS映え間違いなしだぜ!」と、呪いの刻印をスマホで連写し始めた。


「え…エモい…の?」


「…照合…解析完了。…この康印体、かつて放送メディアや書籍での扱いは恐怖や権威の象徴でございましたが、現在のZ世代には「丸みがあってエモい」「レトロかわいい」との評価のようでございます。坊っちゃま、情報のアップデートを推奨いたします」


「…あらやだ…あたりが出たのね? アンコールよ。もう一枚ね!はい!ファンサよ!?」


ビターンッ!!と豪快に皿に置かれるも形を崩さない。


『なにッ!!景品とかじゃないのかッ?アンコールって何だッ!? ライブ会場かッ!? この巨大な質量、どうみても一枚で僕の一日摂取カロリーの限界点を超えてるぞッ!!』


「じゅるり……。いいなぁ、姫……」


「えぇ…もう…おなかいっぱいだから…き…黄田君、食べる…?」


「えっ!? いいの!?ワーイ!じゃあ遠慮なく!!…あ、またはずれかぁ、残念だね~姫」


『なッ!?もう串になっているだとッ?!今度は見ていたぞ(・・・・・)?!いつ食べたッ?!残念とは何だッ! まだいけるのかァ!? 行きの車内で食べてた量を足したらどう考えてもお前の腹は、すでに限界突破してパンパンのはずだぞ!!』


釣り竿を構える青山が不敵に口角を上げた瞬間だった。正午の訪れを告げる古い電子音のメロディーが、渓谷周辺のスピーカーから響き渡る。特有の歪んだエコーを伴って、その音色はどこか現実離れした響きで周囲の空気を震わせた。


「フッ……そろそろ俺の鮎釣りスキルを披露する時間が来たようだ……」


「マスター、この渓谷に生息するレインボーマスは、七色に輝くゲーミングフィッシュとして地元で有名だよ!!ブォォォォン!!」


「…そうなの?……け…渓谷っていろんな生き物が…いるんだね……」


そうだぜ姫、と赤井が笑いつつ俺は素手でいくと支度をし、黄田は「僕は食べる専門だけど手伝うよ〜!」と網を準備する。


一同が川に到着すると、清流はクリスタルのように輝いていた。僕が思わず川面を指さした瞬間――水面がド派手な7色に爆発した…!


『なんだッ!? 光輝いているぞ!? これがレインボーマスかッ!?』


「マスター、乗って!!ケーミッシュワイヤーの加護で、信じる心があれば水上も歩けるよ!!ブォォォォン!!」


「ビ…ビギー?……ちょっとまって…うわっ…すごい…」


おっかなびっくり跨った僕の予想を、ビギーは鮮やかに裏切った。重量級の内燃機関が、水面に触れた瞬間に「シュン……」と澄んだ高音へと変調する。柔らかな特殊ゴムに包まれた鉄の蹄が水面に触れた瞬間、波紋は黄金の光を帯びて広がり、ビギーの巨体は沈むどころか、吸い付くように水の上で静止した。


『……なんだ……ッ!? この挙動ッ!! いつもの「最大積載量ギャルだけ」とか「精神攻撃」とか喚いているハルシネーション全開のバグまみれな姿はどこへ行ったんだッ!? 動きに一切の迷いがない……ッ! 賢い……賢すぎるぞ、今日のビギー!!最高の相棒だぜッ!!』


「合理的判断をいたします。坊ちゃまの生存確率を最優先に演算、ビギーの持つ静電容量形近接センサーのみでは指定のプロトコル達成確率62%と判断。磁気近接・誘導形近接・RADAR・LiDAR全階層起動。

ビギー、貴方のスキャナーが捉えたノイズ混じりの低解像度映像を、私の量子演算ユニットで再構成レンダリングいたします。リンク受け入れ待機を。優先解放ポート:Protocol-Family……量子通信、同期開始(シンクロナイズ)。」


その瞬間、Clockの関節部や装甲の隙間から、網膜を焼くような鮮やかな七色のLED光が溢れ出した。暗い渓谷の霧を切り裂き、水面を虹色に染め上げる…!


「ありがとうClock!Protocol-Family、リンク完了!いくよマスター、追い込み漁だよ!!ブォォォォン!!」


僕達が水上から指をさすたびに、魚たちもゲーミングPCのような発光を放ちながら、バックステップで跳ね上がる。そのビートはまるで音ゲーのようなBGMを奏でる。


「流石だぜ、お前達!…よし、姫!俺達のユニゾンでクールに決めるぜ?」


青山君がクールに竿を振るたび、七色に輝くSSR発光体は続々と水揚げされていった!!


一方で、赤井君と黄田君はまさかのボウズ。


「くそぉ! 俺の熱血ハンドパワーが届かねぇ!」


「僕の食いしん坊パワー、魚にバレてるのかなぁ……」


「まぁ!たくさん釣れたのね?ちょっとまって、今焼いてあげるわ」


やがて、河原で青山君が釣った獲物を悦子さんが焼き始めると、真の恐怖が僕を襲った――

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