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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第十章:光輝の結界、騎士団の進撃
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第33話:行楽

僕は事務所の休憩室で、スマホを握りしめ苦悩していた。


『……MIKAを倒したのか……!? だが、これで本当に正解だったのだろうか…? 今、騎士団に守られているこの安らぎより……あの女の毒にまみれた言葉こそが、俺を『真の強さ』へ導いていたんじゃないのか……!?」


「なぁみんな!次の休みはキャンプ行こうぜ!?毎年恒例の『くびかり渓谷』!姫、ココ名前ヤバいけど、渓谷の景色が超絶景で、夜の星空がマジで綺麗だぜ!?」


「……くびかり……けいこく……?」


「ここ! 三河の山奥にあるんだよ。渓谷沿いにテント張って、BBQして、いいだろ?行こうぜ!?」


「フッ…今年も行ってみるか…」


「今年は姫も一緒か~楽しそう……そういや、オススメのお蕎麦屋さんがあったんだけど閉めちゃったみたいで…」


事務所から出てきたTIN社長がガハハと豪快に笑う。


「キャンプか! いいじゃん。福利厚生だもんでうちのBEV使いん!。短距離しか走れんもんで充電満タンでいくだよ!」


「マジすか社長、太っ腹!!あざっす!!じゃあ、運転は俺……はまだダメだな。青山、頼めるか?」


「やれやれ、レディ(軽バンの愛称)の扱いはまかせておけ」


「よーし食べるぞ~!もうお腹すいてきちゃった~」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




迎えた週末。


さっそく車に乗り込む騎士団。運転席に青山君、助手席に黄田君。後部座席の[パワー・シート]には僕、その隣には赤井君が陣取った。問題は、僕の従者たちの扱いだ。申し訳なさそうな赤井君。


「悪いなClock…」


「……不本意ながら、この車体は定員四名の商用軽バンでございますゆえ。我々を『精密機器』として荷室にて運搬するのが、現時点における唯一の合理的判断でございます」


到着した「くびかり渓谷」は、絶景だった。深い谷に沿って流れる清流、木々が密集したキャンプサイト。

僕は息を吸い込んだ。空気が新鮮で、少しだけ足の痛みが和らぐ気がした。


「ほら、姫!あそこに有名な軽食があるよ〜。クイックフード味多(みた)さん!ここの五平米餅(ごへいべいもち)がおいしいんだよ!」


『…五平米餅……? 味噌が塗ってある米のやつかな。五平餅じゃなくて五平米餅なのは、米が売りなのか……?』


「いらっしゃい! 赤井君たち、久しぶりね! あらやだ!?どうしたの、今日はかわいい子連れて来ちゃって!!」


快活な声の主、悦子(58)は、コンビニ居抜きのフィットネス『Carbs(カーブス)』で鍛え上げた無駄のない動きで鉄板の前に立っていた。その引き締まった二の腕は、プロのダンサーのごとき躍動感を放っている。


「悦子さん、今日もキレッキレだね! 今日は俺たちの『姫』と、初の遠征!!じゃあ、みんなもいいか?いつもの4つね!!」


赤井が能天気に紹介するが、僕の視線は彼女の背後に鎮座する『メンディーセレクション金賞受賞』の盾に釘付けだった。


『……モンドじゃ…ないのか? …メンディーッ?! 誰だッ!?その審査員はッ!?』


だが、衝撃はそれだけでは終わらなかった…!!


ビターンッ!!


悦子が鉄板に叩きつけたのは、およそ「軽食」という概念を根底から覆す、295x285mmの巨大な米の板。もはや防弾プレートにしか見えないその圧力――


「マスター、この五平米餅は味噌でメッセージを刻み、アーティストへのファンサ希望にも流用可能な“推し活”形態だよ!!ブォォォォン!!」


「あらやだ、よく知ってるわね。最近じゃSNSで人気なのよ?あたりつきだから出たら言ってね?」


悦子は涼しい顔で、自慢の体幹を軸に極厚の味噌を0.1ミリ単位で塗り分けていく。悦子が巨大なハケを振るうたび、焦げた味噌の香ばしい匂いとともに、餅の表面に 「ファンサして」 「こっちみて」 という文字が、精密なレリーフのように浮き上がっていくのだ。


―スチャッ。


「……合理的判断です。味噌の粘度と塗布圧力を極限まで微調整することで、3Dプリンタ顔負けの立体表現を実現しております。追加で材料を加えることなく表現可能な低コストでありながら、高パフォーマンスな演出でございますな」


「スゲーだろ?!姫、コレが味多名物の五平米餅!一枚850g!!うまいぜ?」


「さぁできたわよ!みんな、お皿いる? そのまま手で持って食べる?」


「坊ちゃまの注文分は筋力値から想定すると皿での提供が合理的でございます」


滑らかな動作で軽量超々ジュラルミンケースを解錠するClock。中から現れたのは、王室御用達の銀製カトラリーセット。プレハブ販売所の前のベンチが、一瞬にして宮廷のアフタヌーンティー会場へと変貌する。


三人前の五平米餅を指に挟んで悠々と運んでくる悦子。約2.6キロもの重量を指に挟んで悠々と運んでくるも、その歩調には一切の揺らぎがない。


「はいみんな!お待ちどうさま!熱いから気を付けてね!?」


『なにィッ!?…一本の平たい串で、このサイズ…どうやって保持してるんだッ!? 時空が歪んでいるのかッ!?』


視線に気づいた悦子は物陰に隠れつつ笑って答える。


「あらやだ体幹よ、体幹!フィットネスで鍛えればみんなできるわよ、もう!そんなに褒めても何も出ないわよ!?」

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