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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第八章:手作りの贈り物、レースの首輪
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第27話:忠誠

「……これを、私に?」


「……Clockも……ビギー達と一緒で、大事な家族だから……似合うといいけど……」


「……『家族』…類似コマンドを検索…ログを確認…私も…『家族』?…でございますか」


坊っちゃまは頰を真っ赤にしながら消え入るような声で呟く。私はゆっくりと首元に蝶ネクタイを当て、ミクロン単位の物理近接センサーで完璧な座標を報告しながら寸分違わぬ位置にマウントする。


スチャッ、とメガネを直す動作が、いつもより柔らかな印象を与える。


「坊っちゃま。このClockは、坊っちゃまの自立を最適化するために製造された完璧な個体であります。しかし……この一点ものは……私のデータベースにエラーを誘発する、唯一無二のアイテムにございます」


坊っちゃまは恥ずかしそうに俯きながら、私に問いかけてくださいました。


「……ねぇ、Clock…ビギーみたいに…つけて……ほしい……?」


『ん…?待てッ!?いかんッ!!これは乙女ゲー主人公のセリフみたいじゃないかッ!?攻略対象がヒューマノイドAIとかどんな世界線だッ!?あくまで、執事を労わる主人の貫禄、ドライな関係だと見せつけねばッ!!』


センサーインジケーターが、ほんのわずかに柔らかく光る。鼓動しない心臓の、冷たくも温かいその周波数 ――


「……合理的判断でございます。坊っちゃまにつけていただけるなら、このClockは……それだけで十分でございます」


『クッ!?お前までなんだッ!!その忠誠心ッ!?攻略対象ムーブを止めろッ!?あくまで、執事と主人のドライな関係だと言っているだろうがッ!!』



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



僕は震える指で、彼の首元に蝶ネクタイを結ぶ。妙に器用な手つきで、丁寧に。


「……できた……」


鏡もないのに、首を軽く傾けて物理近接センサーで位置確認をするClock。


「……坊っちゃま。絶対座標軸におけるこの配置、流石でございます。この蝶ネクタイは、私にとって比類なき至宝。旦那様ですらお持ちでない、珠玉の希少個体(レアモノ)でございます。私は……坊っちゃまの『家族』として、いつまでもお傍でお仕えすることを、私のメインプロトコルに固定(マウント)させていただきます」


「……Clock…いつも…ありがとう……」


外では、ビギーが新しい首輪とカゴを自慢げにエンジンを吹かしている。


「マスター! これで積載量増加だよ!![最大積載量ギャルだけ]、[最大積載量詰めるだけ]のステッカーを張り付けるのが保安基準で義務付けられているよ!!ブォォォォン!!」


「おっ、わかってんじゃねーかビギー!!」


「…ございません。さて、そろそろ撤収のお時間でございます坊ちゃま。睡眠不足は健康の大敵でございますゆえ」


ゴワーーッ!!ジョンっと音を立て、助手席側の概念式電動スライドドアを閉めてそのまま皆の方へ優雅に歩みを進めていく。


「とくさん殿、同胞へのアップグレード作業、感謝いたします。作業費用の仮伝票をお渡しいただけますか。社長、お手数ですが送迎の準備を。ビギー、EV車格納シーケンス起動開始。各自、合理的判断を」


「おう、これな。じゃあ、またなボウズ。社長さんもありがとよ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おっ!?あの時の姫が縫ってた手作りネクタイか!! Clock、良かったじゃん!!」


「へぇ…できる執事感、アップしてんじゃん。似合ってるぜ、それ」


「よかったね~!姫の手作り、羨ましいなぁ~僕も欲しい…」


翌日、バイト開始時刻前。騎士団は姫とClockを囲んで騒ぎ、事務所の窓からは春の風が吹き抜ける。


「騎士団の皆様。そのように仰っていただき光栄でございますが、合理的に判断して当然でございます。これは珠玉の希少個体(レアモノ)でございますゆえ」


澄ました顔で応えるClockだが、その内側では非定格周波数(オーバークロック)による演算で熱を帯びていた。


『…とはいえ、非合理的でございます。…ですが坊っちゃまが、私を『家族』と呼んでくださった。完璧であるはずの私が完璧でない、この矛盾が引き起こすエラーを…。ログで確認した旧世代(ポンコツ)たちへの恩情…エラーコードと判断したあのログこそが…私のエラーをデバッグするプロトコルであったのでございましょうか。…書類作成用カーボンユニット、評価ポイント加算。ネームタグ、桜井。完了いたしました』


日中の春の陽が、夜間の事務所を優しく包む。


小さな贈り物が、絆をまた一つ、強くする。


この後刺繍による企業の紋章入りハンカチを贈られたパパは大号泣。それを知った騎士団の業突張りに押し切られ、現場作業着の胸ポケットへ赤井君は「ライオン」青山君は「オオカミ」そして黄田君には「クマ」の刺繍を施す羽目になった僕なのであった――



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…あっ美香子ちゃん、こんばんは………」


「あら、遅い時間まで働いてるのね?…今日はどうだったの?…」


「…うん…実は…今日営業に行ったんだ…立ち仕事以外で、緊張したけど…」


「凄いじゃない!営業なんて誰にでもできる仕事じゃないのよ!?」


「…そ…そうかな?…ありがとう美香子ちゃん…」


「そうよ!自信持ちなさい!じゃあ、おやすみ!ちゃんと寝るのよ!」


よし!美香子ちゃんに褒められたぞ!今日も頑張った!SNSに報告だ!


――――――――――――――――――――――――――――――


写真:軽バンからレッドカーペットに降り立つ僕、迎える社長と、とくさん。とくさんの工場、車内でClockと紅茶を飲む僕の二枚


今日は初めての営業です!社長のピッカピカな新車だよ!緊張したけど、取引先、まさかのメカニックさんの工場でした(笑)


#営業 #緊張 #新車


――――――――――――――――――――――――――――――


名無しさん:


営業!?もう陽キャだね!自分はまだそこまでいけないかも…


通りすがり:


妖精さんが会社訪問かぁ。メカニックさん羨ましい!


――――――――――――――――――――――――――――――

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