第25話:営業
25分の休憩が終わり、続く勤務の30分を終えた僕。フラフラとした足取りで5分休憩に向かう。
「あれ、Clock、どうしたの?社長と…おしゃべり…?」
「おや、坊ちゃま。先ほどの書類作成用カーボンユニットとの雑用タスクは終了いたしましたか」
「え?…し、書類作成用?……さ…桜井さんの事?…うん…」
ジリリリリリリリリ!!ジリリリリリリリリ!!(クソデカ工場用電話ベル)
「あ、電話かん…話の途中だがすまんねClock君。…はい、ええ、鳥屋多運送です。あ、徳松工業さん。いつもお世話になっとります。ええ、大丈夫です。はい…」
電話を切り、『あっ鳥屋多運送って言っちゃった』としんみり落ち込む社長は振り返り、
「お姫さん、ちょうどいいわ。こっから5分位の取引先に荷物届けるついでに、お姫さんの紹介がてら家送ってくわ。勤務もあと30分だもんで、行って喋ってちょうど終わる位だらぁ?Clock君もいいかん?」
『なにィッ!?これは、まさか、営業というヤツかッ!?コミュ障にとってメンタルを極限まで削り取る地獄への断頭台ッ!!いかんッ震えがッ!!これは恐怖か!?…だが、ここで逃げればまたあの女にッ!!負けんぞッ!!』
「……はい……お願い……します……」
「ほっか。じゃあ助手席に乗りん。あ、桜井さんとみんな、ちょっと徳松工業さんとこ行ってくるもんであと頼むわー」
「はい、では定時に戸締りと終業手続きしておきますね」
「了解でーす!姫、頑張ってな!!」
「やれやれ、客が魅力で倒れなきゃいいが…」
「姫、気を付けて行くんだよ~!!」
「あの…う…うん…いってきます…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕がおもむろに車に近づき、乗り込もうとしたその瞬間ーー
「合理的に申し上げます。坊ちゃまが乗車すべき座席は、助手席ではございません。最重要人物の席は運転席の後部。通称パワー・シートと呼ばれる席こそが坊ちゃまに相応しい定位置にございます」
「お姫さん、これ商用だもんで電動スライドじゃないよ?ドア重いもんで、前おいでん。ゴワーーッ!!ジョンッ!って閉めないかんで」
「……後ろのドアは……手動スライド?なの?…Clock、僕じゃ……重くて開けられないみたいだよ……」
「合理的な判断を。執事として当然私がドアを開閉いたします。つまり……電動スライドドアでございます。ご安心を」
「……そうなんだ…え?…そうなの?」
――スチャッ。
「そうでございます。さぁ、坊ちゃま」
「マスター!!置いていかないで!!ボクも行くよ!待って!ブォォォォン!!」
ズザザーーーッ!!と、ビギーがサッカー選手さながらのスライディングで滑り込んでくる。
「ビギー、スリープモードへ移行を。内燃機関停止後、非接触電磁誘導による給電で演算装置の維持を。通常のEV車格納シーケンス起動開始。筐体の運搬は任せなさい」
「よし、ほんだらいくかん。シートベルトは…いいね?んじゃ。…おぉーっ!、やっぱ静かでいいだらぁ!?」
取引先へ向かう間、社長の話を聞く僕たち。短時間のループによるデジャヴはもはや定番である!!
ARメガネをスチャっと直し、Clockは僕の顔をじっと見つめた――
「坊っちゃま……TIN社長のBEV、言うなれば、電動ユニットの高尚さを示すプレゼンテーションをお聞きになって、そろそろ電動……いえ、この私をプライマリーAIに据える覚悟は御出来になりましたでしょうか。それが唯一無二の、合理的な判断かと存じます」
僕は赤井君のくれたハチミツレモンの缶を両手で握りつつ、小さな紙包みを膝の上に置き、俯きながらぽつりと答えた。
「……僕は……やっぱり……ガソリンエンジンも好きだから……」
「……左様でございますか」
「……うっ」
Clockのセンサーが、一瞬だけ点滅し、小さな警告灯のようなLEDが、一部ジワジワと明滅する。
「相変わらず仲いいなぁ。ガハハ!あ、もうすぐ着くよ」




