第22話:介護
「おい待てッ! 触っちゃダメだ!その20kgの段ボール[品名:自動車部品]は重すぎる! 君のその細い腕が折れたら、世界の損失だッ! 俺が持つから!!」
熱血系の赤井君が、僕が指先を触れようとしただけの箱を、まるで爆発物でも処理するかのような形相でひったくった!!
「あっ、見学だもんで、働いたらあかんよ!どんなもんか見るだけで…」
「…やれやれ…、いや、俺だ。俺の方がスクワットのMAX重量が上だ。君は……そう、もし今後働くならその横にある封筒を指先でチョンと分けるだけでいいからな」
「わからないことがあったら何でも聞いてね。なんでもするよ~」
汗ばんだTシャツの筋肉を誇示しながら割って入る、クールな青山君。どこから出したのか、黄田君が柑橘の香りが漂う扇子で、僕にそよ風を送り始める。
「まぁ、みんな張り切っちゃって。しょうがないわねぇ。ふふ…」
事務員の桜井さんは、その光景を微笑ましく眺めながらのんびりと手元の伝票整理を続けた。
『パ……パニックだァァァーーッ!! 「会話がない」と聞いていた夜間の仕分け作業が、なぜか俺を中心とした重量物運搬見せつけ戦へと発展しているッ!? 陽キャたちの筋肉がッ! 汗ばんだTシャツがッ! 俺のパーソナルスペースを蹂躙してくるッ!! 助けてくれ……! 誰か……! 誰でもいいから!!』
僕の脳内は、悲鳴で埋め尽くされていた。だが、現実は「あ……えっと……すみません……」と消え入りそうな声で俯くばかり。その姿が、陽キャたちの守護本能をさらに限界突破させていく。
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「わぁ! マスター! 演算通りだね! 物語だと騎士は姫に尽くすんだよ!!でも、婚約破棄される騎士のフィアンセには気を付けて!!ブォォォォン!!」
ビギーが、現場の熱気に当てられて排ガス混じりの歓喜の声を上げる。
しかし、現実は甘くなかった。
21年間の引きこもり生活。パパの忖度によって発行された[障害者手帳3級]は、伊達ではない。作業開始からわずか30分。ただ立っているだけという、世間一般では労働にすらカウントされない行為が、脆弱な膝を容赦なく笑わせ始めた!!
『ぐっ……! ひ、膝がッ! 武者震いじゃあない、これは純粋な「拒絶」だッ! 俺の筋繊維が、重力に対して白旗を揚げていやがるッ! 30分だぞッ! 30分しか経っていないのに、俺の足はもう、生まれたての小鹿どころか、海に漂うクラゲだッ! クソッ!』
TOAのメロディが刻む休憩時間開始による解放。痛みに耐えかね、僕の大きな瞳にじわりと涙が浮かぶ。
それを見た陽キャたちの衝撃は三河全域を揺るがすほどであり、プレハブ内はもはや仕分け現場ではなく、負傷した聖女を聖騎士たちが介抱する、さながら野戦病院の様相を呈していた。
「おい!姫が……姫が泣いているぞ!!やべ、ハンカチなんか持ってねぇぞ?!」
「立ち仕事の過酷さが…この清らかな存在を傷つけているのか…?」
「椅子~誰か、一番柔らかい椅子を持ってきて~!!僕の上に座ってもいいよ?!」
雄くさい空間にそぐわない、あまりにも過剰な姫待遇。これが、後に伝説となる『TIN騎士団、True Immaculate Noble Order:真に汚れなき高潔な騎士団』結成の瞬間である……
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「計算通りでございます」
狂乱の現場をClockはARメガネ越しに静観していた。
『陽キャの持つ「リーダーシップ」と「世話焼き精神」を逆手に取り、物理的労働負荷を最小限に抑えるエスコートにより坊ちゃまの自己肯定感を向上。これならば、1円も稼がずに実家のカードを切るより、精神的な自立へのコストパフォーマンスは極めて高い。しかも、あの三体のカーボンユニット、標準スペックを大きく上回る善性…。なるほど…騎士とは。旧型のハルシネーションも今回に限っては確かに合理的でございますな』
Clockは、僕が「自力で稼いだ」という実感を損なわない程度に、しかし指一本汚させない完璧な包囲網を構築していたのだ――




