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地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!  作者: 柊 花澄


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39 王太子フェリクスは暴く


 私が望むものは世界でただ一つだけ。

 ロゼ以外はいらない、他には何も欲しくない――


♢♢♢


「そこにいる聖女は偽物です」


 私がそう断言すると、聖女は空色の瞳を潤ませて震えながら訴えてきた。

「何を言ってるんですか、フェリクス様! あたしが偽物だなんてひどいです!」


 聖女は己が真であることを証明するため、水晶に手を翳した。すると、水晶から色鮮やかな光が放たれた。


「おや、色が一つ足りませんね?」

 ミハイル殿下が水晶を冷たい目で見下ろした。

「本物の水晶からは聖なる七つの光が出るんですよ。(ルビー)(アンバー)(トパーズ)(エメラルド)(サファイア)(ラピスラズリ)(アメジスト)の七色です。今のは聖なる緑(セントエメラルド)が足りませんでしたね」


 聖国の従者が、青い布に覆われた何かを差し出した。ミハイル殿下がその布を捲ると、一点の曇りもなく透き通った水晶が現れた。


「フォルトア聖国から持参した本物の水晶です。聖女殿、これに手を翳してご覧なさい」

「え、あ、はい」

 聖女が戸惑っていると、ガスタイン伯爵が慌てだした。

「デイジーよせ、それに触るな!」


「本物の聖女なら問題ないでしょう。はいどうぞ」

 ミハイル殿下がにっこり笑って水晶を差し出す。

「はい、だってあたし本物の聖女ですから!」


 聖女は意気揚々と手を翳したが、水晶には何の変化もない。

「え、どういうこと?」

 聖女は小首を傾げて、きょとんとしている。


「君は偽物だね。司祭、これはどういうことですか?」

 青ざめた司祭が狼狽える。

「恐れながら申し上げます。水晶が反応しなかったいうことは、それこそが偽物の可能性はございませんか?」

「へえ、フォルトア聖国王代理の私が偽物を持ってきたとでも?」

 ミハイル殿下が氷のような美しい顔を司祭に向けた。

「いえ、あの」


 私は、黒いローブの男が身じろぐのを見遣った。

「その男が禁忌の闇魔術を使い、異界の魂を召喚しました。さらに偽水晶にも闇魔術を施し、()()()()()()()()()()()反応する仕組みを構築したのです。既に自白剤による尋問を行い、本人の証言も得ています」


 私は聖女を指し示した。

「そこにいるデイジー・ガスタインは、身体を異界の魂に乗っ取られています」


 広間がにわかに騒然とし始めたが、私は構わず言葉を続けた。

「私は聖女デイジーと行動を共にしていましたが、彼女はこの国にいれば平民でも当たり前に知っている常識を知りません。その上、この世界に存在しない言葉や知識を所有しています。平民として過ごしていた時期のデイジーの性格・行動・趣味趣向も調査しましたが、まるで別人でした」


 アメティスト公爵が一歩前へ進み出て、書類の束を掲げた。

「教会と闇魔術の地下組織『アーテル』との繋がり、及び偽水晶の取引の証拠を、国王陛下へ提示いたします」

 教会派の貴族は一斉に青ざめ、司祭達は震えだした。


「オリバー・ガスタイン。お前が偽水晶の製造に深く関わっていた証拠もある。潔く罪を認めろ。そして我が娘に謝れ!」

 アメティスト公爵の言葉に、ガスタイン伯爵は目を吊り上げた。

「ふざけるなあああ! レオン、お前は昔から私の邪魔ばかりする!」

「ロゼを北の修道院に送ったと見せかけて、秘密裏に拉致するつもりだっただろう」

「お前のせいでオフィーリア様は不幸になったんだ! 私が彼女を幸せにするはずだった! 今度こそ私はオフィーリア様を手に入れる!」

「オリバー。ロゼはオフィーリアではない。そしてお前はオフィーリアに選ばれなかった。それが全てだ」

「うるさい、うるさい、うるさい! お前は邪魔だ、消えろレオン!」

 ガスタイン伯爵は胸元からナイフを取り出すと、アメティスト公爵に飛び掛かった。


 いち早く気づいたルシアンが、公爵を庇うように立ち塞がった。そして鮮やかな回し蹴りでナイフを落とし、ガスタイン伯爵の頭部を抱えて締め上げた。

 ガスタイン伯爵は床にうつ伏せに倒れたまま動かなくなった。どうやら気絶したようだ。

 ルシアンは体術に熟達している。幼い頃から私やアルフと共に、イグニス閣下の鬼指導を受けていたからね。


「さあ異界のお嬢さん。元の世界にお戻りなさい。デイジー嬢に身体を返してあげようね」

 ミハイル殿下が、幼子に語りかけるように聖女を優しく諭す。

 女は後ずさり、首を左右に振った。

「嫌よ、あたしがデイジーなの! あたしがフェリクス様と結ばれるんだから!」


 私はデイジーを乗っ取っている何者かに言い放った。

「私がお前と結ばれる未来など万に一つもない。私が愛するのはロゼだけだ」


「ありえない、だってヒロインはあたし! プリムローズは悪役令嬢なの! 『傾国の妖精』は断罪されるって決まってるの!」

 女は髪を掻きむしり、意味不明なことを叫び続けている。


「ロゼ、君の力が必要なんだ。こちらに来て」

 ミハイル殿下はロゼの手を取ると、偽水晶に優しく導いた。

「ロゼ、この水晶に触れて」

「何故わたくしが?」

「触れればわかるよ。私を信じて」


 ロゼはこくりと頷くと、導かれるまま偽水晶に触れた。

 すると彼女の掌から、目が眩むほどの聖なる緑(セントエメラルド)の光が放たれた。


「ミハイル兄様! 一体何が起こっているの?!」

 動揺する彼女の手の甲に、ミハイル殿下が優しく手を添えた。

 偽水晶は聖なる緑の光に包まれると、やがて粉々に割れた。

 ロゼの掌から放たれた光は、次にデイジーの身体を覆ってゆく。


 女はつんざくような叫び声をあげた。

「いやああああああ!」

 女の身体から黒い靄が飛び出していき、意識を失った女はその場に倒れた。


「一体何が起きたというの?」

 自分の掌を見下ろしているロゼに、ミハイル殿下が囁いた。

「闇魔術を浄化する力の発現には、二つの条件があるんだ。フォルトア聖国の王族の血を継ぐ者。そして聖なる緑(セントエメラルド)の瞳を持つ女性が十八歳になること。ロゼは今日で十八歳になったよね」


「そうなのね、今まで知らなかったわ」

「単純な闇魔術は術具を破壊すればいい。だけど、複雑な術式は聖なる緑(セントエメラルド)の浄化の力でしか解除できないんだ。闇魔術を操る者達に狙われないよう、秘匿とされてきた力なんだよ」


♢♢♢


 父上は国王として低く響き渡る声で宣言した。

「偽聖女を担ぎ上げ、国を謀ろうとした罪は重い。相応の処罰を与える」

 そしてミハイル殿下に向かって謝意を述べた。

「此度の件、フォルトア聖国に深くお詫び申し上げる」


「いいえ陛下。偽水晶の真相を暴いたのはこの国の方々です。フォルトア聖国王代理としてお礼申し上げます」

 ミハイル殿下は胸に片手を当てて一礼すると、更に言葉を続けた。

「教会の不祥事についても、世界の教会を統括するフォルトア聖国にも責任の一端があります。今後の対応について相談させていただけますか?」 

「ああ勿論だとも。我が国はフォルトア聖国に対し、協力を惜しまないことを約束する」


 私は父上に向かい合った。

「国王陛下にもう一つご報告がございます。アメティスト公爵令嬢に対する調査の結果、噂は事実無根であることを確認いたしました。不名誉な噂を流した者の処罰を願います」


 ユリウスが書類の束をヒラヒラと振る。

「これが調査の結果。証言者のサインもちゃんと入ってるよ。噂を広めた者も把握できてる」

「うむ。プリムローズ・アメティスト公爵令嬢の身の潔白は証明された。よってフェリクスとの婚約も継続とする」

「父上、約束は守りました。これからはロゼへの愛を誰にも隠しはしません。私はロゼに溺れたまま、国も正しく導く自信があります」


 父上にそうきっぱり告げると、脇に控えているアメティスト公爵に尋ねた。

「アメティスト公も奥方に溺れていたんだろう?」

「ええ妻を溺愛していましたよ。それはもう息をするのも難しいほどにね。ですが妻から注がれる愛情を受け取る喜びが、私を正気に保っていたのです」

 アメティスト公爵は穏やかな笑顔で続けた。

「フェリクス殿下にもそれができますよ。ロゼからの愛があれば」


 私はロゼと向かい合うとその手を取った。

 極度の緊張と恐怖に晒されたせいか、ロゼの指先はとても冷たかった。


「ロゼ、出会ったときから君だけを愛している。君を狂おしいほど愛しているんだ。だが私は決して国を傾けるような愚かな真似はしない。この国を正しく導くことを国民に誓う」


 そして跪き、掬いとったロゼの手の甲に口づけた。

「そして君を生涯幸せにすることを誓う。だから――どうか私の妻になってほしい」


「はい、謹んでお受けいたします。わたくしもフェリクス様のことを⋯⋯ずっとずっとお慕いしておりました!」

 ロゼのエメラルドの瞳から、大粒の涙が溢れ出た。 

 私はロゼの白く細い指に、サファイアを嵌め込んだ金の指輪を通した。

「十八歳の誕生日おめでとう。私からの贈り物だよ」


 出会った日と同じ水色のドレスを纏ったロゼは、満開の花のように微笑んだ。

 それを見て、ああ綺麗だと思った。

 その笑顔が私に向けられることを、ずっと望んでいたんだ。


 私は立ち上がると、ロゼの涙の跡をそっと撫でた。

 そして大勢が見守る前で、ロゼに口づけを捧げた。


 万雷の拍手が湧き起こる中、アルフが「ひゅう〜」と軽い野次を飛ばし、ユリウスは呆れ顔で肩を竦め、父上は髭を撫でながら満足そうに頷き、アメティスト公爵とルシアンが「おい」と一歩踏み出すのが横目に見えたが、一切気にしないことにする。


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