35 手紙に隠されていたのは
国王陛下に自宅謹慎を言い渡された私は、今までのことを思い返していた。
あの日の流れからいくと、そろそろ私の修道院送りが決定するのかもしれない。
小説と同じく『傾国の妖精』と呼ばれ、男を誑かしていると糾弾されたもの。
だけど、小説と違うところが一つだけあった。
フェリクス様が聖女デイジーではなく、プリムローズを愛していることだ。
自分の唇を指でそっと撫でると、フェリクス様の熱が思い起こされる。重たい気持ちをぶつけられたけれど、それがとても嬉しかった。
私だって本当はフェリクス様と一緒にいたい。ずっとお慕いしていたんだもの。
そう思うと、胸が痛いくらいにぎゅうっと締め付けられた。
「小説とは違う未来に、希望を持ってもいいのかしら」
フェリクス様は、なぜ今まで私に気持ちを伝えてくれなかったのか。なぜ誤解を招くとわかっていながら、デイジー様の傍にいるのか。
(なにか私に言えない理由があるの?)
考えても答えが出ず、椅子の背もたれに深く体を預ける。
ふと机の上に置いたままの宝箱が目についた。
宝箱はフェリクスからの贈り物だ。青い宝箱には小さなエメラルドとサファイアが嵌め込まれている。
私はその宝箱に、フェリクス様からの手紙を大切に保管している。
「そういえば小説では『秘密のラブレター』のエピソードがあったわね」
王太子の手紙は全て検閲されるから、ヒロインに宛てた手紙にこっそり『縦読みの隠しメッセージ』を忍ばせる。
「確か、横書きの文章の各行の頭文字をつなげて読むと、隠されたメッセージが現れるのだったわ」
思わず宝箱を開けて、一番底にある最初にもらった手紙を開く。便箋に綴られた八歳のフェリクス様の筆跡に、なつかしさを覚える。
『かわいいロゼ、すき』
文の頭文字をつなげて読んだら、そんな文章が浮かび上がる。
「え、これって偶然じゃないわよね?!」
急いで二通目の手紙を開く。
『ぼくのかわいいロゼ、だいすき』
『ロゼかわいい、だいすきだよ、はやくあいたい』
どの手紙にも「すき」「かわいい」という言葉が散りばめられている。回数を重ねるにつれてメッセージを忍ばせるスキルも上がっている。
『美しいロゼ、誰よりも愛している。君とずっと一緒にいたい』
――十年間、ずっと想ってくれていたんだ。
涙がぽつりと便箋に零れ落ちていく。
(わたくしもフェリクス様とずっと一緒にいたい⋯⋯)
「そうだ、わたくし、まだフェリクス様に自分の気持ちを伝えてなかったわ!」
涙を拭いて深呼吸したあと、この手紙に返事を書こうと思い立った。いつものように、引き出しから便箋を五枚取り出す。
羽ペンを手に取ったその時、ノックの音がして父が部屋に入ってきた。
「ロゼ、明日の聖女祝福の儀式に参加するように。国王陛下からのご命令だ」
父のアメジストの瞳には、こちらを案ずるような色が浮かんでいる。明日私の身に何が起こるか、大方の予想がついているのだろう。
(例えどのような結末を迎えようと、悪役令嬢らしく最後まで足掻いてみせるわ)
「わかりました、お父様」
私は覚悟を決めて頷き、にっこりと笑ってみせた。




