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地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!  作者: 柊 花澄


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30 波乱の舞踏会の幕開け

 フォルトア聖国は聖女発祥の地だ。

 聖女が誕生した国は、フォルトア聖国の王から祝福を授ける決まりがある。

 聖女祝福の儀式は、明後日に神殿で行われる。

 ミハイル兄様が聖国王代理として、その儀式を執り行う予定だ。


 今夜はフォルトア聖国王太子の歓迎レセプションと舞踏会が催される。聖女誕生の祝辞をのべるため、多くの国からも賓客が訪れている。


♢♢♢


 それにしても、今日のアンヌの気合いの入れようは凄まじかったわ。


「お嬢様を絶世の美姫に仕上げてみせます!」

「ありがとう。でも絶世の美姫は、流石に難しいのではないかしら。何事にも限界というものはあるわ」


 フェリクス様に可愛いって思ってもらえれば十分だわ、と考えていたが、しばらく経ってから鏡に映し出されたのは、アンヌの言葉に違わない世にも麗しい美女だった。

 

 磨き抜かれた白い肌に、深紅のドレスがよく映えている。肩とデコルテが露わになっただけでなく、大胆に深く切れ込んだドレスの胸元には豊かな膨らみまで覗いている。そこに大粒のエメラルドをダイヤモンドで囲んだ首飾りが輝いている。


 ピンクブロンドの髪は編み込んでアップにしてある。額をすっきりと見せ、長めに伸ばした前髪はゆるく巻いて顔のサイドに垂らしてフェイスラインを柔らかに縁取っている。計算され尽くした後れ毛も色っぽさに拍車をかけている。


 そして、いつもより化粧もしっかりと施してある。唇にはドレスの色に合わせた深紅の口紅を纏わせて、華やか且つ艶やかな美女に仕上がっている。

 

「アンヌ、あなたの腕前って凄まじいわね!」

 鏡を見た私は感嘆の声をあげる。

「国一番の美しさを持つお嬢様が着飾れば、絶世の美姫になるのは当たり前です!」 

 やりきったと言わんばかりに満足げな表情を浮かべたアンヌは、胸を張ってそう答えた。


♢♢♢


 会場へ入場する時間になった。


 フェリクス様が私をエスコートするため近づいてきた。

 王族の正装に身を包んだフェリクス様は、燦然と輝いていた。

 金の肩章が輝く白い軍服が、長身で引き締まった身体に纏われている。少し長めの黄金の前髪は軽くかきあげて流している為、澄んだ海のようなサファイアの瞳が顕わになっている。


 眩しくて直視できないわ。どうしましょう。

 フェリクス様から視線を逸らし、ミハイル兄様とデイジー様の方を見遣る。聖国王代理のミハイル兄様が聖女のエスコート役なのは納得だわ。


 ミハイル兄様の白のスーツは詰襟が銀の刺繍で縁取られ、肩から羽織った白いマントの裏地は深海のような濃い青だ。マントの留め具には、精巧な銀細工で囲われたエメラルドの宝石が煌めいている。さすがミハイル兄様だわ、神々しいまでに美しいわね。


 ルシアンお兄様は会場の責任者かしら、周囲に何やら指示を出しているわ。家ではいつも気怠そうにしているから、仕事をしている姿はとても新鮮だわ。周りのご令嬢達から熱い視線を浴びている光景は相変わらずね。


 アルフレッド様は今日は近衛騎士の制服を着ているわ。内定したとは聞いていたけど、今日から本格的に任務に就くのかしら。漆黒の騎士服がとても似合っているわ。こうして見ると凛々しい騎士様という感じで素敵ね。きっとモテるのでしょうね、黙ってさえいれば。


 興味深く周りを観察していた私に、フェリクス様が声をかけた。 

「とても綺麗だね」

 フェリクス様がサファイアの瞳を眇めて言った。


 綺麗だなんて初めて言われたわ!

 今までは社交辞令でも私に対して可愛い、綺麗、と決して言わなかったフェリクス様。

 この発言、どう捉えればいいのかしら。

 勘違いだったら恥ずかしいので、ひとまずドレスを褒められたのだと解釈する。

「はい、とても素晴らしいドレスをフォルトア聖国から頂戴いたしまして」


 一曲目のダンスの前奏が流れ始めた。

「どうか私に貴女と踊る名誉を」

 フェリクス様はそういって、優雅な仕草で右手を差し出す。

「喜んでお受けいたします」

 私は貴族の笑みを浮かべ、彼の手を取った。


 今日の私はフェリクス様には魅力的に映っているかしら、とフェリクス様の顔を伺う。

 フェリクス様は穏やかな笑みを浮かべて、ダンスをリードしてくれている。

 今日は自分史上最高に色っぽい仕上がりになっているのに、フェリクス様はいつもと同じ表情だわ。

 さっきの「綺麗だね」の言葉はやっぱりドレスを指して言ったのよね、都合のいいように解釈しなくてよかった。

 やっぱりフェリクス様の心を動かすのはヒロインだけなのね、としんみりした気持ちになる。

 でもフェリクス様と踊るのも今日が最後かもしれないので、今は楽しみましょう、と気持ちを切り替える。

 

 一曲目が終わると、早速デイジー様がフェリクス様の傍に来た。二曲目のダンスを共にするようだ。

 今日のデイジー様は、青地に金の縁取りのプリンセスラインのドレスを着ている。

 フェリクス様の瞳と髪の色じゃないの! 

 もし私までフェリクス様を意識した色を纏っていたら、デイジー様と色被りになるとこだったわね。危ない危ない。

 

 フェリクス様とデイジー様が手を取り合っている姿を見てモヤモヤした気分になっていると、目の前にユリウス殿下が現れた。 


「次の一曲、どうか僕に貴女と踊る名誉を与えて下さい」

 ユリウス殿下が微笑んで一礼し、右手を差し出す。

 ゆるく波打つ金髪に甘やかな美貌と人懐っこい笑顔、加えて今日は王族の正装姿だ。全身から眩い光が放たれている。


「お誘い、光栄に存じます」

 先日の告白以来だわ。かなり気まずいけれど、平静を装って私は差し出された手を取った。


「良かった。断られたらどうしようかと思った」

 彼は小さく安堵の息を吐いた。

「まさか。この上なく光栄なことですのに」

「この間は突然ごめんね。周りから散々怒られたよ。でも気持ちを伝えたことに後悔はないんだ」

 ユリウス殿下はサファイアの瞳でまっすぐに私を見た。

「ずっと好きだったから」

 私は何と答えたらいいかわからず、ただ彼の瞳を見つめ返した。

「ロゼの返事がすぐに欲しいわけじゃない。ただ、僕は何があってもロゼの味方だから。それだけは知っていて欲しくて」

 ユリウス殿下のまっすぐな好意が、いつの間にか疲弊していた心に静かに浸透していく。

「ありがとうございます、ユリウス殿下」

 私は心からのお礼を伝えた。


 ダンスが終わりユリウス殿下が別れ際に言った。

「いつもロゼは綺麗だけど、今日のロゼは最高に綺麗だよ! すごくドキドキしちゃった!」

 赤くなっている私に、じゃあまたね、とにっこり笑って彼は去っていった。


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