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地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!  作者: 柊 花澄


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27 王太子フェリクスの嫉妬

 ロゼがその場から立ち去った。


 婚約破棄という言葉がショックで、ロゼを追いかけることができなかった。あんな風に怒って、はっきり言い返してくるロゼを見るのは初めてだった。


 私はユリウスに抱きしめられたロゼを見て、嫉妬で理性が焼き切れそうになった。私でさえあんな風に抱きしめたことはないというのに。


(ロゼに触れるな、その身体に触れていいのは私だけだ!)


 弟に対して殺意が湧いた。まるで獲物を横取りされた獣のように。


 それだけでも許しがたいのに、あろうことかユリウスはロゼに愛の告白までした。

 兄の婚約者に懸想するなど許されないことだ。しかしユリウスはそれを理解した上で行動に出た。それだけ本気だということだ。


 目の前で繰り広げられる光景に、ひたすら怒りと焦りが湧いた。

 

 ロゼにも「隙がある」などと傲慢な物言いをしてしまった。

 ロゼは何も悪くないのに。むしろ今まで聖女との件で傷ついていたのはロゼの方だというのに。

 

 最近のロゼは変わった。華やかに着飾るようになった。

 今日だっていつもは着ないような可憐なドレス姿で、可愛すぎて息が一瞬止まりかけた。

 化粧をしているせいなのか清楚なのにどこか艶めかしくて、露わになった白い首筋からほのかな色気が漂っていて、男達がロゼに向ける視線に私は苛立った。

 

 ロゼは以前のように異性を警戒しすぎることもなくなった。

 図書館ではイバン・ランベール伯爵令息と二人きりで談笑していた。今まで男と二人きりになることなんてなかったのに。

 

 街のカフェには男女三対三で来ていた。そこにもランベール伯爵令息がいた。聖女の言うようにグループデートだったのか? そこでもロゼは男子生徒達に可憐な笑顔を向けていた。もちろん男達は皆ロゼに見惚れていた。


 そしてどちらの場面でも、ロゼは私が現れた途端に貼り付けたような笑みに切り替えた。


 なぜ私にはあの笑顔を向けてくれない?


 私には見せない笑顔を他の男には見せるロゼに。

 学園でどんどん周囲を虜にしていくロゼに。

 私から距離を取ろうとするロゼに。

 そして、ユリウスに抱きしめられたロゼに。


 焦りと苛立ちで、つい責めるようなことを言ってしまった。

 こんなに自分の感情の制御ができなかったことは、今まで一度もなかった。  

 そう、私はこれまで上手くやれていたのに⋯⋯


♢♢♢


 あれは十年前。

 婚約が決まり、ロゼの王太子妃教育が始まった頃のことだ。

 ロゼはタチアナ女史の元で指導を受けることになった。

 

 一つ下の弟ユリウスは何度かロゼと同じ授業を受けて、案の定ロゼのことが気に入ったようだった。

 同じ授業がなくなったあとも、差し入れの菓子を持って、ロゼの教室に足繫く通っているのは知っていた。ロゼの一日の様子を報告をするよう、侍従に言いつけていたからだ。


「ご報告いたします。本日はユリウス殿下がマカロンを差し入れなさいました。ちなみに『ロゼ』と愛称でお呼びになっているご様子でした」

「ふうん⋯⋯。ねえ、僕のスケジュールどうにかできない? 僕も『ロゼ』に会いに行きたいんだけど」

「申し訳ございません。今週は殿下のスケジュールに全く空きがなく⋯⋯」

 侍従は黒縁の眼鏡を中指で押さえつつ、手元の資料を見て答えた。

「それなら仕方ないね。引き続き監視を頼むよ」


 ユリウスがロゼに熱を上げていることは、すぐにタチアナ女史に気づかれた。そしてタチアナ女史に警戒されたユリウスは、その日以来ロゼと会えなくなった。

 ユリウスは王宮の廊下を歩いているロゼを、恋慕う目で遠くから見ていた。


 私は理解した。ロゼに夢中な様子を見せると引き離されるのだ、と。

 ロゼに熱を上げたものはユリウス同様、例外なく遠ざけられた。語学教師、ダンス講師、近衛騎士、宮廷医師、御者、庭師⋯⋯十年間ともなれば相当数に上る。


 父上にも忠告された。『傾国の妖精』に溺れるな、と。

 もし色恋に溺れて王太子の役割を疎かにする事態に陥った時は、婚約解消を命ずる、と。

 

 あの男達のように、ロゼに夢中になっている姿を見られたら会えなくなる。

 私は細心の注意を払って適切な距離をとり、紳士的な態度で接した。表情にも一切出さなかった。

 本人に向かって愛称で呼ぶことすら我慢した。ユリウスの二の舞にならないように。


 タチアナ女史はロゼに群がる羽虫を追い払ってくれる。

 私はその羽虫だと認識されてはいけないのだ。


 ♢♢♢


 今までは自分は上手く立ち回れていると思っていた。

 父上やタチアナ女史からも警戒されることなく、婚約者としての地位を盤石なものにしてきたはずだった。


 でもそれは、ロゼ自身が慎重に行動していたからに過ぎなかった。

 ロゼが外の世界に目を向け始め、自由を謳歌するようになった途端、私の行動は意味のないものに成り下がった。

 

『わたくしが屋敷に一生閉じこもっていれば満足なのですか?』というロゼの言葉に動揺した。

 ロゼを閉じ込めてしまいたい、と本気で思っている自分を自覚したからだ。


 他の男に笑いかけないでほしい。

 他の男に触れられないでほしい。

 美しいロゼを誰にも見せたくない。

 誰にも盗られたくない。

 どこかに隠してしまいたい。

 閉じ込めて鎖で繋いでおきたい。

 

 なんと醜い感情だろうか。自分の中にこんな感情が存在していることに愕然とする。

 こんな感情は絶対にロゼに知られてはいけない。


「最低だな、私は」


「ロゼちゃんの言ってること、ド正論だもんなあ」

 いつの間にか戻ってきていたアルフが、哀れみの目で私を見てくる。


「⋯⋯嫌われただろうか」


「お前さあ、すげえ賢くて見た目も極上の完璧王子様のくせにさ。ロゼちゃんのことになると、途端にポンコツになるのな」

「アルフ、うるさい」

 アルフは項垂れる私の肩をポンポンと叩いて笑った。


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