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地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!  作者: 柊 花澄


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26 お茶会でプツリと何かが切れる

 今日のお茶会に着ていくのは、先日ディアナ達に選んでもらったミントグリーンのドレスだ。


 このスクエアネックのドレスは、スカート部分に透け感のある生地がふんわり重なっている。襟ぐりが開いているので、アクセントに一粒ダイヤのネックレスをつけた。

 ヘアメイクもアンヌがとても可憐な感じに仕上げてくれた。今日のテーマは新緑の妖精だと言っていたわね。

 

 お茶会ではディアナやエミリ、それに新しく知り合ったご令嬢達といろんな話題で盛り上がった。

 お洒落の話だけでなく、流行の劇や恋愛小説などの情報交換をして楽しい時間を過ごした。


「そういえば歌劇『王子とナンシーの真実の愛』、皆様ご覧になりました?」

 一人の令嬢が話題に出すと、皆それぞれ感想を述べていく。

「見ましたわ。結局の所、王子は婚約者がいながら浮気したって話ですわよね。それを美談に仕立て上げて」

「浮気した本人達には何のお咎めもなく、イザベラだけが断罪されるのも、なんだかすっきりしませんでしたわ」

 あら、意外と皆、現実的なのね。


「イザベラは浮気者の王子なんか、さっさと見切りをつければよかったのよ。嫉妬で嫌がらせするなんて、火に薪をくべるようなものよ。恋は障害があればあるほど燃え上がるんだから」

 ディアナも憤慨している。

 母も、こうやって観劇の感想を分かち合いたかったのだろう。


(お父様ったら、何時間もお母様の顔を見続けるだなんて、いくらべた惚れしているからってやり過ぎだわ。でもそこまで愛してくれる人がいるなんて、お母様が羨ましい⋯⋯)


 そうして、お茶会を楽しく過ごしていたのだけれど。


 やがて、デイジー様や教会派の茶番劇が始まってしまった。

 王妃の座には聖女がふさわしいやら言っていたけれど、それならさっさと国王陛下に直談判すればよいのに。


 私は心底馬鹿らしくなってその場を離れた。

 せっかくお洒落して楽しくおしゃべりして、美味しいマカロンを食べて良い気分だったのに台無しだわ。


 会場から離れた所でしばらく休もうと思っていたら、後ろからユリウス殿下の声がした。

「ロゼ、大丈夫?」 


 走って追いかけてきてくれたのだろう、ユリウス殿下の呼吸は僅かに乱れていた。

 波打つ黄金の前髪から覗くサファイアの瞳が、気遣わしげに揺れている。

 私が落ち込んでいると思って、心配して来て下さったのね。お優しいユリウス殿下。でも大丈夫ですよ、あんな茶番で打ちのめされるほど弱くないんです、今の私は。


「わたくしは少しここで休憩させて頂きます。ユリウス殿下はどうか会場にお戻りください」

「ロゼを放っておけないよ」


 ライムの爽やかな香りがした次の瞬間、私はユリウス殿下に後ろから抱きしめられていた。

「だ、だめです! ユリウス殿下、離れてください!」


 こんなところを見られたら王家の醜聞になってしまうわ!

 ユリウス殿下の腕から抜け出そうと必死にもがく。

 だけど、細身に見えるが意外に筋力があるのか、びくともしない。


 そこへフェリクス様が来たにもかかわらず、ユリウス殿下はサファイアの瞳に熱を灯らせながら私に告げた。

「ロゼ。僕は君のことが好きだよ。兄上よりもずっと大切にする自信があるんだ」

「え?」

 私は目を大きく見開いたまま、石のように固まってしまった。

 デイジー様まで来てわあわあ騒いでいたけど、ユリウス殿下の告白が衝撃的すぎて何も頭に入ってこない。


(ユリウス殿下が私のことを、好き、ですって?)


 呆然と立ち竦んでいた私に、フェリクス様が声をかけてきた。

「少し二人で話したいんだけど、いいかな」

「はい、勿論でございます」


 フェリクス様は、デイジー様には会場に戻るよう伝えた。

 でもでもだって、としぶるデイジー様をアルフレッド様が強引に会場までエスコートしていく。


「ユリウスが暴走して申し訳なかった。あとできつく言っておくよ。でも君も最近は隙があるように見える。君は私の婚約者なのだから気をつけて」


「⋯⋯隙がある、ですって?」

 

 私は頭の中でプツリと何かが切れた音がした。


「ここは王宮の庭園で、護衛も至る所に立っています。自ら危険な場所に赴いたわけではありません。わたくしは、ただ茶会に参加していただけです。タチアナ先生もフェリクス様も『隙を見せるな』ばっかり仰いますけど、あなた方はわたくしが屋敷に一生閉じこもっていれば満足なのですか?」


 私は今までの鬱憤を晴らすかのように言い募った。


「それに、婚約者だから気をつけろ、ですって? わたくしの婚約者であるフェリクス様は、堂々とデイジー様といちゃついておられますよね。まさか、男はよくて女は駄目だとか、王族だから許されるとか思っていらっしゃるのですか!?」


 以前の私とは違うの。たとえ好きな相手でも言いたいことははっきり言う。片方だけが我慢する関係はいずれ破綻するのだ。結局は小説の強制力で、どちらにせよ破綻するのだろうけど。


「い、いちゃつく?! それは誤解だ! 勿論私だけが許されるとも思っていない。私も彼女には再三注意をしているが⋯⋯」


 フェリクス様は言葉に詰まったが、私は構わず続けた。


「わたくしだってユリウス殿下に対して、精一杯の抵抗をいたしました! それでも、今回のわたくしの行動を許容できないと仰るのならば、どうぞ断罪して婚約破棄でも何でもなさってくださいな!」


 完全に頭に血が上っていた私は、踵を返してその場を去った。


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