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地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!  作者: 柊 花澄


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25 第二王子ユリウスの告白

 僕は昼下がりの太陽の下、王宮主催の茶会に出席している。


 豪奢な服に身を包んだ恰幅のいい男性が、僕の所に挨拶に来た。

「やあ、デムス伯爵。久しぶりだね」

「ユリウス殿下にご挨拶申し上げます。此れは娘のクララでございます。どうかお見知りおきを」

 僕が頷いてにっこり微笑むと、その令嬢は頬を紅潮させた。


 僕は独身の王族で婚約者もいないので、こういう場所ではいつも令嬢を紹介される。

 そろそろ婚約者を決めろと周囲は煩いけど、父上は結婚という手段で僕を政治の駒にする気はなさそうだ、今の所は。

 それをいいことに僕はこの件を先延ばしにしている。

 こういう催しには、公爵令嬢のロゼも毎回招待されるので、それを心の支えにして今日も笑顔で乗り切るつもり。

 

 ロゼは階段から落ちて学園をしばらく休んでいた。

 とても心配したけど、僕の立場で個人的にお見舞いに行くことは許されない。だから、ロゼが令嬢達と笑顔で談笑している姿を見てすごくほっとした。

 折角の楽しい時間を邪魔しないでおこうと、少し離れた所からロゼの笑顔を堪能した。


 今日のロゼは爽やかなミントグリーンのドレスを着て、髪は編み込んで花飾りをつけている。

 花の妖精のように可憐なのに、白い首筋や色付いた唇が艶やかで、僕は軽く目眩がした。


 話が一段落したのを見計らって傍に行くと、ちょうど兄上とアルフレッド、それに聖女も傍に来たので嫌な予感がした。


「ディアナちゃん、このケーキ美味いぜ」

 アルフレッドが令嬢に、チョコレートケーキの乗ったお皿を差し出している。

「相変わらず馴れ馴れしいこと。その呼び方やめて下さる?」

 その令嬢はつんとすましながらも、お皿を受け取ってケーキを口に運んだ。

「ディアナちゃん照れ屋なんだな。これが『ツンデレ』ってやつ?」

「知りませんわ、そんな言葉。話が通じなくてびっくりですわ!」

「真っ赤になって怒ってるのもかわいーな。紅茶には砂糖かミルク入れるか?」

「ストレートで結構ですわ!」

 令嬢は憤慨しながら、アルフから受け取った紅茶を飲んでいた。


 へえ、アルフレッドが女の子を口説いてるのは初めて見たな。なんか口説いてるっていうより、懐かない猫に餌付けしてる感じ?

 僕はアルフレッド達を横目に見ながら、さりげなくロゼの横をキープした。

「今日のロゼのドレスすごく似合ってる。最近、雰囲気変わったよね?」

「ありがとうございます。友人が勧めてくれたドレスなんです」

 ロゼがはにかんで答えた。


 今までも可愛かったのに、これ以上可愛くなったら大変なことになっちゃうよ。

 そう思いながら僕はマカロンの乗ったお皿を差し出した。

「花の妖精みたいに可愛いよ。そうそう、ロゼはマカロン好きだったよね」

「覚えていてくださったのですね」

 嬉しいです、と言いながら、ロゼがマカロンを口に入れた。


 次の瞬間、ロゼが蕩けるような笑みを溢した。

 この笑顔がずっと見たかったんだ!

 すごく可愛い、可愛すぎるよ!


 ロゼの笑顔に見惚れていたのは僕だけでなかった。

 他の参加者達もこちらに視線を向けて惚けていた。

 そして兄上も口元を片手で押さえながら、ロゼを凝視していた。


 聖女はその様子が面白くなかったのだろう。

「そういえば先日の国王陛下への謁見の時に、興味深いことをお聞きしたんですよ」

 と周囲に聞こえるような声で話し出した。

「先代の聖女様は王家に嫁がれたそうなんです。王太子様とご結婚なさって、のちに立派な王妃になられたんですって。肖像画も見せていただいたんです。すごく素敵な方でした☆ あたしも見習わなきゃって思いました!」


 すると、教会派の貴族達が便乗してきた。

「聖女殿は我が国の宝ですからな! 王妃の座こそ相応しい」

「ああ、聖女殿が王妃になってくだされば国も安泰でしょうな」


 ロゼがいるのに平気でこんな話題を出すなんて不敬でしょ。あの女と教会派は馬鹿なのかな。

 ロゼは俯いて、それから「少し席を外しますね」と小声で言ってその場から離れた。


 兄上はそいつらに向けて鋭い視線を向けた。

「私の婚約者の前でする話か?」

 教会派の狸爺共は作り笑いを浮かべる。

「申し訳ございません。聖女様のこととなると、つい熱が入りまして」

「先代聖女様のお話が出ましたので、理想論を述べただけでございます」

  

 僕は心配になって、ロゼの後を走って追いかけた。

 ロゼは会場から死角になっている、花壇の近くに佇んでいた。

「ロゼ、大丈夫?」

 

 ロゼは振り向いて、ぎこちない笑みを浮かべた。さっきまではあんなに蕩けた笑顔を見せていたのに。

「わたくしは少しここで休憩させて頂きます。ユリウス殿下はどうか会場にお戻りください」

「ロゼを放っておけないよ」


 なんで兄上はあんな女を野放しにしているの? なんでロゼを悲しませるの?


(だったら僕がロゼを慰めるよ)


 思わず僕は、ロゼを後ろから抱きしめた。

「無理して笑わなくてもいいんだよ」

「だ、だめです! ユリウス殿下、離れてください!」

「僕ならロゼのことを悲しませたりしないのに」


 ロゼの柔らかい体から甘い花の香りが漂ってくる。

 一度抱きしめてしまうと、離れがたい気持ちが膨らんでいき、抱きしめる腕にさらに力を込めた。

「お願いですから離れてください。ユリウス殿下!」

 後ろから羽交い絞めにされているロゼは、そう言って必死にもがくがびくともしない。一応僕も身体は鍛えているからね。


 すると、威圧するような低い声が響いた。

「ユリウス、私の婚約者に何をしている?」

 声の主に目を向けると、兄上が僕のことを射殺す勢いで睨みつけていた。

「兄上は聖女の相手で忙しいでしょ。早くあの女のところに戻りなよ。ロゼは僕が慰めるから心配いらないよ」

「ユリウス、彼女から離れろ」


 僕は兄上を無視してロゼに向き直った。

「ロゼ。僕は君のことが好きだよ。兄上よりもずっと大切にする自信があるんだ」

「え?」

 ロゼはエメラルドの瞳を大きく見開いたまま、石のように固まった。


「ユリウス、お前は何を言っているんだ?」

 兄上は僕の二の腕を掴み、強引にロゼから僕を引き離した。

「ああ聞こえなかった? それならもう一度言うから、よーく聞いてて」 

 僕と同じ色をした、兄上のサファイアの瞳をまっすぐ見つめながら言った。


「僕はロゼのことが好きだ」


 ――その場に沈黙が流れた。


 だけど、パタパタとした女の足音で静寂はすぐに消えた。

「ええ!? イバン様だけでなくユリウス様ともそういう関係なんですか?! フェリクス様が振り回されて可哀想⋯⋯」

 聖女は空色の瞳を潤ませながら、兄上を見つめている。


 僕が誰かに対して、ここまで呆れ果てたのは初めてだ。この女の頭の中は一体どうなってるの?

「あのさ、僕が一方的にロゼを慕ってるだけで、ロゼは何にも悪くないよ。婚約者のいる男にべたべた絡んでいる自分の事は棚にあげて、何言ってんの? お前にロゼのこと責める資格ないってわかってる?」 

 聖女はぷるぷる震えながら、ユリウス様ひどいです、とか騒いでるけど、そういう演技はもっと上手くやりなよ。


「兄上もなんでこんな状況を許してるのさ。ああ兄上、聖女様に慕われて満更でもなかったりする?」

「黙れ、ユリウス!」

 兄上が僕の腕を掴んだまま叱咤の声を上げる。


 へえ、兄上が声を荒げるのを初めて聞いたかも。

 今までは僕の欲しがるものはなんでも譲ってくれる、優しい兄上だったのにね。


「兄上、今日のところは引き下がってあげる。でもこれ以上ロゼを傷つけたら絶対に許さないから」


 僕は兄上の手を払いのけると、その場を後にした。




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