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地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!  作者: 柊 花澄


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24 王太子フェリクスと異国の菓子

「王太子殿下にお目にかかる機会を賜り、恐悦至極に存じます」

 華美な服に身を包んだ貴族達が、次々と挨拶にやってくる。


 よく晴れた昼下がりの庭園。 

 私は今、王宮主催の茶会に国王代理として出席している。


 今となっては王宮の茶会で定番となった、テーブルに並ぶ色とりどりのマカロンを眺めながら、私はあの日のことを思い出していた。


♢♢♢


 その日は、僕と婚約者のロゼとの交流日だった。


 婚約してからロゼと会うのは二度目の今日、僕は王宮の図書室を案内することにした。

 前回会ったときにロゼは図鑑で兎を見たと言っていたので、本が好きなのだろうと思ったのだ。


 その日、ロゼは淡い黄色のドレスを着ていた。

 今日は菜の花の妖精みたいだな、と思いながらエスコートのために手を差し出した。

 ロゼは頬を染めながら、僕の手に自分の手を乗せた。

 その手は小さくて白くて柔らかくて温かかった。

 僕は心臓の音がロゼにも聞こえたらどうしようと内心焦りながら、平静を装って廊下を歩いた。


「ここが王宮の図書室だよ。国中の本が集められているんだ」

 僕が説明しながら図書室に入ると、ロゼは顔を綻ばせた。

「まあ、こんなにたくさんの本が! なんて素敵な場所なのでしょう!」

 天井まで届く木製の書架が並ぶその部屋を、ロゼは気に入ってくれたようだ。

 ロゼが喜んでいるのを見て、僕もとても嬉しくなった。


「どんな本が好き?」

「今は図鑑を見るのが一番楽しいです。『なんでも図鑑1動物』と『2草花』は読み終えまして、今は『3お菓子』を読み始めたところです」

「そう、それなら『なんでも図鑑』よりたくさん載っている『まるごと図鑑』を見てみる?」


 僕は『なんでも図鑑』の上位版である『まるごと図鑑3世界のお菓子』を書架から取り出した。

 目的の図鑑は高いところにあって、階段式の踏み台の一番上まで登ってやっと届いた。


 二人で図書室の中央にある大きな机の所まで行き、長椅子に並んで座って図鑑のページを開く。

「まあ、『なんでも図鑑』に載っていないお菓子がたくさん!」

 ロゼが両手を頬にあてて感嘆の声をあげる。そして食い入るように図鑑を見つめている。


「どのお菓子が気になる?」

「この『マカロン』というお菓子は初めて見ました。色が綺麗で丸くてとても可愛いです! どんな味がするのでしょう?」

 ロゼはマカロンの絵を見て、蕩けるような笑みを浮かべた。


 可愛い、可愛い! 

 僕はトクトクと早鐘を打つ心臓をそっと押さえた。


 ロゼはそんな僕の様子に気づかず、図鑑に夢中になっている。

「このお菓子は真ん中に穴が開いていますわ! 『ドーナツ』というのですって。中心が生焼けになるのを防ぐためこの形にしたそうですわ。切れ目がないから永遠の愛の象徴とも言われているんですって。なんてロマンチックなのでしょう!」 


 ロゼはやっぱり知的好奇心が旺盛みたいだ。初めての事に遭遇すると夢中になって、知らず知らず饒舌になる。それがとっても可愛くて、僕はそんなロゼの横顔をずっと見つめていた。


「あら、フェリクス様。こちらの棒状のお菓子は何でしょう、ご存じですか?」

 ロゼに聞かれて僕も図鑑を覗き込む。すると二人の頭がコツンとぶつかった。

「あ、申し訳ございません!」

「僕こそごめん」

 互いに謝って、それから目を見合わせてくすくすと笑い合った。そして、頭をくっつけ合って一緒に図鑑を覗き込んだ。


 僕はその夜、侍従に命じた。

「次にプリムローズ嬢が王宮に来る日は、マカロンという異国の菓子を準備して。あとドーナツも」

 侍従は口元をわずかに緩めながら、諾と答えた。


 それ以来、マカロンとドーナツは王宮で定番の菓子となった。


♢♢♢

 

 そんなことを思い出しながら、私は茶会に出席しているロゼに視線を移した。ロゼは爽やかなミントグリーンのドレスを纏い、令嬢達と談笑している。

 襟元から覗く白い首筋と色付いた唇の艶やかさに、私は瞬きをするのも忘れて魅入っていた。


 するとユリウスがロゼに近づき、数個のマカロンが乗った皿を差し出した。ロゼはマカロンを上品に口に運び、次の瞬間蕩けるような笑みを溢した。


 私はその表情を見て息が止まりそうになり、口元を片手で押さえながら呼吸を整えた。

 

 ――他の男には見せないでくれ。その笑顔は私だけのものだ。


 そんな仄暗い独占欲が心を浸食していくのを、その時の私はまだ自覚していなかった。


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