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おかえり

輸送機コクピット


 「2機とも取り付きましたが自力で入ることができません。不安定な状態です」

 「右ゲート開け。田沼、川島両機回収。大森、水瀬! 回収ワイヤーを使え。1番機の足に打ち込め」

 少しして、ワイヤー射出の音が聞こえた。

 『足に突き刺しました。2番機にウインチのワイヤーを繋げます』

 「少し待て。軍の機体が飛び移る。どこかにつかまれ! 落ちるなよ!」

 輸送機に振動が伝わる。

 「2機回収完了」

 


輸送機格納庫


 格納庫に飛び込んだ田沼は先に飛び込んだ2機の状況を瞬時に理解した。

 「もう動けないのか」

 1番機の足に突き刺さったワイヤーのおかげでかろうじてバランスを保っているが、そのバランスが崩れれば2機とも今にも落ちそうな状態だった。

 格納庫の隅では大森と水瀬がウインチのワイヤーを引き出そうとしていた。

 「川島、あの子たちを手伝え」

 田沼はそう言いながら自分の機体を後部ゲートに移動させ姿勢を下げた。次に2番機のように床に穴を開けるとそこを掴みアンカーにした。そして機体を乗り出すと右手を伸ばし1番機の腕を掴み力を入れた。

 田沼の機体の重さに輸送機が傾いた。アンカーにした左腕が軋み、1番機が大きく揺れた。

 川島は機体の姿勢を下げハンガーを掴み固定するとコクピットから飛び降りた。

 「繋げばいいんだな」

 「はい」

 川島は水瀬の引き出したワイヤーを持つと力一杯引っ張り2番機の固定用フックに取り付けた。

 「次はこっちか」

 「お願いします」

 今度は大森の持つワイヤーを田沼の機体のフックに取り付けた。

 「いいぞ、ひっぱれ」

 大森と水瀬がウインチのスイッチを入れ、2機のワイヤーにテンションをかけた。

 「固定完了、上がってください」

 大森の声がコクピットに届いた。




 独立遊撃部隊輸送機は1番機を吊り下げたまま高度を上げて行った。

 やがてシャフトを抜け、安全圏へとたどり着く。

 「シャフト内に残っていたケルベロスが側道の奥へと帰っていくようです」

 軍の無線を聞いている上田が不思議そうな顔で古川を振り返った。

 「急に攻撃が止んだのも、いったい何があったんだろう」

 「一旦着陸します」

 周囲にケルベロスがいないことを確認し、輸送機は吊るした1番機を寝かせるようにゆっくりと着陸した。


 着陸後、地面に横たわる1番機のコクピットが開く。

 中から梅原と市ノ瀬が出て来たことに皆が驚いた。

 「お帰りなさい!」

 「ただいまぁ」

 大森と水瀬が市ノ瀬に駆け寄り抱きついた。

 「おかえり。がんばったね」

 顔を歪ませた上田が梅原を抱き寄せた。

 「よくやった」

 「本当に」

 古川が声をかける。その横で遠藤も笑顔を向けた。

 市ノ瀬から事情を聞いた大森と水瀬が2番機のコクピットを維持するためにすぐに処置を始めた。

 梅原と市ノ瀬は、田沼と川島の元に駆け寄った。そして助けてもらったお礼を言った。

 川島は2番機に何が起こっていたのか全くわからなかった。しかし、田沼は先の戦いでNCBMのパイロットを救助するためにコクピットを開けた時のことを思い出していた。そして、ここで見たことは誰にも言うべきものじゃないと感じた。



 その時、突然地面が大きく揺れた。

 振動は徐々に大きくなり、立っていられないほどの揺れになった。

 その振動を受けて、シャフト内から大きく砂煙が吹き出す。

 振動は波動となり増幅されると、砂煙は紫色の霧となり量を増し、さらに高く上った。

 やがて、太陽の陽を遮るほどに空を広く覆った。

 周囲が暗くなる。

 完全に光を遮断する。

 光のない世界。

 激しい揺れの中で、身を寄せ合う。

 何も出来なくて、ただ耐えるだけの時間。

 このまま、何もかもが崩壊してしまうのかもしれないと皆が思った。

 気の遠くなるほどの時間だったか、それとも一瞬だったのか。

 やがて揺れが収まる。

 すると、むらさき色の暗闇の中、わずかに風を感じた。

 徐々に感じる風が強くなる。

 顔を上げると、空を覆っていた紫色の砂煙が風に飛ばされるように消えていった。

 太陽の陽とともに暖かさが戻る。

 目に映る今までと同じ世界に、皆が安堵した。


 しかし、そこに巨大な穴だったシャフトは存在しなかった。




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