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おやすみ

側道内


 4機のNCBMは、報瀬が道を開き、梅原と市ノ瀬がそれをカバーし、さらに田沼と川島が後ろを守るようにシャフトに向けて移動していた。

 やがてシャフト主幹に出る。開口部からの光が差し込んだ。

 「あれだ」

 梅原は降下する輸送機を見つけた。

 「先に行きなさい」

 報瀬は壁を伝って降りてきたケルベロスを殴りながら梅原に言った。壁にはまだ無数のケルベロスがNCBMを狙っている。

 「報瀬さんの機体の方が損傷が激しい。先に上がってください」

 報瀬は2番機がもう保たないことをわかっていた。

 「わたしはいい。行きなさい」

 「だめ! 諦めるなって言ったのは報瀬さんだよ。あたしの機体を戻して!輸送機にあげて!」

 市ノ瀬の涙声が響いた。

 報瀬は初めて自分自身になった機体のことを思い出した。

 そうだ、あの時自分は何よりも自分自身である機体が大切だった。ずっと一緒にいた機体。市ノ瀬もきっと同じ気持ちなのだろう。

 「わかった。すぐに来るんだよ」

 報瀬は輸送機に向けてジャンプした。バーニアを最大に伸ばす。

 『もう、限界』

 2番機の還流液は循環最低量よりも低下していた。このままでは全身が動かなくなる。ジャンプの途中で報瀬は下半身の循環をカットした。

 『また、足だなんて』

 その直後、バランスを失った2番機は輸送機の中に転がるように滑り込んだ。

 『1番機も保たないかも』

 報瀬はうつ伏せになり、まだ動く左右の腕でもがきながらゲートの端に機体を移動させると頭のない体を乗り出した。1番機がまさに飛び出すところだった。周囲では田沼と川島が援護している。

 ジャンプと同時に1番機の膝から還流液が吹き出した。その吹き出し方から考えて、十分な飛距離は出ない。

 報瀬はさらに体を乗り出した。機体がゲート外に滑り出す。報瀬は輸送機の床に左腕を力一杯肘まで突き刺し、落ちないように固定した。

 「高度をもっと下げて!」

 「今やっている!」

 どこからか聞こえた声に、遠藤が叫んだ。

 

 

 「だめだ。左足が動かない」

 1番機は壁を蹴った時に膝の大きな靭帯を切っていた。還流液を吹きながらあらぬ方向を向いている左足。

 還流液低下の表示が点滅する。

 「切るよ!」

 市ノ瀬はタッチパネルを操作し、役に立たない足の循環をカットした。

 全周囲モニターに輸送機の後部ゲートが迫る。限界までバーニアを噴出させる。

 取り付くために、残っている右腕を伸ばした。しかし、わずかに届かない。

 何も掴めぬまま機体が一瞬止まり、少しして降下を始めた。

 その時、届かなかった1番機の手を2番機の手が掴んだ。梅原はその手を握り返す。

 「もう無理だから。その手を絶対に離さないで」

 「どういうこと」

 「起きるのとそのあとの構築にすごいパワーが必要だったの。もうバックパックを使い切っちゃったから。だから、もう寝る。おやすみ」

 2番機が動きを止めた。

 バックアップ用で再起動させた2番機のコクピットのモニターに、スリープモード作動の表示が現れる。

 梅原は力の抜けた2番機の手を力一杯握っていた。




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