伝播
独立遊撃部隊輸送機
シャフトを降下する輸送機の周囲には、ケルベロスの集団が今にも飛びかかろうと蠢いていた。
「田沼、川島両機、側道から空洞内に突入。2機を発見しました」
「2機はなんと言ってる」
「連絡ありません。先ほどつながったのですが、通信が安定しません」
「このままじゃ危険だ。一旦上昇する」
格納庫で回収の準備をする水瀬の代わりに機銃席に座っている古川が、輸送機に飛びかかって来たケルベロスを撃ち落とした。
NCBM部隊の援護が届かないこの位置に長時間留まるのは危険だった。
輸送機のエンジン音が大きくなり上昇を始めた時、急に機体に衝撃が伝わり左に傾いた。
「どうした?」
「左側面? ケルベロスに取り付かれました」
格納庫内で作業をしていた水瀬は突然の大きな音に振り返った。
ゲートの壁から突き出る巨大な爪。すると一瞬で穴が大きく裂けるように開き、ケルベロスが飛び込んできた。
突然現れた目の前の巨大なケルベロスに、水瀬は言葉を失いその場に崩れ落ちた。
唾液を飛ばしながらケルベロスの口が大きく広がる。
水瀬は恐怖の中、必死に姿勢を保ちケルベロスから目を離さなかった。
睨み付けるようにケルベロスの赤い目が光る。
水瀬と目が合った。
すると、ケルベロスの動きが止まった。
水瀬は、一瞬、周囲の音が消えたような気がした。
頭の中が静かに波打つ。
柔らかな波動。
ケルベロスは口を閉じ、そして目を細めた。
水瀬は不思議と恐怖心が消えていくのを感じていた。
やがてケルベロスはゆっくりと向きを変えると、飛び込んできた穴から出て行った。
「慧ちゃん!」
格納庫の反対側で作業をしていた大森が慌てて水瀬のもとに走って来た。
「え!?」
ゲートに開いた大きな穴に気付いた大森は息を飲んだ。
その穴を見つめる水瀬は、先ほど頭に伝わった不思議な波を小さくつぶやいた。
『ダイジョウブダヨ・・・』
「ケルベロスが離脱したようです」
機体の軽さを感じた遠藤が不思議そうに言った。
「何が起こった?」
隣の古川が上田を振り返った。
「わかりません。ただ、急にケルベロスの攻撃が止んだようです」
上田は索敵モニターを見直し、驚いた。
「一部のケルベロスが周囲から退いていきます」
『梅干し・・。もうすぐ・・・出ます!』
雑音の中、梅原の声が聞こえた。
「降下開始。この隙に機体を4機とも回収する!」




