Lily of the Valley ~ネックレス編~
コークから車でダブリンへと到着したマキとマークは、マキがアメリカに戻る前にどうしても寄りたいと言った店へと辿り着いた。
マキが一人で市内観光していた時に見つけた店で、今、耳に付けているスズランのピアスを購入した小さなセレクトショップだった。ドアを開けると、例の貴婦人が目を見開いて、
「まあ!あなたね!お名前は、マキ、だったかしら?」
と、出迎えた。
「はい、マダム、しばらく振りですね」
婦人は後から入ってきたマークを見て、にっこりと笑ってから、
「もしかすると、あなたにもう石のごりやくがあったのかしら?」
と、言った。
「そういうことになるのかな?こちらマーク、あたしの恋人です」
「ほーらね、やっぱり。石はなんでもお見通しなのよ」
そう言って、マダムはマークの握手に応え、マキにウィンクして見せた。
「ネックレスの件、ご連絡ありがとうございました」
「ううん、とんでもない。実はね、このネックレス、在庫がないと聞かされて、すこーし手間はかかったのだけれど、ちゃんとここに届いたの」
婦人がビロードの箱を開けて見せてくれた中に、シンプルだが華やかなネックレスが入っていた。
「「わぁ~」」
マキとマークは二人同時に感嘆の声を上げた。
「この子を一目見て、これは是非あなたに持っていてもらいたいと思ったの。どうぞつけてみて」
マキがネックレスを取り出し、
「ねえ、マーク、やってくれる?」
と、マークに聞いた。マークは二つ返事でネックレスを受け取り、マキの華奢な首の後ろで留め金を嵌めた。
「どう?」
くるりとマークの正面を向くと、ネックレスはマキの胸元によく似合った。華美過ぎないが、しかし、良質の品。肌理の細かい乳白色の肌に映える。
「うん、ステキだ」
婦人はその二人の様をニコニコしながら見ている。マキは嬉しそうに笑ったが、姿見の中の自分を見て、
「はぁ~、でも高いなぁ・・・」
と、ぼやいた。すると、
「オレがプレゼントするよ」
と、すかさずマークが言った。婦人は満面の笑みになって、
「そうこなくっちゃ」
「えええ~!?本当にいいの?」
「うん、いろんな詫びとか感謝とか。とにかくオレが買いたい、キミに」
「ありがとう。とっても、とっても嬉しい!」
マキは飛び上がらんばかりに喜んだ。
支払い時、婦人は自分が調香したという香油と、その香油を使った手作り石鹸、アイルランド産のバラの花びらを入れた紅茶をおまけに付けてくれた。
「マダムは調香師でもあるんですか?」
「そうなの。薬草師でもあるのよ。この紅茶もわたしがブレンドしたものよ」
「もしかして前来た時に、出してくれたお茶?」
「あの時は心を落ち着かせるものをお出ししたわね。でも今日は、バラね。あの時のあなたと今日のあなたは違うから」
「そういえば!旅の途中でピクニックした時に、四つ葉のシャムロックを見つけました」
マキはそう言って、ジャーナルに挟んだシャムロックを夫人に見せた。婦人はニコニコと、
「ケルトの大地があなたを後押ししてくれていることの証ね」
と言い、またウィンクして見せた。
マキがまた一通り店内の商品を見ている間、マークがクレジットカードで支払いを済ませると、婦人はマークに、
「女性を美しく保つのは、パートナーであるあなたの仕事。あの子を泣かせてはダメよ。大事になさい」
と、人差し指を立てて言った。なぜだろう、初めて会った店主に言われるようなことではないだろうに、婦人の言葉はすとん、と、マークの胸に収まった。
「肝に銘じます」
「大切な女なのでしょう?」
「ですね。ボクにとって掛け替えのない女性です」
マークはそう明瞭に答え、ニッと白い歯を見せ笑った。婦人も微笑み、うん、と満足そうに頷いた。
二人が店を出る際、婦人も一緒に店外へと出てきた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、石と人とのご縁繋ぎができて光栄だったわ」
「あの・・・」
ためらった様子のマキを見て、婦人は首を傾げた。その仕種も可愛らしい。
「ハグしても・・・、構いませんか?」
マキがそう言うと、婦人は慈愛に満ち満ちた笑顔を見せ、両腕を開いた。マキが抱きつくと、婦人は優しく包み込むようにマキを抱き留めた。それを隣で眺めていたマークは、二人の目にキラリと光るものを見た。
アイルランドにやって来てからというもの、不思議なことばかり起きているので、きっとこれも何か意味のあることで、自然の流れなのだろう、と納得した。
「お幸せにね!」
そう言って、婦人は手を振り、マキとマークが見えなくなるまで二人を見送った。
「魔女だな、あの人は・・・」
歩きながら、マークがぼそりと呟くのを聞いて、
「ええ?」
と、マキは聞き返した。
「現代に生きる魔女なんだよ、きっと」
「もしそうだったら、楽しいわね!」
マキがくすくす、と笑いながら、ポケットに手を入れているマークの腕を取って組もうとしたので、マークはポケットから手を出し、きちんと拳を握って親愛なるレディの手を自分の腕に絡め取った。
貝殻でできたスズランの花が揺れ、石はキラキラと輝いて見えた。




