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虹色の扉 番外編  作者: ひめみや
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My Dearest One ~最愛なるお嬢様~

オスカルは東屋にいるミリアムとマウラのために紅茶と厨人くりやびとが用意した焼き菓子を持って庭へと出た。


本日はマウラの十五度目の誕生日で、晩に伯爵一家と使用人だけの祝いの席が準備されている。姉妹がもうすぐ都へと発つので、城内はなにかと気忙しく、今年の宴は縮小してもよいとの主賓が仰せなので、大々的には行わないこととなっていた。


「お嬢様方、お茶をお持ちしました」


オスカルが東屋に出向くと、二人はなにやら冊子を覗き込んでいた。


「ありがとう、オスカル」


ミリアムが礼を言い、卓に置いていた数冊の本を腰掛けの上に避けさせた。オスカルは茶道具を卓の上に並べながら、


「何か御熱心に見ておいでですね」


マウラは冊子から顔を上げ、茶請けの菓子は何かと見てから、


「昨日、町に出た時に、姉さまが行きつけの本屋で、今、仏国で流行している衣装が載ったこの冊子を見つけたの」


と、言った。開かれた頁をオスカルが見ると、色とりどりの衣装が描かれていた。


「それは今のマウラ様にはうってつけでございますね」


「そうなんだけど、同じような衣装がここで買えるとは思えないし、やっぱり夜会服は都で揃えるしかないと思うのよ」


王都にある親戚筋の屋敷にて姉妹のために夜会が開かれることとなっていて、その際に着る衣装をこの数か月もの間決めかねているマウラなのだった。ミリアムは既に持っている衣装で済ませるつもりだという。


「きっと都で素敵な一着と巡り合うわよ」


ミリアムがオスカルの淹れた紅茶を一口飲んでから言った。


「なんならクリストルに見立ててもらったら?」


ミリアムのその一言で、マウラの目が一瞬に輝いた。


「そうだわ!クリストルが遣っている仕立屋に連れてって下さるわよね?」


「もちろんよ。今は英国の都に住んでいるから、あの伊達男さんの目利きはもっと優れているはずよ。母さまも伯母さまに文でお願いしておくとおっしゃっていたじゃない」


上気した顔に、胸の高鳴りを抑えられないといった様のマウラを見て、ミリアムとオスカルは笑った。クリストル、とは姉妹の従兄にあたる、マウラの憧れの君でもある。


「宴の準備はどんな感じ、オスカル?」


「滞りなく進んでおります」


「そう。それはよかった」


マウラは美味しそうに菓子を口に入れてからオスカルに問うた。


「お前の旅支度はどうなっているの?」


「わたくしめのですか?このお仕着せと寝間着、普段着の数着があれば充分でございますから、支度という程でもございません」


都へは一月滞在の予定で、この執務補佐役であるオスカルを供なっていくことになっているのだ。都まで到達するのに幾日か要するし、あちらの伯爵家でも姉妹専用の執事として仕える。客が二人増えるくらい問題ないのだろうが、何かあった時のために、と姉妹の父である伯爵の指示であった。


「こういう時、殿方は簡単でいいわよね」


マウラがため息をつきながらそう言ったので、ミリアムは、


「それはマウラが複雑にしているだけよ。現にわたしはもう旅支度は終わっているもの」


と、物に執着しない性質なので易々と言ってのけた。


「わからないわ、どうしたらそうなれるのか。だって、あれもこれも必要になるかも知れないとは思わないの?」


ミリアムとオスカルは目を合わせ、


「思わないわ」

「思いません」


と、仲良く同時に言った。


「ああ、はいはい。そうやって二人でわたしに意地悪してればいいわ。都に着いたら、趣味のあうクリストルにあちこち連れて行ってもらうんだから」


軽口を叩いた後笑っていたミリアムは、思い直したように言った。


「それにしても、本当に楽しみね。二年前もそうだったけど、こうして三人でまた旅ができるなんて」


「さようでございますね。わたくしもまた都にお嬢様方とご一緒できることをとても楽しみにしております」


そう、オスカルは言ってから、微笑んだ。



(ミリアム様、マウラ様、お二人との旅、か・・・。この先、そのような機会は果たして、あるのだろうか。いや、むしろこの何気ない日常の風景。お嬢様方が庭や城内でご一緒にくつろいでいらっしゃる姿を見られるのは、もうあと少しなのやも知れない・・・)


オスカルが自分達をじっと見ている様に気付いたミリアムが、ふ、とオスカルに顔を向けた。形の良い唇をすーっと引き、悪戯っぽく笑ってから、


「なあに、オスカル?考え事?」


と、聞いた。


「いえ、特に申し上げる程のことでは・・・」


オスカルは首を横に振りながら答えた。


「大方、この三人で行く旅はこれが最後かもなんて、感傷的にでもなっていたのではないの?」


「さすがは、ミリアム様。ご明察の通りです」


「それじゃ、尚更、楽しい旅にしなくてはね」


ミリアムはそう言って、美しい笑顔をオスカルに見せた。


(ああ、ミリアム様、貴女様は本当に美しく、そして賢くご成長されましたね。お嬢様のお側にいられますことを、このオスカル、大変光栄且つ幸運に思います。


この先もずっとお嬢様のお側にて心を込めてお仕え致します。わたくしは、貴女様がこの世に生まれてこられたあの日より、いつ如何なる時でも・・・)



ミリアムの笑顔に負けない古拙の笑みを浮かべたオスカルは、胸の内で祈った。



(貴女様の御心に触れるものすべてが、美しきものでありますようお祈り申し上げております)

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