My Dearest One ~貴き白ユリ~
旅立ちの日、オリバーはマキをコークまで送っていくことにした。
スシディナーの後、オリバーは夜更かしして、キッチンで音を立てないように、何やらゴソゴソとやっていたのだが、
「マキ、荷物になるとは思うのですが・・・」
と、マキが喜んで食べたキッシュやスコーン、それにクッキーが入った紙袋を渡した。マキは中身を見て、
「後片付けのあと、何かやってたようだけど、まさかこれ、全部作ったの?一晩で???」
オリバーは照れ笑いしながら頷いた。
「とっても嬉しいけど、ほとんど寝てないんじゃないの?」
「お気になさらず。わたしがあなたにできることなんて、限られていますから・・・」
マキはやれやれ、という表情のあと、
「あなたって人は・・・、でも、ありがとう。きちんと全部食べるわね」
マキは友人の友人宅に泊めてもらうらしく、その家まで連れて行った。家主の若い女性に挨拶し、荷物を車から降ろして、マキに向き合った。
「ホントに何から何まで、オリバー、あなたには感謝してもしきれないわ」
「わたしはセミリタイアの身ですよ。時間はたっぷりあるんです」
マキはじっとオリバーを見つめ、
「ありがとう」
と、ハグしてきた。オリバーはもちろんそれに応え、彼女をぎゅっとハグし返した。
「あなたにお会いできたのは、類まれなる奇跡でした、マキ」
そう、オリバーは言い、彼女の頬にチュッとキスした。
「あたしもそう思うわ。初めて会ったとは思えないくらい。ここでオリバーと過ごした数日間はとっても楽しかった」
「あなたの幸運を心から願います。そして、またアイルランドに来て、この地域に来ることがあれば、連絡を下さい」
「うん。もちろん、そうする。オリバー」
マキは輝くような笑顔をオリバーに向けた。
(さしずめ・・・ユリ、かな。うん。凛とした佇まいの、白いユリが彼女に似合う。素晴らしい芳香を持つ貴き白ユリ。
―お行きなさい。貴女には自由に飛び廻ることのできる翼があり、大空へと羽ばたいていける)
「ありがとう、元気で」
その言葉を最後に、彼女は手を振って、フラットの中に消えていった。
(貴女様の御心に触れるものすべてが、美しきものでありますようお祈り申し上げております)
オリバーは、胸に手を充て、しばらくその場に佇んでいたが、さあ、帰ろう、と、車に乗り込み、発進させた。
リー川を越えて、ケルト海方面へ向かった。車は町からどんどん離れていく。つけていたラジオからは何かが聞こえるが、耳には全くその内容は入って来ない。コーク市内に入ったのは久し振りだ、と、思った。見慣れた海沿いの景色の中をしばらく運転していた。
(やはり彼女は良い匂いだったな・・・)
頬にキスした際に匂い立った彼女の香りを思い返してみる。そして、
『ありがとう。元気で』
別れ際にそう言ったマキの美しい姿形を思い浮かべた。
すると、急に何かがグーッと胸の奥深くから押し寄せてきて、オリバーは咽び泣いた。




