24 巨大ゴブリン
「はぁ……」
重たい気持ちを感じながら、ボクは道を引き返す。
子ども部屋があったということは、もうすぐ最奥だと思うんだけど……。どこが最奥なんだろう?
湿った土の匂いと独特な獣臭の充満した洞窟の中を歩く。気付けばあれだけうるさかったゴブリンたちの叫び声もなくなっていた。
静まり返った洞窟の中、ボクの息遣いと歩く音だけが反響する。
ふと曲がり角を曲がった時だった。
「シールド!」
なぜかすごい悪寒がして、ボクは本能にしたがってシールドを展開する。
その瞬間――――!
ズボッと音が聞こえるほど高速で何かが時空間の中に入り込んだ。それが何か確認する前に、また何かが時空間に高速で飛び込んでくる。
確認すると、それは木を削って作った人間には扱えないほど大きな槍のようなものだった。近い物を挙げるとするならば、バリスタの大きな矢が一番近いだろう。でも、バリスタの矢よりも一回り以上大きい。
そんな物が、今も次々に展開した時空間に飛び込んでくる。その数、合計七本。
さすがに弾切れなのか、それ以上の攻撃はなかった。
攻撃?
そうだ。攻撃されたということは、敵がいるということだ。
ボクは少しだけシールドを小さく展開し直すと、それが姿を現す。
大きい。とにかく大きい筋骨隆々としたゴブリンだ。その周りにいるのは、人間大のゴブリン、ホブゴブリンだろう。そのホブゴブリンの倍は大きい。普通のゴブリンと比べるのも失礼なくらい差がある。もう本当にゴブリンなのかもわからないほどだ。
知らず知らずのうちに喉が鳴っていた。初めて見るゴブリンだ。ボクにもあのゴブリンが何なのかわからない。
だが、ここまで来たんだ。戦わないという選択肢はない。少なくとも、ボクの持つ手段が何一つ通じないとわかるまでは、逃げない。
正直、今にも逃げ出したい。お金なんてもうどうでもいいとさえ思った。
でも、子ども部屋で見た人間の女性の骨の山。城塞都市エスピノサの壁の外にいたということは、あの女性たちも冒険者だったのだろう。なぜだかセシリアの姿が重なって見えた気がした。もう、あんな人たちを増やしてはいけない!
「ショット!」
ボクはホブゴブリンの首の高さでショットを放つ。これなら、ホブゴブリンも倒せるし、あの正体不明の巨大ゴブリンにも致命の一撃を喰らわせることができる。
「喰らえ!」
ボクの狙い通り、ポロリと落ちるホブゴブリンの頭。
しかし――――!?
「なっ!?」
なんと、巨大ゴブリンがジャンプした。ホブゴブリンの首が落ちるのを見て、攻撃を察知したのか? どんな反射神経してるんだよ!?
今まで敵に察知されたことのないショット。それを察知されたというだけで、ボクは自分でも驚くほど動揺してしまった。
ズシリと重たい音を響かせて、巨大ゴブリンが降ってくる。お供のホブゴブリンは全滅したというのに、その顔には動揺は見られない。
でも、ボクの攻撃を避けたということは、ショットが有効打になる可能性が高い。
そこでボクは一つ仕掛けをすることにする。
「ショット!」
それは、ショットで打ち出す時空間を網目状にすること。これでもう縦にも横にも巨大ゴブリンに逃げ場所はない。
「GA……」
巨大ゴブリンは、すべてを諦めたようなように背筋を伸ばして立っていた。
そして、網目状のショットによって、まるでサイコロのようにカットされる。
バラバラと崩れ落ちていく巨大ゴブリンだったもの。
「勝った……?」
ボクはそれを信じられないような心地で見ていた。
たしかに、ボクはあの巨大ゴブリンを倒すつもりだった。
でも、おそらくあの巨大ゴブリンは、ボクが見てきた中で一、二を争うほど強いモンスターだったはず。普通に戦えば、『タイタンの拳』でも勝てるかどうかわからないほどの。
それぐらいあの巨大ゴブリンからは覇気と強者のオーラを感じた。
その巨大ゴブリンが、今ではボクの魔法によって手も足も出ずにバラバラになっている。その事実に理解が追い付かない。
「勝った……」
だが、だんだんと理解が追い付いてくる。
ボクは気が付けば自分の右手を見ていた。
ボクのギフト【時空魔法】。
最初は劣化マジックバッグだと思っていた。マジックバッグには容量も時間を止める効果も追い付けない。便利と言えば便利だけど、中途半端なギフトだと思っていた。
そのはずだったのに、セシリアのおかげで攻撃手段になり、ボクの攻防一体の魔法になった。【時空魔法】への見方も随分変わった。
それでもなお不足だったらしい。
これはとんでもない能力だ。
高位のモンスターには、魔法に対して耐性があるモンスターが多い。あの巨大ゴブリンもそのうちの一体だろう。
それなのに、ボクの魔法を防ぐことができずに、一撃でバラバラになった。これの意味するところは大きい。
「いったい、ボクの魔法はどれだけ強力なんだ……?」
自分でも恐怖を覚えるほどの破壊力。それがボクの手の中にある。
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