第二章二 消えた焚き火
ヒナは両手で顔を覆っていた。
だが、指の隙間から覗く頬は、はっきりと赤く染まっている。
「先輩が……私と……もっと……一緒に……」
か細い声が、焚き火の音に紛れて消えかける。
「お、おう……その……もっと一緒に冒険したいなって……」
トウマが言葉を補った、その瞬間――
ヒナの胸に、一瞬だけ高鳴りが走った。
けれど、その意味を理解した瞬間、ふっと力が抜ける。
「……はあぁぁぁ〜。そういうことだったんですね」
長い吐息とともに肩を落とす。
頬の赤みも、ゆっくりと引いていった。
なんだ……そういう意味だったんだ……
ちょっと期待しちゃったじゃん……
……でも、嬉しいな
内心の揺れを押し隠すように、ヒナは顔を上げる。
「ヒ、ヒナ?」
様子をうかがうトウマに、ヒナはにこりと笑った。
「そんな風に言ってくれて、嬉しかったです。もっと一緒に冒険しましょうね。辛いこともきっとあります。でも――トウマ先輩と一緒なら、大丈夫です」
一瞬だけ驚いたように目を見開いたトウマだったが、すぐに柔らかな笑みに変わる。
「……ああ。俺も、ヒナと一緒なら、なんでも乗り越えられる気がするよ」
その一言で、再びヒナの頬が染まる。
「先輩……そういうところです!」
まっすぐ見つめながら、少し強めの声で言う。
「え?な、何が?」
本気で分かっていない顔に、ヒナはぷいっと顔を背けた。
「もういいです!寝ます!」
そのまま横になり、背を向ける。
やべ……また何かやったか……?
トウマは頭を掻きながら、揺れる焚き火を見つめた。
初日は俺が起きてるか……
何かあったとき、二人とも寝てたらまずいしな
炎がぱちぱちと音を立てる。
――けれど、その奥。
洞窟の深部から漂ってくる気配に、わずかな違和感があった。
……なんだ、この感じ
そのときのトウマは、まだ気づいていなかった。
――この夜が、静かに終わることはないと。
「はっ!」
トウマは弾かれたように目を覚ました。
「やべ……寝てた……!」
思わず声に出し、洞窟の外を見る。
外はまだ夜のまま。月の光だけが淡く差し込んでいた。
「あ、先輩起きました?」
不意に横から声がする。
振り向くと、そこにはヒナがいた。
透き通るような橙の瞳が、こちらを静かに見つめている。
焚き火の光が彼女の髪を照らし、やわらかな輝きを帯びていた。
「火、もうすぐ消えそうなので、拾ってきますね。先輩は寝てても大丈夫ですよー?」
にこっと笑い、ヒナは立ち上がる。
そのまま、暗い森の中へと消えていった。
トウマは、その小さくなっていく背中を見つめながら、強く唇を噛む。
まただ……
いつもヒナに頼りっぱなしで……
拳を握りしめる。
こういうときくらい……役に立てよ、トウマ……!
夜の森は、異様なほど静かだった。
――まるで、何かを待っているかのように。
焚き火の炎が、ゆっくりと小さくなっていく。
やがて――
「パチッ」
小さな音とともに、最後の火が消えた。
途端に、温もりが消える。
「うっ……寒っ……!」
肌にまとわりつくような冷気に、トウマは思わず腕を抱いた。
洞窟の奥から、冷たい空気が流れ込んでくる。
やっぱり焚き火ないときついな……
ヒナもまだ戻ってこないし……
ゆっくりと立ち上がる。
「……俺も拾いに行くか」
一歩、踏み出す。
――だが。
二歩目は、出なかった。
ピタリと、動きが止まる。
……なんだ…?
背中に、粘りつくような感覚。
息を飲む。
いる………!
確信する。
――後ろに、何かがいる。




