表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/37

第二章一 共にある夜

「おいヒナ!大丈夫か!?」


 トウマは駆け寄り、膝をついてヒナの顔を覗き込む。

 額には汗が滲み、呼吸は荒く、不規則に揺れていた。


「ヒナ……無理をさせて悪かった」


 胸の奥に、じわりと広がる無力感。

 自分はまた、守られる側だった。


「先輩……おんぶ……」


 か細い声。けれどその奥に、わずかな悪戯っぽさが混じっている。


「おんぶ?ああ、分かった」


 トウマは迷わず頷き、ヒナを背中に乗せた。


 ――っ!


 柔らかい感触が背中越しに伝わり、思考が一瞬で吹き飛ぶ。


(な、何考えてんだ俺……!)


 慌てて頭を振り、雑念を振り払う。


 そしてそのまま、ゆっくりと歩き出した。


 平原を渡る風が草を揺らし、陽の光が広く地面を照らしている。

 静かな、穏やかな景色だった。


「それにしても……軽いな」


 ぽつりと零れた言葉。


「そ、そうですか……? それは……よかったです」


 ヒナはわずかに頬を染め、小さく笑った。






 そんな他愛もないやり取りを重ねるうちに、気づけば森の入口へと辿り着いていた。


 空は赤く染まり、日が沈もうとしている。


「そろそろ暗くなるな。今日はどこで休む?」


 背中のヒナに問いかける。


「うーん……洞窟を探しましょう!」


「そうだな……って、そろそろ歩けるよな?」


 何時間も背負い続けた肩が、限界を訴えていた。


「はい!ありがとうございました!」


 ヒナは満面の笑みで答え、軽やかに背中から降りる。


「じゃあ、洞窟探すか」


 今度は並んで、森の中へと足を踏み入れる。


 木々が生い茂り、光は細く差し込むだけ。

 空気が少しだけ冷たくなる。


「冒険初日の夜が洞窟なんて、ちょっとワクワクしますね!」


 ヒナは両手を後ろで組み、顔を覗き込むようにしてくる。


「うおっ……近い近い」


 思わず一歩下がるトウマ。


「にしても、元気だなヒナ。回復してよかった」


「実は、一時間くらい前から普通に歩けましたよ!」


「……ん?」


 思わず間の抜けた声が出る。


「まあ……今まで助けてもらったしな!」


 トウマは自分に言い聞かせるように声を張る。


 すると、ヒナは急に視線を逸らし、もじもじと指を絡め始めた。


「だって私……もっと先輩の背中に――」


「あ!洞窟あったぞヒナ!」


 言葉は、あっさり遮られた。


 指差した先には、ぽっかりと口を開けた洞窟。


 日が完全に落ちる前に見つけられたのは幸運だった。


 ――しかし。


 ふと視線を戻した先で、ヒナが頬を膨らませている。


「あ、あの……ヒナさん?」


 なぜか敬語になり、後ずさるトウマ。


「……いえ、なんでもありません」


 明らかに“なんでもある”顔だった。


(やばい、怒ってる……さっき遮ったからなのか?……)


 気づいたときには、すでに遅い。


 ヒナはぷいっと背を向け、そのまま洞窟へと入っていった。


「ヒ、ヒナー?大丈夫か?」


 声をかけながら後を追う。


「はい!奥まで続いてますけど、魔物はいませーん!」


 すぐに切り替えたヒナの反響する声が返ってきた。


「ありがとう、ヒナ」


 トウマは暗がりへ足を踏み入れる。






 二人は枯れ枝や落ち葉を集め、火を起こした。


 気づけばすっかり夜。

 洞窟の中で、焚き火の橙色だけが揺れている。


「あったけぇ……」


 トウマは手をかざし、火の温もりに息をつく。


「先輩、二人きりですね」


 ヒナがくすりと笑う。


「悪いな。これからずっとそうだぞ」


「っ……そ、そうですね……」


 小さく呟いた声の奥に、抑えきれない喜びが滲んでいた。


「でも、仲間とか……増やさなくていいんですか?」


「仲間か……」


 トウマは少し考え、火を見つめる。


「信用できる奴ならな。でも……」


 顔を上げる。


「最悪できなくても、ヒナと一緒なら安心だしな。……それに、もっとヒナと一緒に居たいしな。」


「――え?」


「え!?!?」


 一拍遅れて、ヒナの顔が一気に赤く染まる。


「ど、どうしたヒナ!?」


 トウマが慌てる横で、ヒナはぐるぐると目を回していた。


 焚き火が静かに揺れる。


 その橙の光に照らされたヒナの横顔は――

 どこか、満たされたように柔らかかった。






 温かな光に包まれた洞窟の入口。


 だがその奥は、ひんやりとした空気が流れている。


 静寂の奥に、何かが潜んでいてもおかしくはない。


 ――そんな気配が、確かにそこにはあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ