三十九、みのけもよだつはなし
「女ってさ、何されてもやばい写真を撮って残しておくと、結構言う事聞いてくれるんだよね。ネットにばら撒くとか言っといたら勝手に黙っててくれるし、引き篭もっても意外と命令は聞いてくれるようになるんだよ。馬鹿だよねぇ?」
「……!!」
「恥ずかしい写真を他人に見られるぐらいで、何をそんなに怯えてるんだか……親に見られたくないとかなんとか言ってる子がいたけど、そんなの我慢して言っちゃえば全部解決するのに。ま、そういう証拠はなるべく残さないようにしてるんだけど」
「っ……!」
「そういう馬鹿ほど堕とすのに手間がかかるし、結局堕ちない奴はぼろくそにしておかないとものにできないし、ほんと女って面倒臭いんだよね……君とかさ」
語れば語る程、普段の爽やかさが一体何なのかと思えるほど下劣で悍ましい本性を晒し続ける男。
〝声〟を聞いてなお、見通せなかった悪魔のような本質を目の当たりにし、深月は呼吸を引きつらせ身を強張らせる。
逃れられない。もう、自分一人ではどうしようもない、とんでもない〝敵〟に標的にされた。
最早できるのは、この状況に誰かが気付いて来てくれるよう祈る他にない……例えば、彼や彼の家族に。
結局期待してしまう自分自身に嫌悪感を抱きながら、制服を脱がそうと四苦八苦する八本の手に鳥肌を立て、身を硬くして顔を逸らす。
そんな深月に、大島は胸を踏みつけにしたまま顔を近づけ……悪意に満ちた笑みで告げる。
「あ、言っておくけど助けは本当に来ないよ? ーーーお友達の陰キャ君、今頃俺の知り合いに殺されてるかもだし」
ひゅっ……と、荒くなっていた呼吸が凍りつく。
明らかに表情を変えた深月の顔を見下ろし、大嶋はくすくすと肩を揺らして笑う、嗤う。
鼠を追い詰める猫のように嗜虐的に、只管愉しげに少女の顔を眺める。
「あれは彼氏かな? いや、彼氏彼女っぽいかんじではなかったよね。これから仲良くしようとしてた感じかな……でも残念。俺の獲物に手を出した時点で重罪だよ」
「ふっ、ん……!?」
「俺、結構マジで危ない先輩にも縁があってさ……このあと深月さんを紹介してあげるから、あいつ適当に半殺しにしてきてって頼んでおいたんだよね。あ、これも証拠隠滅の準備済みだから」
けらけらと声を上げる大嶋。四人組もそれに合わせて、ややぎこちなく笑い声をこぼす。
もがく事も忘れた少女を足蹴にしながら、青年は心底嫌悪感を催させる顔で得意げに、嘲笑いながら告げる。
「俺さ、仲よさそうなカップル見てるとすごいムカついてさ、ぶっ壊したくなっちゃうんだよね。横から彼女奪うのもいいし、適当に彼氏をボコボコにして不登校にさせたりさ、そういうのも凄い好きなんだよね」
「…………」
「見物だよ? ちょっと前まで彼氏を好き好き言ってた女が、俺のものであんあん善がる姿をカメラで撮って彼氏に見せたりすんの。すげぇいい顔で泣くんだよ、そいつがさ」
「…………」
「なんでばれないのかって? 俺の知り合い使って脅したり、襲ったりすんの。大抵チキン野郎ばっかりだからさ、それで何も言えなくなんの。自殺したやつとかもいるんじゃないかなぁ……遺書とか残しても人使って揉み消すけど」
「…………」
「縁って重要だよね、上手く使えばなんだってできるんだから。そのうち一言しても誤魔化せるようになれるよ、俺……まぁ、ぼっちの不動さんにはなんも関係ない話だけど、あはははは」
端正な顔を醜く歪め、自慢する大嶋。身の毛もよだつ話をさも当たり前のように語る狂人ぶりに、寒気が走る。
だがーーー深月はもう、反応を見せる気力さえ無くし、濡れた地面に身を投げ出していた。
そもそも来るわけがない、不干渉を貫いている彼が、狙われた。興味がないとはっきり告げ、話す内容も最低限の彼が、襲われた。
何故か……あの時、大嶋を拒絶して彼の元に向かったからだ。安易に助けを、他人に縋ろうとしたからだ。
彼が巻き込まれたのはーーー自分の所為だ。全部、自分の所為だ。
「せ、先輩! もういいですか? いいですよね? 俺らもう我慢できないんで!」
「ん? あーあー、いいよ。割と乱暴にしてやったほうが、あとで従順になって丁度いいから。好きにしなよ」
「……くひっ、くひひひ」
呆然と、凍りついた深月に纏わりつく四匹の悪鬼と、それを愉しげに見下ろす悪魔。
前を開かれ、いつぞやのように下着まで露わにされながら、深月は声もなく虚空を見つめ、苦悶に険しく顔を歪める。
自分と関わってしまったが故に、縁を繋いでしまったが故に、何の罪もない彼まで毒牙にかけられてしまった。
自分一人で耐える事もできず、縋った所為で、巻き込んでしまった。
今から犯され、尊厳を失う事よりもーーーその事が悔しく、不甲斐なく、申し訳ない。
(ーーーごめん、なさい)
謝罪の声が、虚しく胸中で響き。
悪鬼が厭らしい目で見守る中、憎たらしい脂肪の塊に下衆共の薄汚れた手が触れようとして。
「ーーー君ってさぁ、本当に僕に恨みがあるんじゃないの? ここまで面倒臭いことに巻き込まれるの、流石に初めてなんだけど」
その場の空気を破壊するような、気怠げで呆れの篭りまくった声が届き、深月の意識は一気に現実に引き戻された




