女の子は甘いものでできている
部屋の中を見渡したら、寝室に繋がる部屋の扉は閉まっている。オスカーは用があって、寝室にいるのかもしれない。
でも、返事だけさせて、寝室に軟禁されているかもしれない。
オスカーはモブキャラなのに、ゲームの中でも命を狙われて襲撃されていたくらいだ。
毒を盛られやすいウォルトの家以上に毒に詳しいのも、オスカー自身が狙われる立場に生まれていることを意味してる。それに室内戦闘の訓練までしているしなあ。
ゲームには描かれていなかったけど、オスカーは何度も危険に晒されながら生きてきたのかもしれない。
さっきの声ぐらいでは気付かれなかったけど、私がここで大きな声を出せば使用人が来てくれるだろうから、私もオスカーも助けてもらえるかもしれない。
助けが来るまで、この人物と一人で対処しなければいけなくて怖かった。なすすべもなく、部屋に引きずり込まれた私ができることは助けを呼ぶことくらいしかない。でも、オスカーの助けは期待できないのだ。
助けを呼んだ後も、私が一人で何とかするしかない。
護身術だってあるから、と部屋の中で武器になりそうなものがないか、もう一度見渡す。
私が覚悟を決めて大きな声を上げようと息を吸い込んだ時、オスカーの声がした。
「リーンネット。僕だよ」
青年が目にかかっている長い前髪を片耳にかけると、物憂げに見える見慣れた緑柱石の目が現れる。
オスカーだとわかって、心臓が止まりそうだった。
「オスカー! 驚かさないで。てっきり、知らない人かと思った!」
髪の間から見えていた整った鼻梁も形の良い口もオスカーのものだったのに、髪の色と目が見えなかっただけでわからなかった。もっと前から親しくしていれば、鼻と口しか見えていなくても、兄だとわかったかもしれない。
数日前まで泣き黒子があることに気付かないような距離で暮らしていた弊害だった。
金髪のせいか、兄に見えない。
「ごめん、ごめん。こんなに驚くとは思わなかったよ」
苦笑していて、反省の色は薄い。
捕まったんじゃないかって心配したのに、本人は別人のような格好をして部屋に引きずり込むなんて悪質すぎる。
「オスカーが誰かに捕まっているんじゃないかって、心配したのにひどいよ! 一言、言ってくれたっていいじゃない」
「捕まっているって心配してくれたんだ。本当にごめんよ。お詫びに市場で何でも買ってあげるから」
「何でも買ってくれるって、本当?」
紳士用品店やゲームが映し出されていた箱の中で見かけた物、前世で暮らしていた部屋にあった物が思い浮かぶ。あの中の物には私の部屋や一族の棟で見かけたことのなかった物もあった。
「お腹を壊すほど、お菓子は買ってあげられないけどね」
お菓子という言葉に、一族の棟で開かれた子ども用のパーティーで山と積まれたケーキやクッキーを思い出した。食べきれないほどあるように見えても、男の子も女の子も関係なく子どもたちが群がって、いつもあっという間になくなってしまう。
お菓子は一族の棟でしか食べさせてもらっていなかったし、お腹を壊すほど食べてみたい・・・。
オスカーが駄目だと言っているのに、非常に魅力的な考えだ。
「お菓子、いっぱい食べたい! お腹、壊すぐらい食べたい!」
キラキラと目を輝かせて言ってみた。大きく目を開こうとしていたみたいで、睫毛の重さが気になる。
そんな私にオスカーは困ったように眉を下げる。
「お腹を壊したら、苦しい思いをするんだよ? そんな思いをさせたくないんだ」
10代後半になってしまったオスカーにはお菓子の素晴らしさがわからないらしい。
学校に通う前の男の子たちだって、お菓子には目がなかったのに、学校に通うようになるとそうではなくなる。あの甘くて、笑顔になる美味しさは女子どもだけのようだ。
男に生まれるって、可哀想。
「お菓子をいっぱい食べちゃだめ? いつもみんなとだから、もっとたくさん食べたいの」
お菓子をたくさん食べたい野望に憑りつかれた私は粘った。
一族の棟ではお菓子を出してくれるけど、それは決まった量だけ。なくなったからって、追加で作ってくれたりしない。
私はお菓子に飢えている!
いくらでも食べられる!
「リーンネット・・・」
悲しそうに言うオスカーだけど、なんか声に甘さがある。声を食べられたら、お菓子になりそうなくらい。
声に甘さって、どうしてなるのかは不明。
「ごめんな。いつも不自由をさせていて。でも、お前にこれ以上、苦しい思いはさせたくないんだ」
甘い声で我慢しろとういうことらしい。
声は食べられないから、仕方なくオスカーの顔を見て我慢するしかない。
イケメンだけどね。だけど、それではお腹は膨れないのよ。
影のある美貌を眺めながら、お菓子を好きなだけ食べる許可をもらえなかった私は唇を尖らせる。
「瓶詰のキャンディーとか、一度に食べないなら、たくさん買ってもいいよ」
緑色の目を細めて悲し気に笑うオスカーを見ているとカーと顔が熱くなってきて、思わず頷いてしまった。
「・・・すぐに食べないお菓子ならたくさん買ってもいいの?」
「一度に食べないなら、お腹を壊さないからね」
胸がドキドキして何も考えられない。お菓子をお腹いっぱい食べられないことなんか忘れてしまう。
オスカーの顔を見ているのも恥ずかしくなってきて、視線を床に落とした。
困った時は一族の特殊能力である”魅了フェロモン”を妹にすら使うオスカー。
リーンネットは意図して特殊能力を使えません。ただし、”魅了フェロモン”は常時ダダ漏れです。
魔法や魔物はこの世界にはないのですが、特殊能力の持ち主は存在しています。
一族の特殊能力については『お願い、傍にいて』http://ncode.syosetu.com/n4477do/3/にて語られています。




