突然
オスカーがシスコン化して護身術を身に付けることになったけど、それ以外にも色々ハルスタッド一族の秘密が出てきて、アイリーンやマリーンと仲直りをしなくちゃいけないことを忘れそうになる今日この頃。
突然、兄が「市場に行こう」と言って来た。
ウォルトと出かけてからまだ数日しか経っていないのに、人生二度目のお出かけ。
それも市場ってことで、私の気分も高揚してくる。
前世の部屋の外のことはほとんどおぼえてない。おぼえているのは、ゲームのことと、ゲームが映っていた箱に映し出されていたこと。あとネットと呼ばれるものにあったゲームに関することだけ。
ゲームが映っていた箱で見たお店はこの前ウォルトと行った紳士用品店と似ているようで全然違った。売ってる物も、売り方も全然違う。
市場もゲームが映っていた箱で見たものとは違うかもしれない。暗い場所に肉や魚、野菜を売っている店が連なっていて、明かりを灯して商品が見えるようにして売っていた。それか、大きな建物の中で絵文字と数字がグルグル回っているもののほうかもしれない。
市場と言っても、ゲームが映っていた箱の中ですら二つの違うものがあった。オスカーが連れて行ってくれるという市場がどんなものか、楽しみ。
楽しみで仕方なくて、出かけられるようになったら、先触れも出さずに兄の部屋に突撃した。
その際、二階の廊下を走ったのを本家の住む棟で働くハルスタッド一族の男性に見られて、苦笑いされたのが恥ずかしい。
一階はアンのようにハルスタッド一族以外の使用人もいるが、二階で働いている男性使用人は執事のジェニングス以外は館の外で働くことを辞めたハルスタッド一族の男性しか見たことがない。今回、はしゃぎすぎたのを見て笑ったハルスタッド一族の男性もクラウスのように館の外で働くのを引退した世代。彼らは私の父親と言ってもいい年齢だ。オスカーもそうだけど、姉たちとは更に歳が離れているから、私の父より若かったりする。
「オスカー、用意できたよ! 早く行こう!」
扉を叩くのももどかしくて、部屋の中に話しかけるのと同時にしてしまった。
人生二度目のお出かけに完全に舞い上がっているな、私。
「リーンネット? もう用意が終わったのかい?」
すぐに扉が開けられる。中からは顔を見せたのはウォルトと同じような癖のない金髪の青年だった。
肩のあたりまである髪を額の中央で分けているので、青年の目の形どころか色もわかりづらい。
てっきり、返事をした兄が出てくると思っていた私は、ハルスタッド一族の特徴を持たない上に見たこともない人物が兄の部屋にいることに驚いて一歩下がった。
何故、青年がオスカーの部屋にいるのか、わからない。
二階の男性使用人はハルスタッド一族だけだ。それ以外は執事しか二階に姿を見せない。
オスカーの友達? それとも、第二王子の側近仲間?
いつもはウォルトやフレイと一緒にいる印象のあるオスカーだが、側近仲間が訪れている可能性もある。ウォルトは私のところにも顔を出してくれるし、フレイのことを待たせているのを平然と口にしているから、フレイも来ていることを私は知っている。ウォルトからオスカーの側近仲間の名前すら聞いたことはないから、彼らはウォルトと入れ違いに来ているのかもしれない。
でも、オスカーの友達や側近仲間じゃなかった場合、オスカーは返事はできても身動きをとれない状態かもしれない。
金髪の青年が手を伸ばしてきたので、私は更に後ずさろうとした。しかし、青年の手のほうが動きが早く、私の腕をつかんで部屋の中に引き摺り込もうとする。
「!! ヤ、放して!」
私は引き摺り込まれないように脚を踏ん張って、私の腕をつかむ手を叩いて必死に抵抗した。兄が護身術として室内戦闘の訓練をしてくれたけど、それは思い出すこともなかった。
私の抵抗も青年が簡単に受け流されてしまい、まだ10歳の私の体重は軽くて、兄の部屋に引き摺り込まれる。オスカーの部屋は室内の床は厚みがあって、その段差に引き摺り込まれた私は躓いたのに、足音はまったく立たなかった。
バタンと大きな音を立てて扉が閉められ、室内戦闘の訓練で入ったことがあった兄の部屋に私は閉じ込められた。
オスカーはどこ?!
そこには返事をした兄の姿はなく、私は青年と二人きりだった。




