問題は胸だけじゃなかったようです
実の兄の顔を見ていられなくなった自分の反応がおかしくて、戸惑っていたら頭を撫でられた。
「さあ、こっちに来て。リーンネットも金色の髪になろう」
背中を押されて、部屋の中にあった椅子に誘導される。
移動したおかげで空気が爽やかになった。気になって振り返ると、わずかに一族の棟の裁縫部屋と同じ匂いがした。
きっと、オスカーと話しているうちにその空気にやられたんだろう。ハルスタッド一族と一緒にいる時に感じる空気は時によって、頭がクラクラしてくることもある。
荒くなっていた呼吸が、爽やかな空気で落ち着いてくる。
「オスカーと同じ色の髪に? どうして、髪の色を変えるの?」
何故、髪を?
「僕らの髪の色はこの国では珍しいから、すぐにトラブルに巻き込まれてしまうんだ」
髪の色が珍しいなんて初めて聞いた。
「この色が珍しいの?」
「うん。金褐色や焦げ茶色の髪の人間もいるけど、黒髪は僕らだけで珍しいんだ。そのせいでアライアス・ロクスみたいな奴に目に付けられるんだよ」
まさか、髪の色が珍しいことでロリコンに目を付けられたなんて・・・!
ロリコンは胸がないだけじゃなくて、この珍しい髪の色でも目を付けていたなんて。アイリーンに聞いて胸を大きくしても、駄目かもしれない?!
「えー?! ロリコンに目を付けられたのはこの髪の色だったの?!」
あ、ロリコンって言っちゃった。
でも、私の失言をオスカーは気にしなかった。
「そうだ。この髪の色が原因だ。この国では明るい色の髪の人間が多いから、暗い色の髪の人間は珍しいからって、魅力的に見えるんだよ」
「明るい色の髪って、ウォルトやフレイみたいな?」
「そうだよ」
胸は学校に通う前になんとか大きくして、学校に通うことになったら、まず髪の色を変えないといけない。
その為には髪の色を変える方法を今、オスカーに教えてもらって、しっかり覚えておかないとね。
「どうやって色を変えるの?」
「僕に任せて」
オスカーは私を椅子に座らせると近くの丸いテーブルの上にあった豚毛のブラシで私の髪を丁寧にブラッシングした。癖の強い巻き毛はブラシで梳かれて伸ばされるたびに反動がわかるくらい勢いよく戻って来る。
オスカーのブラシを持っていないほうの手が私の頭を押さえてくれているおかげで、頭が動かないですむ。
優しい手付きだからキャットにしてもらうよりも気持ち良い。
「なんでブラシで梳くの?」
「髪を梳くと、扱いやすくなるからだよ」
「そうなんだ。髪に艶を出すためだって、キャットが言ってたわ」
「そうだね。艶を出すのも、扱いやすくするのも、毎日の手入れの成果だよ」
そう言って、オスカーは私の髪を二つに分けて編み込み始めた。顔にかかっていた感触も肩にかかっていた感触もなくなっていく。
「”カツラ”を取って来る」
「”カツラ”?」
「リーンネットの髪を金色にするものだよ」
オスカーはそう言って、寝室に行く。
待っている間、どうやって私の髪を金色にするのか考えてみた。
髪を編み込み、”カツラ”とかいうもので金色にする。
布に色を付けるように髪にもそうする物があるのか?
それとも別の何かなのか?
”カツラ”とかいうものについて考えていたら、オスカーが金髪だけを持って帰って来た。
どうやって、その金髪だけ用意したんだろう。
「な、何それ? 誰から髪だけ取って来たの?」
「誰からも取ってきていないよ。これは髪が自然に生えているように見せるものなんだ」
「髪が自然に生えているように見せるもの?」
「じゃあ、付けるよ」
不思議に思っていたら、今日の兄と同じような金髪が編み込まれて見えなくなった黒髪の代わりに顔の周りを囲む。
「ほら、これで髪の色が変わったよ」
髪の色を変えたと言われて、事態が飲み込めなかった。
オスカーは私の背中を押して、姿見の前に移動させる。
「僕とお揃いの金色の髪のリーンネットだ」
誇らしげにオスカーは言った。
鏡に映る兄も私も金髪で、睫毛の重さで半分しか開かない目はいつも通りなのに別人に見えた。




