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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1878/2685

戦争と平和、その415~統一武術大会ベスト16、ロッハvsセイト⑤~

「おいおい、ロッハの旦那は大丈夫なのかい? ロッハの旦那は速度で勝負するお人だろう? 相手も同じタイプの戦士だけど、あれじゃ打ち負けるんじゃねぇの?」

「そうか、お前は新しく入ったから知らないのだな」


 リュンカがチェリオの言葉を驚きをもって否定する。


「ロッハ将軍は獣将の中でも古株の一人だ。カプル殿が最古参ではあるが、亡くなったアキーラ、ニジェール殿と並んでその次に古い世代なのだ。共にいるのが力押しのヴァーゴ殿のせいで『力のヴァーゴ、速度のロッハ』と以前から例えられがちだが、実際は違う。ドライアン王がいなければ、ロッハ殿が王だとしてもおかしくないくらいの万能型戦士として名を馳せていたそうだ」

「ってことは、純粋な腕力も相当ってことか?」

「ヴァーゴ殿が真に優れたるは耐久力だ。かつて腕力だけなら、全力のロッハ殿の方が強いと伺ったことがある」

「マジかよ」


 チェリオが見誤った先輩獣将の実力に嘆息した。腕力では獣将最弱の部類だなと、自分の手を見つめていた。

 そしてリュンカは続ける。


「チェリオ、お前の言う通り私は獣将としての自信がない。それは戦死者が多く、本来獣将として備えるべき資質が不足している中から、私のような者が選ばれたせいでもある」

「資質?」

「そう。かつて獣将となるには、『ある能力』が必要とされた。それは極限の戦いの中で覚醒するものだそうで、獣人ならば誰しも備えうる性質だそうだ。それこそがかつて人間や他種族を震え上がらせ、獣人を大陸最強の戦闘集団と呼ばせた性質だと。

 私は恥ずかしながらまだ覚醒に至っていない。だがこの前のウルスとの戦いできっかけをつかめたつもりだ」

「ウルスとの戦い――あの全身が赤くなるやつか?」

「近いがちょっと違う。獣人の場合は――」


 リュンカの説明の間に、観客がわっと湧き始めた。組み敷かれて下にいるはずのロッハが、徐々にセイトを打ち負かし始めているのである。

 驚いたのは観客だけではない、チェリオもである。リュンカも驚いてはいたが、少し驚きようがチェリオと違っていた。


「おいおい。どんだけ強いっていっても、あの体勢から打ち勝つのかぁ?」

「いや、あれは・・・まさか、『使う』のですか、ロッハ殿?」


 リュンカの驚愕と共に、貴賓席からこの様子を見つめていたドライアンが舌打ちをしていた。


「ちっ、馬鹿が。こんなところで使う気か。若い頃は、頭に血が昇ったらヴァーゴなんぞ比較にならんくらい危ない性格をしていたのを思い出したぜ」

「ドライアン王、何か?」

「少々面倒なことになりそうですな、ミューゼ殿下。ロッハの奴が暴れたら、俺が出向いて潰す必要があるかもしれません。人間じゃあ、いかに多勢でもキレたロッハが相手ではちと荷が重い」


 同席しているミューゼが困惑する様子を見せる中、ドライアンが険しい表情で戦いの成り行きを見守っていた。

 そうするうちに、セイトを腹の上に乗せたまま、確かにロッハが打ち勝ち始めていたのだ。


「ぐっ!?」


 これだけ絶対的に有利な姿勢から逃げられることは、格闘術をするものにしてみれば屈辱である。それも防御をしながら制限時間などで逃げるならともかく、まさかの打ち合いで後退するとなれば、それは明確な実力差の証明になる。

 入隊したての新人に力の差を見せるために隊長格がやることはあるが、ベルゲイを倒した自分がいかに獣将相手とはいえ同じことをされるとは、セイト自身も思ってはいなかった。


「(ロッハ将軍の鍛錬は拝見したことがあるが、実力を見誤っていた? それとも、実戦では想定以上の力を出すのか? どちらにせよ――)」


 ロッハの一撃でセイトの意識が一瞬飛びかけた。自分もロッハの腹の上にいる以上、打ち合いからは逃れられない。この体勢がさほど有利ではなくなったことを悟り、セイトは瞬時に離脱し距離をとった。

 勝負が決したと思ったところからの逆転。観客が驚きに揺れ、そしてざわめきへと変わった。


「すげぇぞ! あそこから立ち上がった!」

「獣将ってのは伊達じゃねぇな――?」

「あれ・・・なんか、おかしくねぇか?」

「ああ――あの獣人、あんなに――」


 大きかったか? と誰かが呟いた。その疑問と異常事態が静かに、そして素早く会場中に波及した。起き上がったロッハは冷静に額から流れる血を拭い、切れた口の中の血を吐き出すと、競技場をだん、だんと、数回確かめるように踏みしめた。

 その様子を見ていたセイトが蒼ざめ、審判であるブランディオが口笛を吹いた。


「ヒュウ~、これがほんまもんの獣人かいな」

「な・・・明らかに大きくなっている?」


 セイトの驚きも無理はない。せいぜい体格で一回り大きい程度だったはずのロッハが、明らかに二回り以上大きくなっていたのだ。背丈も頭一つ分どころか、いまやセイトの頭が胸の高さになっている。

 ここに来て、ようやく会場中が異常事態を察知した。その途端、会場中の観客の度肝を抜くような雄たけびが響き渡ったのだ。



続く

次回投稿は、10/7(月)22:00です。連日投稿になります。

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