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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1877/2685

戦争と平和、その414~統一武術大会ベスト16、ロッハvsセイト④~

「始め!」

「はっ!?」

「ルオォォ!」


 ロッハが意識をセイトに引き戻した瞬間、凄まじい猛攻が襲い掛かった。一瞬とはいえ、彼らの速度においてはその一瞬が致命的になる。そしてセイトの渾身の膝がロッハの側頭部に直撃していた。

 体格ではロッハの方が一回り大きいのだが、思わずよろめくロッハ。本来爪を使う獣人が多いせいか、筋力に差がありながら拳というものはそこまで人間と力が変わらないのではないかと評される。だが脚力では、獣人は人間の数倍あるのは間違いない。獣人の全力の蹴りを人間が防御なく受けようものなら、ほぼ間違いなく一撃で死ぬ。

 目の前が一瞬火花が散ったように真っ白となったロッハ。さすがに一撃で勝負を決められはしないが、脚を踏ん張った時には黒い嵐が目の前にいた。


「ウォオオオオオ!」

「チッ!」


 ロッハも応戦するが、防御に回る手数よりもセイトの攻め手の方が余程多い。セイトの攻撃が何発も執拗に腹に当たり、ロッハの防御の意識が下に集まったころに上を狙うセイト。


「見え見えだ!」

「そうか?」


 だがロッハがセイトの拳を掴んだ瞬間、今度はセイトの膝がロッハの鳩尾に入る。これにはたまらず肺の空気を吐き出すロッハ。そしてセイトの攻撃が今度は上下左右にばらばらに散らされ、猛攻が再開する。

 それらをなんとか捌くロッハだが、さばききれなかった一撃がロッハの顎を命中した。


「あ――」


 ロッハの膝が揺れる。ここぞとばかりにセイトが前に出て、ロッハの脚を引っかけて引き倒し、一瞬で馬乗りの状態を作り出した。完全にセイト有利な体勢。獣人同士の組手でも普通ならここで止めるところだが、セイトの相手は獣将ロッハである。こんな所で手心を加えることはできないし、そもそもその必要も感じてはいない。

 油断すれば一瞬で殺される、ならば殺すしかない。そのくらいの意気込みでセイトはロッハと対峙していた。


「オオッ!」

「ぬぅ!」


 セイトの猛攻が継続される。ロッハの防御の隙間から、横から拳をねじ込み打ち込み続ける。はたから見れば一方的な攻勢。受け続けるロッハからは血が飛び散り始め、観客の一部は悲鳴を上げる。

 審判が止めるかと思われたが、ブランディオはその攻防を冷静に見つめていた。


「審判、試合を止めろ!」

「死人が出るぞ!」


 この攻防を冷静に見ていた観客がどのくらいいたであろうか。ラインはただ黙ってこの攻防を見守り、なんとか杖で歩けるようになったウルスがこの戦いをイェーガーの仲間と共に見つめていた。隣にいるニアが質問を投げる。


「ウルス、どう見る?」

「私に聞くのか?」

「技術的なことはお前の方が詳しいだろ?」

「む・・・仮にも長に勝ったセイトだからな。セイト優勢と言いたいところだが」


 ウルスは冷静に攻防を見つめた。その顔はまだ完全には腫れが引いていない。


「ダメージは本物だ、人間なら致命傷になる可能性もある。だが獣人ではどうなのか」

「いやいや、獣人でも結構な怪我だぞ?」

「そうではない。獣人たちの底力の話をしている」

「? どういうことだ?」


 ニアが首をかしげたので、むしろウルスの方が不審な目をニアに向けた。


「お前ら、私をたばかっているのか? 獣人の――特に獣将に選ばれるほどの戦士が、あれしきの実力しかもたないことなどあるまい。伝承にある本物の獣人の戦士は、それこそ化け物だぞ? 私の使う『燎原の火勢』も、本来はそういった伝承にある獣人と戦うために編み出された技術だ」

「どういうことだ?」

「人間でいうところの『気功』を使えるのは人間だけではないということだ。伝承にある獣人は、追い詰めるほどに体が巨大化し、速度も腕力も増したとあるぞ?」

「なんだそれは、聞いたことがないな」


 ニアに続き、ヤオまで変な顔をしたので、ウルスも驚いていた。そして悩みながら、ぼそぼそと呟いていた。


「ふむ? 伝承に間違いがあるのか、それとも獣将以外には秘密なのか? いや、しかしだな・・・」


 ウルスが考えていると、観客が徐々にどよめき始めた。下にいたロッハが打たれるのを覚悟で反撃を始めたのだ。下に組み伏せられた状態では威力が出ないにも関わらず、セイトと相討ちを始めていた。

 それを見てチェリオが驚きの声を上げる。



続く

次回投稿は、10/5(土)22:00です。

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