戦争と平和、その410~統一武術大会ベスト16幕間、黒の魔術士の焦燥③~
「まぁその反応が自然だろうな。私ですら最初の数ヶ月はそうだった。自我を持っていることが幸せとは限らん」
「・・・だからなの? だからあなたは――」
「どんな非難も恨みも受けることは覚悟の上だ。でなければ盟友である五賢者や一族を裏切ってまでこんなことはせぬ。全ては世界の真実の解放のために。だが全てを報せる義務はないし、報せたらどうなると思うかね?」
「・・・ゼアの光景が世界中で再現されるでしょうね」
オシリアに言葉にオーランゼブルが頷いた。
「ゼアはそういった意味では実験場でもあった。貴様には恨まれてしかるべきだろうし、用が済んだら私の命ごときくれてやってもいいが、いま少し待ってもらおう。どうせ貴様が消滅することはそうそうあるまい。私が目的を果たすまでの猶予はあるはずだ」
オーランゼブルがそう告げると、その姿がゆらりとゆらめいた。同時にライフレスの姿もゆらめく。
「私はこれからライフレスとその手勢を率いて、アルネリアの下の遺跡へと潜る。ここは中継地点にするので、お前たちは万一に備えてここにいろ。ティタニアの状況次第ではここに連れ帰ることもあるだろうし、レーヴァンティンを確保すれば一時的に保管する場所が必要だ。
ライフレス、では行くぞ」
「・・・ああ」
虚ろな返事をしたライフレスが、オーランゼブルと共にかき消えた。洗脳が強すぎるのか、あの状態のライフレスで使い物になるのだろうかと、オシリアでさえ疑わしい状態である。
オシリアには聞いたこともない情報が多く考えることも多々あったが、まずはそれよりも優先されることがある。
オシリアは万一に備えて飲み込んでいた『解珠』を吐き出し、残されたドゥームにかざした。まもなく、ドゥームが正気に戻る。だが正気に戻ったはずのドゥームの反応が鈍く、オシリアは思わず洗脳が解けていないのかと心配になった。
「ドゥーム・・・?」
「ん? ああ、洗脳は解けているから心配しないでくれ。少し考え事をしていてね」
「考え事? あなたの予想は当たったわ。オーランゼブルが来たら再洗脳は避けようがないから、私に解珠を持っているようにって。オーランゼブルはあなたを洗脳して支配下においていると思っているはずよ」
オシリアの言葉にも、ドゥームが首を横に振った。
「そうだな・・・この勘違いを一番活かす方法がないかと考えているんだよね。一つには潜入するという手がある。だけどオシリアがいない場面で何かポカをやらかして、再度洗脳されると、今度こそ打つ手がない。それに洗脳だけならまだしも、何らかの方法で消滅させられると取り返しがつかない。
今一つの手は、ここでオーランゼブルを倒してしまうということ。だけどそうすると、オーランゼブルの計画の全貌と結果が見えない。
そうなると・・・うん、そうだね」
「良い手が思いついた?」
オシリアの質問に、ドゥームが満面の笑みで返した。
「逃げよう」
「え、ええ?」
「恥も外聞もなく、無様に逃げる。うん、これに尽きるな。という、わけで準備してくれる?」
「あなたの言うことにはもちろん従うけど・・・」
さしものオシリアも納得しかねているようだ。だがドゥームは指を振って、オシリアにただの逃亡でないことを示す。
「僕のことが信用できないかい? 嫌がらせが何より大好きなドゥーム様だぜ? ただ逃げるわけがないだろう?」
「じゃあ――」
「ここに関わる人間たちが全員最悪の気分になるように、もちろん考えていることがある。そのために情報収集をしていたんだ。一泡吹かせてやろうじゃないか」
そしてドゥームの策を聞くオシリアである。どうやらその作戦に納得したようだ。
「・・・やっぱりあなたは最高ね。なら、ミルネーはどうする?」
「連れて行こう。使い潰すつもりだったのに、生き残るなんて正直尊敬しているよ。生き汚いことだけが才能かもね。だったら、より転落させてあげた方が魔王として覚醒するかもしれない。ケルベロスの実験材料と慰みものとして提供してやるか。そろそろストレスが溜まっているだろうし」
「やっぱり最高に酷い人だわ、あなた」
くすくすとオシリアが嗤うと、ドゥームとミルネーと共に、その姿は闇に溶けていった。
続く
次回投稿は、9/27(金)6:00です。




