戦争と平和、その409~統一武術大会ベスト16幕間、黒の魔術士の焦燥②~
「無理だ、カラミティもブランディマリアも二度と洗脳できん。そもそもカラミティの本体を見つけ出せたことは非常に幸運であり、洗脳が解けた今、二度と本体は私の前に姿を現さないだろう。そもそも本体の位置を今は知らぬしな。
ブラディマリアもそうだ。私が洗脳できたのは、出産直後の弱っていたブラディマリアの前に立つことができたからだ。今は浄儀白楽がいるし、ブラディマリアにも今後隙はあるまい。魔人は精神汚染などに対して強力な耐性を持ち、私とて万全のブラディマリア相手には魔法が通らぬ。
二体ともを実力でどうにかできないわけではないが、相応の準備と危険が伴う。少なくとも秘密裏にことを行うのは無理だろうが、今私が目立つように動けば確実に残った一方が私を消すために動くだろう。それは得策ではない」
「ならどうする? 俺で片方を足止めするか?」
「いや、そんなことをしている暇はない。まずはライフレス、お前が集められる全戦力を集めろ。ティタニア、およびペルパーギスをここで抹消する必要がある」
「ペルパーギスって倒せるの? 確かあらゆる攻撃を反射するんじゃなかったっけ?」
ドゥームの質問に、これまた首を横に振るオーランゼブル。
「違う。もしそうなら魔人や真竜ですら勝てないことになる。だが奴は大陸を席巻することはあっても、支配することはなかった。それはなぜか。
一つには興味がないこともあるだろうが、奴にも反射できぬ攻撃が存在するのだ。どんな防御も鉄壁ではないということだな」
「凡人には鉄壁に見える。そういうことか?」
「そういうことだ。特にお前の手元にいる『あやつ』なら、ペルパーギスを殺すことも可能だろう。もし不可能としても、お前が『英雄王』と呼ばれた理由を考えれば、倒すことは可能だ」
その言葉に、洗脳下にあるはずのライフレスが一瞬沈黙する。
「・・・奴を呼び戻すのは同意しがたいな。私心をもたず仕える奴が、珍しく我儘を言ったのだ。主としては聞いてやりたいところだが」
「優先順位の問題だ。ここが吹き飛べば、どのみちそれどころではない」
「それはそうだが、加えて俺の禁術を使うのも感心はせんな。確かにあらゆるものを殺すだろうが、やすやすと切っていい切り札ではない。それより師にも何か手段があるのではないか?」
「貴様の妻が私に降っていればそれもできたろうな。貴様と違って最後まで私の魔法に抵抗したせいで、その手段も取れなくなったが」
「・・・何のことだ?」
ライフレスが心底不思議な顔をしたので、オーランゼブルは汚らわしいものでも見るように、ライフレスを見下した目で蔑んだ。
「そうか。貴様、私の魔法の副作用が出ているのか。まぁ人間だけでなく、土地の記憶すら改変しうる私の魔法だから詮無き事か」
「待て、話が見えぬ。どういうことだ? 私の正妻は、一人目は病気で死んだ。二人目は戦場で死に、三人目は権謀術数に巻き込まれて死んだ。誰のことを言っているのだ?」
「・・・副作用は肝心な記憶から抜け落ちるらしいが、余程重要だったのだな。やはり貴様が冷酷な王だったというのは、後世の嘘だな。
教えてやろう、貴様の最初の妻は、貴様がまだ冒険者だった時代に娶った相手のことだ。私は五千年以上生きているが、いまだあれほどの剣の天才に出会ったことがない。廃人にさえならなければ、正直他の黒の魔術士など戦力としては不要だったほどだ。貴様の仲間を人質にとらねば、この私も危うく殺されるところだったからな」
「妻・・・仲間・・・?」
既にないはずのライフレスの心臓が早鐘をうつように、ライフレスに焦燥感がせりあがってきた。肝心なことを忘れている、忘れてはならないほど肝心なことを――
だがその焦燥感も、オーランゼブルが手をかざすと全て消失していった。ライフレスの目から生気が消え失せ、隣のドゥームもまた同じ状態となって立ちつくした。
「憐れな王よ、貴様はずっと操り人形のままだ。欲望に縛られ、愛に縛られ、恨みに縛られ、そして今また私に縛られる。体を魔力の塊とした今だからこそ、私の魔法から逃れるすべはあるまい。私の魔法から逃れるということは、すなわち消滅を意味するからな。
だが貴様の原初に望んだ光景を見せてやろう。貴様は争いのない世界なるものを目指していたらしいが、すぐにそうなる。人間も魔物もそれどころではなくなるだろうからな」
「・・・どういうこと?」
オシリアが黙っていられなくなり、ついにおそろおそる言葉を発していた。主であるドゥームだけでなく、英雄王であるライフレスすらも片手が操る恐ろしき魔法使いに、それでも質問せざるをえなかったのだ。
オーランゼブルは忘れていたとばかりにオシリアの方を見ると、鼻で笑って見下した言葉を発した。
「『元』御子の悪霊か、そんな者もいたな。それをドゥームが部下にする許可を与えたわけではないのだが、まあいい。
貴様、不思議に思ったことはないか? 御子はアルフィリースだけでなく、貴様もだ。東の大陸にもいたし、実はカラミティも元御子だ。カラミティは随分と昔の者だから別だが、御子が生まれ過ぎだとは思わぬか?」
「・・・何が言いたいの?」
「察しの悪い娘だ。つまりは――」
オーランゼブルの語られた事実に、オシリアは振るえあがった。第五位の悪霊となり、明確な自我を持つ悪霊となってから恐れるものなどないと思っていた。あらゆる悪徳を積み重ね、こうなったという自覚があった。その自分ですら、まだ甘いと思える事真実がある。その真実と、これから来たるべき事態を知って、オシリアは愕然とした。
その様子を見たオーランゼブルは、ふぅとため息をついた。
続く
次回投稿は、9/25(水)6:00です。連日投稿になります。




