戦争と平和、その411~統一武術大会ベスト16、ロッハvsセイト①~
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――統一武術大会控室、ロッハ――
「大盛り上がりだったな、ライン」
「盛り上がりすぎて出るに出られねぇ。外の騒ぎっぷりを見たか?」
今大会一の大番狂わせを演出したラインに話を聞こうと、観客、各使節、それについてきた貴族の娘などが退去して控室に押し寄せていた。外の衛兵が大盾で押し寄せる者を押し返すのに必死になるほどに。
何度か部屋を出ようとしたラインだが、観客が飽きるまで控室にいるようにと、逆に怒られた。会場責任者の一人なのに、警備の者に怒られるとは思ってもいなかったライン。
そうこうするうちに次の試合時間が訪れたので、ロッハが入ってきたのである。ロッハはレーベンスタインに勝利しながら落ち込むラインを見て、ニヤニヤしながらその状況を楽しんでいた。
「少し卿は落ち込むべきだ。良い気味だな」
「俺が勝った途端に畏まった呼び方にしやがって、嫌味か。俺が落ち込んで楽しいのか?」
「楽しいね。何でも卿の予見は鋭すぎる。たまには予想外の出来事が起こった方が愉しめようというものだ」
「既にこの傭兵団にいること自体が予想外すぎるんだがな。それよりその卿ってのをやめろ、そんな尊称をもらうような立場じゃねぇんだよ」
ラインの慌てたようなそぶりに、ロッハはますますくっくっくと忍び笑いをしていた。
「戦士の誉れは勝利で決まる、そなたの名前は大陸中の人間社会に轟くだろう。先んじて俺が慣らしておいてやるのだ、感謝してほしいくらいだな」
「んな理屈があるか!」
「ひいてはこの傭兵団の評価も益々上がるだろう、そのことがわからぬ卿ではなかったはずだ。だが勝利することを選んだ。やはり卿の本質は戦士であり、男子なのだよ。
グルーザルドもイェーガーの力を頼る時がくるやもしれぬな」
「それはグルーザルドで対抗できないほど強大な敵が相手ってことだ、そんな状況は御免だね。それより、次の相手に集中しなくていいのかよ? それとも余裕か?」
ラインが話題を変えた。だがその話になると、ロッハからもラインをからかう態度はすっと消えていた。
ロッハの次の相手は、グルーザルドから出向している獣人のセイトである。平隊員のセイトからすれば、獣将であるロッハは本来雲の上の存在に違いない。しかし――
「あの者の戦いをこれまで見てきて、もはや平隊員などと思ってはいない。どう考えても獣将の補佐ができるくらいの戦闘能力がある。いや、既に獣将並みかもな」
「ああ。実際に訓練からして、とんでもねぇ素質がありそうなことはわかっちゃいたんだ。いつも加減しているのはわかっていた。訓練でも勝ったり負けたりで、他の奴らと比較して悔しがりもしない。
最初は闘争心ややる気に欠けるのかと思っていたが、違うな。あいつの目指す高見は遥か遠くだ。まだ遠すぎて自分でもどこを目指しているのかわからねぇって顔だ。求道者や修行僧にああいう奴がたまにいる。だから目先の勝利や敗北なんてどうでもいいんだ。
他の奴らが休日に人間の文化に慣れようと外に出たりするのに比べて、あいつは人目につかないところでずっと鍛練している。それが今回日の目を見始めたってところだな。グルーザルドにしたら嬉しい誤算じゃないのかい?」
「無論若い兵士に強い者が増えるのは嬉しくはある。が、しかし――」
ロッハはカプルの言葉を思い出した。この度、イェーガーに派遣した獣人の中にドライアンの落胤がいることに。それが誰かを見極めようと思っていたのだが、ロッハはもう間違いなくそれがセイトだという確信を得ていた。
ドライアンとはまた違うが、あの圧倒的強さ、その愚直なまでの性格は共通する。ドライアンは暗殺や自分の弱みとなることを恐れてその存在を隠してきたが、この活躍で気付く者は出てくるだろう。
長らく不在である、ドライアンの落胤――つまり王太子が人間の目に触れる。グルーザルドでは王太子が国を継ぐとは限らないが、人間たちはそうは思うまい。セイトが人間世界で人質にでもされようものなら、どんな不利があるかと考えてしまうのだ。
「(だがそんなことは王もご存じのはず――何故、外の世界に出そうと思ったのか。それとも、全てお考えの上か? わからん・・・)」
ロッハがしばし目を閉じた後に開けると、その眼は燃えていた。一切の手抜きなし。殺すつもりでやると、目と殺気が告げていた。
ラインもその様子を見て、口笛をヒュウと吹く。
「潰す。少なくともここで負けるつもりはない」
「本気だな、大将。面白くなりそうだ」
「残念だが面白くはしない。一瞬で倒すからな」
「そう簡単にいくかな?」
ラインが面白そうにニヤリとすると、応えるようにロッハも口の端を吊り上げ、競技場に向かって行った。
続く
次回投稿は、9/29(日)6:00です。連日投稿になります。




