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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その407~統一武術大会ベスト16幕間、管理者たちの憂鬱⑤~

「よろしいのですかな? そこまで明言してしまっても」

「構わん。それよりもウッコの始末と、レーヴァンティンの確保が優先だ。もしウッコが暴れ始めればアルネリアは消し飛んでもおかしくないし、そうなればこの大陸の命運はどのみち尽きる。

それにレーヴァンティンを使いこなせる者が人間にいるとは思えないが、一部でも利用方法に気付く者はいるかもしれない。過ぎたる力に手を出す者は少ない方がいい。レーヴァンティンが世界の滅亡を加速させることこそあれ、豊かにすることはないだろうよ」

「承知いたしました。ではそのようにいたします。まぁおいそれとこの古竜とその配下の魔獣を苦戦させるものなどいるとは思いませんが、できる限り静かに参りたいものですな」

「無論だ。余計な犠牲者などいない方がいい」


 ユグドラシルは自らの知識と優先順位に従い、最善の判断をこころがけたに過ぎない。当然彼らの向かう先に、限界を迎えつつある剣帝とそれを追っている者たちがいることも、ユグドラシルの予想範囲内ではある。

 だが彼らの中に、ユグドラシルですらその脅威を把握しきれていない者がいるとは、考えてもいなかったのだ。


***


「ねぇねぇ、ジャビー」

「んだよ、チビ助」

「飽きた。何か面白いことしてー?」


 イルマタルの横暴に、ジャバウォックは疲れ果てていた。休むことなく露店を渡り歩き食べているうちはまだいいのだが、珍しい品を手にとっては勝手に買ったり、挙句は壊す。こんなところで揉めるわけにはいかないジャバウォックが弁償している間に、次の露店で同じことをする。

 そしてひとしきり飽きると、ジャバウォックに面白い行動を求める。ジャバウォックが無視していると地団太を踏んで大騒ぎするため、何度ジャバウォックが人生初の無茶振りなるものに応えようとし、そして撃沈したか。ジャバウォックにしては精一杯の頑張りなのだが、決まってイルマタルは、


「つまんない。ママの方が面白い」


 と評価して走り去るのだった。その光景を見るたび、ロックルーフの腹筋が限界を迎えそうになるのだが、歯を食いしばって耐えていた。ジャバウォック、ロックルーフともに、数千年生きてきた中で最大の戦いと言っても過言ではなかった。


「おい、ロック。ちっとは交代しやがれ」

「断る。そもそもイルマタルはお前を指名している。私はお呼びではないとのことだ」

「っざっけんなよ! なんで俺があんなクソガキの――」

「ジャビー、こっち。早く来て」

「うるせぇっ! もうやってられるか!」


 ジャバウォックが腹を立ててその場を去ろうとしたが、イルマタルはロックルーフの方を見て不敵に笑った。


「いいのかなー? シュテルヴェーゼのおばちゃんに言いつけちゃうぞ?」

「・・・おい、それはマジでやめろ」

「ロックが証人だよ。ねー、ロック。確かにジャビーは私のことなんて知らないって言ったよね?」

「ああ、言った」


 間違いなくロックルーフも面白がっている。元々ロックルーフ、レイキとは殺し合いから始まった中だが、シュテルヴェーゼの従僕として協力してきたこともしばしばなのだ。それがここに来て裏切られたような気分になるとはどういうことかと、ジャバウォックは怒りで意識が飛びそうになっていた。


「畜生! なんで俺がこんな目に!」

「私を退屈させると、ひどいよ?」

「もうやけくそだ! ここにある露店を全部制覇してやる! 行くぞ、イル!」

「そっちはもう行ったよ、こっちだってば。ジャビー、馬鹿なの?」

「ぎぃいいー!」


 悲鳴にもならない叫び声をあげながら、ジャバウォックがイルマタルの後をついていく。それを見て、ロックルーフは中々ジャバウォックは子供の面倒を見るのが上手いものだと感心していた。


「(間違いなくイルマタルはジャバウォックを一番信頼しているのだが、それがわからないとは、ジャバウォックもまだまだ若い。まぁ、大変なのは認めるし、おかげで私は助かっているが。もうちょっとこのまま何も言わずに様子を見るとしようか)」


 ロックルーフは微笑みながら二人の後をついていく。そうすると、イルマタルの目に一人の少女の姿が入ってきた。どうやら迷っているのか、やたらと周囲をきょろきょろとしていた。これでは早晩、よからぬ人間に声をかけられかねない。

 露店巡りも飽きてきたイルマタルは、ここで一つお節介を焼いてみることにした。


「そこの人、何かお困りですか?」


 イルマタルはできる限り丁寧に、貴族がするような所作を真似て話しかけてみた。アルフィリースが大陸平和会議に向けて練習していた所作を見ていたから、使ってみたくなったのだ。

 だが相手は確かに身分卑しからぬ恰好をしていたが、イルマタルが思わず見惚れるように優雅で流れる所作で、挨拶を返してきたのだ。


「これはご丁寧に、小さくて親切な方。少しどの露店に入るか、迷っていただけですわ」

「お探しのものがあれば、案内しましょうか? 少しばかりこのあたりの露店には詳しいものでして」

「まぁ、では一つ頼んでみるのも悪くないかしら」


 イルマタルよりは一つ程頭が高い少女は、やや尊大に髪をかきあげるとイルマタルと並んで歩き出した。その態度からも本当の貴族である可能性が出てきたのでイルマタルはあまり良い予感がしなかったが、声を賭けた以上無視するわけにもいかず、並んで歩き出していた。

 ロックルーフが推測するに、貴族のお忍びといったところだろう。あまり面倒な展開は御免だったが、ジャバウォックと二人で護衛をしていて、万一もありえないだろうというのが結論だった。

 当のジャバウォックは、ようやく解放された安堵から盛大な欠伸をしている。その様子を少女が見て呟いた。


「後ろの二人は護衛なわけ? 粗野だし、あまり強くなさそうね?」

「そういうわけじゃないけど。迷子にならないように、知り合いのオジサンが見てくれてるってところかな。結構ああ見えて強いんだよ?」

「ふぅん、品位には欠けるようだけど。あ、まだ名前を名乗っていなかったわね。私はウィラニアよ。貴女は?」

「私はイルマタルだよ。よろしく」


 イルマタルは手を差し出し、ウィラニアはその手を取った。この二人が後に長らく続く腐れ縁となることを、この時当人たちですら予測してはいなかった。



続く

次回投稿は、9/21(土)6:00です。

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