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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その406~統一武術大会ベスト16幕間、管理者たちの憂鬱④~

「妾にはその答えを聞くことすら、資格なしということかえ・・・」

「そういうわけではないが、知ってどうなるものでもあるまいて。遺跡の最深部など、到達できる者だけが知っておればよいこと。それより、お主には聞いておきたいことがある。我々とて、物見遊山に来たわけではないのだ」

「あなた、アルネリアにある地下遺跡をねぐらにしているわね? 何かおかしなことを感じなかった? どんな些細なことでもいいわ」

「随分な物言いであるな。妾の質問には答えぬくせに、そちらの質問には答えよと?」


 シュテルヴェーゼがさすがに不快感を露わにしたが、そこにユグドラシルが割って入った。


「あながち貴様にも無関係とは限らんからだ、シュテルヴェーゼ。ウッコが貴様とおなじ屋根の下、眠っているとなれば答えぬわけにもいくまい?」

「は? ウッコが?」


 ウッコという言葉に反応し、殺気立つシュテルヴェーゼ。やはり、とユグドラシルは想像通りの反応に内心で納得していた。

 シュテルヴェーゼは手に持っていた串をへし折ると、怒りのあまり打ち震えながら言葉を発していた。


「忘れるものか、その名前。突如として現れたウッコとアッカの一撃により、戦場に出ていた母は巻き込まれて死んだ。その後魔人と手を組んでの討伐戦で、妾の父も死んだのだ! 魔人との戦いで死ねず、大陸の覇権と全く関係のないところで死んだ二人が、どれほど無念だったか――想像するだに口惜しい!

 それだけではない。わけもわからずただ破壊のみを繰り返した魔獣二体のせいで、竜のみでなく魔人にもどれだけ被害が出たか! まだ幼かったとはいえ、我ら古竜が忘れるはずもなかろうが!」

「そうか。その前に、串が落ちているわけだが。それ、これでも食って落ち着け」

「む・・・これはすまぬ」


 地面に落ちた串を拾うシュテルヴェーゼだが、ユグドラシルは新しい肉串を手渡した。シュテルヴェーゼはその串を持って落ち着きを取り戻したが、ユグドラシルの対応はなぜか冷めたものになっていた。


「古竜の。私は説教に来たわけではないが、一ついいだろうか」

「何であるか?」

「そなた、今の自らの発言に矛盾と驕りがあると気付かぬか?」

「?」

「なるほど、ノーティスが気疲れするわけよ。お前も古竜のくせに、短絡にすぎるな」

「侮辱するか!?」


 再度殺気を出し始めるシュテルヴェーゼに、ユグドラシルが串の先を向けた。


「それだ。それがまずい」

「何?」

「ただ破壊のみを繰り返した――と言ったな? 当時、お前たち古竜と魔人以外の生物にとって、お前たちの戦いがそれだ。地表に落ちる魔術、ブレス。それらがただの衝撃波の時もあれば、わけのわからぬ災害となって降り注いだ。死ぬ直前のお前たちの怨嗟の声が、大地を何百年腐らせる呪いになったと思う? あの戦いから数千年経った今も、お前は反省していないようだな?」

「それは――」

「ノーティスはわかっていたよ。だがそこでただ隠遁するのも、なんともいえぬ愚鈍ぶりだがな。お前たちには導き手としての自覚が足りぬようだ――まぁ、元が家畜なのだから仕方ないといえばそうだが」

「何? 今、なんと言った?」


 最後の言葉は聞き取れぬほど小声だったため、シュテルヴェーゼも聞き逃した。だがただならぬことを言われた気がして、肌がざわついたのだ。

 シュテルヴェーゼはユグドラシルのことを知らない。黒の魔術士は十人いると思われていたが、最後の一人のことがどうしても千里眼で確認できなかった。いかに千里を見通せようと声は聞こえぬので、その最後の一人がユグドラシルであることは知らないわけだが、目の前の男がただの管理者などではなさそうなことは既に気付きつつあった。


「貴様――もしや、『真理を知る者』か?」

「なんだそれは?」

「かつてノーティスが――我が夫が言っていた。この世は全てあるべき形が決まっていて、我々はそれをなぞっているにすぎないと。誰かの掌の上のように、あるいはこれからどのような事情がどのような確率で起こるかを知っている者がいるのではないかと。そうでなければ、あまりにも色々なことが都合が良すぎると言っていた。

 貴様がそうではないのか?」

「・・・なるほど、面白い発想だ。確かに、あながち間違いではないのかもしれない。だが、少なくともそれは私ではない。私がそれほど万能な存在なら、こんなところで串など焼かず、さっさと遺跡に押し入ってウッコをどうにかしている。

 私もまた不便な制約と肉の身に囚われた愚か者だ。遺跡に入るにあたり、貴様の案内が必要だ。我々、特にそこに二体は内部からの招待なしには他の遺跡に押し入る権限を持たぬゆえ、な。

 ここからが本題だ、シュテルヴェーゼ。ウッコを討伐してほしい。そこの二人は戦力としては役に立たぬが、遺跡の罠などが生きていれば役に立つだろう。古竜といえど解除が不可能な罠などは沢山あるだろうからな。

 返答はいかに?」


 話すにつれて威圧感の増したユグドラシルの声に、シュテルヴェーゼは気圧されていた。おそらくは断ることも可能だが、仮にそうすればここから先、古竜として人間に関わることは不可能になるのではないかという懸念がじくじくと腹の下からせりあがってくるような焦燥感に襲われた。

 なぜこの男がノーティスのことも含め、竜と魔人の大戦のことにまで詳しいのか、聞きたいことは山ほどあったが、どうせ答えてくれないだろうという予想もあった。

 シュテルヴェーゼの判断は早かった。


「――いいだろう。確かに、ウッコをこの手で討ちとれるなら、それにこしたことはない」

「だ、そうだ。二人ともシュテルヴェーゼに協力し、見事首尾よく討ち取ってみせよ」

「それは構いませんが、ユグドラシル。レーヴァンティンの回収はよろしいので?」


 カレヴァンの質問に、ユグドラシルは首を横に振った。


「必要ない。レーヴァンティンは管理者よりも上位権限で使役される武器である。管理者を含めたこの大陸の誰一人として、使える者などいはしまい。そもそもシモーラとて、三振りが限度だったのだ。それ以上はこの大陸を破壊しかねんからな」

「もう一つ。遺跡の中で第三者に遭遇したら、どうするべきですかな?」

「原則捕えて記憶操作が必要だ。だがもし苦戦するようなら、始末していい」


 その言葉に、トゥテツの目が光った。



続く

次回投稿は、9/19(木)7:00です。

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