戦争と平和、その404~統一武術大会ベスト16幕間、管理者たちの憂鬱②~
「な、なぜここにそんな――いえ、誰かの差し金ですね?」
「だからレーヴァンティン――万一ウッコが目覚めた時に、制御するために」
「落ち着け、まだ休眠している状態だ。現在目覚めても以前ほどの脅威ではあるまい。それにアルネリアは存在にすら気づいていないだろう。気づいていれば平和会議どころではないだろうからな。誰も爆弾の上で平和を謳おうなどとは思うまい。
誰かが持ち込んだ。そう考えるのが自然だろうな」
「誰が、何の目的で? いや、それ以上にそんなことをできる存在がいるのですか? かつて魔人と真竜の大戦に分け入ったウッコとアッカですぞ? 一次的に魔人と真竜が戦いをやめ、総出で討伐隊を組みアッカは討伐されましたが、真竜や魔人以上の力を持つウッコは結局誰も討伐しきれず、地下深くにその身を隠したはずです。
いかに傷ついたとはいえ、そのウッコを誰が移動などさせられるというのか」
「その方法と犯人を調べているのだ。私が本当にただここの店番を安穏としていると思っているのか?」
ユグドラシルの言葉に、トゥテツとカレヴァンは黙ってしまった。その二人を見て、ぽそりとユグドラシルが呟いた。
「・・・まぁ楽しんでいることを否定はしないが」
「何かおっしゃいました?」
「いや、なんでもない・・・?」
「おじちゃーん、その串一つちょうだい!?」
ユグドラシルが取り繕おうとすると、丁度そこに少女が立っていた。手には1ペンド硬貨で一番大きな串を要求している。全く足りないことはまだいい。
それよりも人払いの魔術をかけていたはずなのだが、物ともせずに近づいてくるとは。反射的に姿を変える魔術を使用して姿形を青年のものに変更したが、ユグドラシルが警戒した瞬間のことである。
――ぎゅるごごごご――
少女には似つかわしくない派手な腹の虫と共に、少女の口から涎が垂れた。どうやら余程空腹らしい。まさか空腹で魔術を突破してくるとは、それはユグドラシルも予想していなかった。微かな微笑みとともに、ユグドラシルが肉串を準備してやる。
自分が笑ったことにも驚きだが、ユグドラシルは焼きあがった串を両手に持っていた。
「一つと言わず、二つ持って行くといい。おまけしてやろう」
「いいの!?」
「その代り、おじさんではなく、お兄さんと呼びなさい。まだおじさんと呼ばれる年齢ではない」
「えー、でもおじいさんより年上だよねー? そっちに座っているおじいさんよりも、だいぶ年上だよねぇ? 気を使っておじさんって言ったんだけど、お兄さんって呼んだ方がいいの? それ、『サバ読み過ぎ』って言うんじゃなかったっけ?」
認識阻害と隠蔽の魔術をかけているはずのトゥテツの方を少女が指さした。かなり上級の魔術士でも見破れないはずの精度である。それを一瞬で看過するこの少女の能力。
空腹だけで魔術を突破したわけではないのか。そういえばこの少女は――ユグドラシルが考えた直後、少女を追いかけてきた者がいた。
「イル、待てよイル! 一人ですぐ逃げやがって! ちゃんと俺の後ろを歩けって言ったろうが!」
「あっさりまかれるジャビーが悪いんだよ。美人さんに見惚れているからだよ」
「見惚れたのは一瞬で、お前の隠遁がうますぎるんだよ! って、ここは・・・」
ジャバウォックが出現したことで、ユグドラシルが警戒心を上げた。だが殺気を放つようなことはなく、あくまで店番の商人としての調子で応対した。
だがジャバウォックの目はごまかせなかったようだ。
「・・・なんで露店が人払いの魔術なんかかけていやがる。なんかやましいことでもしてんのか?」
「本来の店番がサボって競技会の賭けに行っちまったんで、あまり大挙して客が来ても困るんでさぁ、旦那。そういうわけで、ちょいと人払いさせてもらって私もサボろうって魂胆で」
「ふんっ、そうかよ。ただの店番が人払いの魔術をねぇ」
「別に人払いの魔術くらい使えたって、おかしかないでしょう旦那。魔術協会にいかなくても、闇市では100ペンドも払えば人払いの魔術書の手引きくらい売ってまさぁ。やり方さえ知ってりゃ、誰でも使える魔術ですぜ」
「そりゃそうかもしれねぇがなぁ。なーんかうさんくせぇんだよなぁ?」
ジャバウォックとは先に面識があるユグドラシルである。姿形が変わっても、臭いで気付かれる可能性がある。それに見た目によらず、勘も鋭い。
ユグドラシルが内心で下手をうったかと考えていると、そこにさらに後から来た者がいた。レイキ、ロックルーフ、さらにはシュテルヴェーゼがそこに姿を現した。
続く
次回投稿は、9/15(日)7:00です。




