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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1866/2685

戦争と平和、その403~統一武術大会ベスト16幕間、管理者たちの憂鬱①~

 ユグドラシルは自分が出した商品にがっつく二人を見て、やや怪訝そうに質問する。


「で――何の用だ? まさか本当に串焼きを食べに来ただけとは言うまいな?」

「――はっ! あまりのおいしさに、つい」

「情報で知るのと、実感するのは全く違いますね。このようなことにまで精通しているとは流石です、ユグドラシル」

「世辞はいらん、早々に用件だけ話せ。お前たちがここにいることに勘付かれるとまずい連中がいるだろう? まぁ大方予想はつくがな」


 ユグドラシルが二人を睨むと、今度は真剣な顔になった。ただ串焼きの続きを作りながら、火と網を挟んで対峙するとどうしても緊張感がないものだと、ユグドラシルは嘆いた。だからこそ、多くの者が笑顔で食事を楽しめるのだろうと想像もしたのだが。

 トゥテツがまず答えた。


「お察しの通り、レーヴァンティンの去就を調べに参りました」

「お前たちが遺跡を離れるとは、規則違反ではないのか?」

「分体――使い魔の様なものですな。戦闘能力はまったくといってよいほどないので、問題はないかと。虚ろが動くようなことにはなりますまいて」

「規則の抜け穴だな。能力さえなければ、本体と同じ情報量と判断力を持つ分体が人の世界で活動してもよいとはな――」

「でも、レーヴァンティンの行く末の方が大事だわ。あれの真実が知られずに、世に漂っている方が余程危険。使い方次第では、この大陸を沈めることも可能。アルネリアとて、知っていて保存しているわけではないでしょう。

 レーヴァンティンを守っていた管理者――シモーラが停止して久しいわ。シモーラが停止したところで、我々にはそれをどうこうする権利はないわけだけど――それでも、このまま朽ちてゆくのを手をこまねいて見ているしかないなんて」


 カレヴァンが手に持った果汁を煽りながら、歯痒そうに申し出る。それを見て、ユグドラシルが静かに告げた。


「記憶の遺跡の管理者が、まるで人間のようではないか? お前こそ、自身の機能不全エラーを疑った方がいい」

「わかっています、自分ではどうにもできないことも、私もまた機能停止が近いこともわかっているのです。だから、貴方の元に来たのです。今はユグドラシルと呼ばれているのでしたか? あなたはここでただ静観しているおつもり?」

「それはないでしょうな。あなたも積極的に介入する権利を持たないまでも、何かあった時に即座に動くためにここに来ていらっしゃるのだ。あなたは何を知っていらっしゃるのです?」


 ユグドラシルがしばし目を瞑っていたが、目をかっと見開くと目の前の肉をひっくり返し始めた。


「いかんな、焦がすところだった」


 その行為にトゥテツとカレヴァンががっくりと崩れる。


「ユグドラシル――あなたこそ、壊れているのではなくて?」

「それはない、それはないが――我々とて変わるのだな、とは思ったよ。まさか私がこのようにただ露店の店番をしているなど、五千年前は思いもよらなかった可能性だ。そしてこんな一見誰でもできる非生産的な行為からも、得るものがある、ということを考えるとはな。

 カレヴァンよ、お前が変わったのも、来訪者があってからのことだろう?」

「それは――」

「否定はせずともよい。管理者とて変わるものだし、変わっていいのだ。だからこそ、今この大陸は動乱に包まれているとも言える。

 私は見極めねばならん。この動乱がどこからきて、そしてどのように治まるべきなのか、誰が治めるのか。それ次第では――」

「待ってください、それではまるで我々の内の誰かが積極的に関わっているとでも言いたげな――いえ、そうなのですね?」


 トゥテツの言葉には、カレヴァンもユグドラシルもどちらも答えることがなかった。可能性として予見していたことだが、証拠は何もない。だがユグドラシルがゆっくりと口を開いた。


「確証はない。ないのだが、いくつかわかったことがある」

「それは?」

「この三つの大陸に七つある遺跡の内、三つは完全に停止している。残り二つがお前達、そしてあと二つは休眠中だ。このアルネリアの下にある遺跡も完全に停止している――そう思っていた」

「違うのですか? だってシモーラは壊れて――いえ、シモーラの役割を引き継いだ何かがいるのですね?」


 ユグドラシルが無言で肯定した。


「一部、地下深くの遺跡が動いている気配がある。まだ侵入はしていないし、その権利もないわけだが、お前たちのどちらかがあるいは侵入できないだろうか?」

「いけます。ただし、積極的に侵入するということでなく、誰かの随行者ならというところですが」

「同じく。ですがこの体の機能は人間と大差ありません。もし障害となる敵がいれば、様子を見てくることすら危ういわけですが」

「やはりか。そうなると厳しいな――下にウッコがいる」


 その名前を聞いた途端、トゥテツとカレヴァンは呼吸を忘れそうになるほど驚いた。どこかで休眠していると聞いていた伝説の魔獣が、こんなところにいるとは夢にも思っていなかったからだ。



続く

次回投稿は、9/13(金)7:00です。連日投稿になります。

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