14話
今日2話投稿できるかわかんないよー( ; _ ; )
ストック尽きたよー( ; _ ; )
「本当に、これで行くの……?変じゃない?」
鏡の前で胸に手を当て、そこに映った自分を眺める。
「なんでそんなに不安そうな顔してるのさ。このオレがかわいいって言ってるんだから、大丈夫に決まってるでしょ。それに、お前はオズワルド様の審美眼を疑うの?」
斜め後ろに立ったシエルがバシッと背中を叩いてきて、思わず背筋を伸ばした。
今の私が着ているのは、王立学園の指定制服だ。
濃いグレーの制服は概ねシエルが着ていたのと同じデザインだが、胸元に施された刺繍が少し違う。
シエルが通う中等部の制服には、ロベルタ王国の初代国王が愛した百合の花、そして私が通う予定の高等部の制服には、現女王ダイアナを象徴する白い薔薇の刺繍が施されているのだ。
「そういう訳じゃないけれど……でもこれ、やっぱりそういう意味だよね……」
「……まぁ、リリを誰にも取られたくないっていうオズワルド様の男心だよ。……牽制にしては、効果ありすぎな気もするけどね」
シエルが呆れたように笑うので、私は改めて自分の胸元で結ばれた赤いネクタイに触れる。
これは元々、オズワルドが使っていたものだ。
私の制服小物を選ぶ際、数あるデザインのリボンをまじまじと眺めたあと、オズワルドは「リリが嫌じゃなければ」と言って、彼が1年生の時に使っていた赤いネクタイを差し出してきた。
「王立学園には聡明な生徒ばかりだから、あまり心配はないと思うが……それでも、君に悪い虫が付いたらと思うと耐えられない。僕と君では学年も違うし、僕が四六時中張り付いているわけにもいかないから……お守り代わりに、付けてくれたら嬉しいんだけれど」
頬を少しだけ赤く染めてそう言ってくるオズワルドを見て、断るという選択肢なんて存在しなかった。
彼が私を想ってくれているのがしっかりと伝わってきたし、受け取った時は舞い上がるほど嬉しかったのだが……
「やっぱり恥ずかしい、かも……」
毎日制服を着る度に、鏡を見る度に、自分がオズワルドに守られているのだと実感してしまいそうで、勝手に頬が熱くなる。
「贅沢な悩み。普通の女の子がオズワルド様の私物なんかいただいちゃったら、これ見よがしに周りに自慢すると思うんだけど」
シエルは私の隣でちょこちょこと前髪を整えながらそう言って、ちらりと時計を見る。
「さ、そろそろ行こ。オズワルド様と兄さんも待ってるよ」
シエルに手を引かれ、私は部屋をあとにした。
「どう、ですかね……」
王城の裏口、王家の馬車とヘルマー公爵家の馬車が止まっている横に、オズワルドとセストが並んで待っていた。
私たちが駆け寄ると、セストが「お、来た来た」と手を振ってくれたのに対し、オズワルドはピシリと石化したかのように固まってしまった。
「やっぱり変ですか……?」
そうオズワルドに尋ねると、彼は大きく首を横に振る。
「いや、いいや!変じゃない。その、すごく……愛らしい」
「あ、愛らしいって……」
「……すまない、リリのその姿を見ていたら、本当に君をロベルタに迎えることが出来たんだと実感してしまって……」
照れたように眉を下げ、頭を搔くオズワルドに、私は胸を撫で下ろす。
彼の目にかわいく映っているのなら一安心だ。
「……それに、君が僕のものを身に付けてくれたのが、思っていたより嬉しいんだ」
オズワルドは甘く含羞んで、私に手を差し出す。
「それじゃあ行こうか。君を、早く学友たちに見せびらかしたい」
「……はい!」
***
そうして、オズワルドたちと共に王立学園へと到着したのが1時間前。
まだ授業が始まるには早い時間だったが、委員会や同好会などの活動で早くから登校している生徒も多いようで、校門前にはそれなりの人数の学生がいた。
王子に公爵家子息がふたりという、ノーブルなオーラの隠しきれない一行の中に、私のような平々凡々な見慣れない女がいるせいで、当然生徒たちからはたくさんの好奇の視線が寄せられる。
二度見とは言わず、三度見、四度見していく野次馬たちには、シエルが「見世物じゃないんだけどー?」と冗談ぽく言って追い払ってくれた。
彼らは私を職員室まで送り届けてくれたあと、それぞれ自分の教室へと向かった。
オズワルドだけは「君の優しさは美徳だが、あまり誰彼構わず優しくしないで欲しい。男は単純で、すぐに勘違いする」などとよく分からない心配をしていたが、最後には「……授業が終わったら迎えに来るから、それまで待っていて欲しい」と絞り出すように告げて去っていった。
職員室の隅、パーテーションで区切られた簡易的な会議室の中に残されたのは、私と水色の髪が美しい若い女教師。
女教師は姿勢よく椅子に腰掛けると、向かいの椅子を指さして「かけてちょうだい」と言った。
私が椅子に腰を下ろしたのを見て、彼女は口を開く。
「はじめまして。私はニコラ・ヘンダーソン。今日からあなたが所属する、王立学園高等部、1年A組の担任です」
淡々とした口調で名乗るニコラに、私はぺこりと頭を下げる。
「ニコラ先生ですね。私はリリ……リリネット・アンバーです。よろしくお願いします」
つられて私も名乗ると、ニコラは薄い眼鏡の位置をカチャリと指で直し、小さくため息をついた。
「……あなたの素性は、理事長を通して私にも通達されています。面倒事を避けたいなら、本名は名乗らない方が得策でしょう」
「あ……すみません……」
慌てて口元を抑えると、ニコラは「いいえ」と首を横に振る。
「困るのは私ではありませんから。……ちなみに、学園内でこのことを知っているのは理事長と私だけ。何かあったら、すぐに私に相談なさい」
ニコラの静かな声に、私はこくりと頷く。
彼女がフン、と鼻を鳴らして横を向くのを見て、厳しい先生なのかと思いきや、実は優しいのかもしれないと安堵する。
「それでは、今日の朝のホームルームであなたをクラスに紹介します。王立学園の生徒として、品格ある振る舞いを心掛けるように」
「はい、先生」
「よろしい。着いてきなさい」
席を立ち、つかつかと廊下を歩き出すニコラの後ろに続いて教室へ向かう。
教室の前まで行くと、楽しそうな喋り声が響いていた。
前世で通っていた高校もこんな感じだったなぁ、なんて懐かしさに浸りながら耳を澄ませていたら、ひとりの男子生徒が入室したニコラに軽く叱られているのが聞こえてくる。
「先生、ニコちゃん先生って呼ばれてるんだ」
冷たい態度にも関わらず、あだ名をつけられるほど生徒に慕われているのなら、やっぱり彼女はいい先生なんだろう。
「それでは、入って来なさい」
ニコラがこちらに呼びかけてくるのが聞こえたので、私は恐る恐る教室のドアを開いた。
半分ほど開けた隙間から体を滑り込ませて教室を見渡せば、30人ほどの生徒たちの視線が一心に注がれる。
「……初めまして」
挨拶の声は、思った以上に小さくなってしまった。
こんなに大勢の前に立つのは、なんだか酷く久しぶりだ。
教室の後方に座る少年のひとりと目が合って、彼が大きく目を見開く。
私が少し首を傾げると、彼は何やらぼそぼそ呟いてから顔を真っ赤にした。
「さぁ、自己紹介を」
ニコラに促され、私は頷く。
「本日から、このクラスに編入することになった、リリといいます。イグニアス王国から、親戚の伝手を辿ってロベルタ王国へ来ました。この国のことはまだまだ勉強中なので、皆さんに教えていただけたらと思っています。改めて、これからよろしくお願いします」
緊張で上擦りそうになる声を何とか抑えて、私はお辞儀をした。
顔を上げると、一瞬の静寂の後に拍手が巻き起こる。
「はい、はい、質問!リリ嬢に彼氏はいますか!」
「ばか、初対面で何聞いてんのよ!」
先程目が合った快活そうな少年が真っ先に手を挙げ、隣の気の強そうな少女に頭を叩かれた。
仲の良さそうな様子に思わず笑ってしまうと、周りの生徒たちも可笑しそうに顔を見合せている。
「静粛に。個人的な質問は休憩中にしなさい。この後は昨日の小テストを返却します」
「えぇ!せっかくの編入生なんだから、今日のホームルームは親睦会にしましょうよ、ニコちゃん先生」
「しません」
取り付く島もないニコラに、少年が「ちぇ」と肩を竦めた。
「あんたはテストの出来が悪いから返ってきて欲しくないだけでしょ」
「げっ、なんで俺の答案用紙が半分以上空欄だって知ってんの?」
「そこまでは知らないわよ!」
気安いやり取りを続けるふたりに、ニコラがため息をつく。
「リリ嬢の席は……そうね。窓際の、エバンズ嬢の隣が空いています」
ニコラが指差したのは、先程まで男子生徒にツッコミをしていた少女の隣。
名前を呼ばれた彼女は目を瞬かせたあと、にっこりと笑みを浮かべて「こっちこっち!」と手招きしてくれる。
「初めまして!私カトリーナ・エバンズ。エバンズ伯爵家の三女っていえば伝わる?わかんない?んー、家の商会もまだまだだな。とにかく、商人たるもの情報が命だからね。何か知りたいことがあったら私に聞いて!隣のクラスのあの子の恋愛事情から購買のセール情報、果ては理事長の若さの秘訣まで、なんでも教えてあげる!あ、もちろんいただくものはいただくんだけど。私もリリに聞きたいことたくさんあるから、覚悟しておいて!」
席に着くや否や、カトリーナと名乗った少女は満面の笑みで話しかけてくる。
そのマシンガンのようなスピードに必死に相槌を打っていると、「こらやめないか、エバンズ嬢」と低い声がかかった。
視線をずらせば、私とは反対隣に座っていた先程の少年が、足を組んで短い髪を掻き上げるような仕草をしながら澄まし顔でこちらを見ている。
「うわ、何、かっこつけちゃって」
「かっこつけるとはなんだね、エバンズ嬢。俺はいつだってダンディで紳士的なはずだ」
「さっきばか丸出しの質問してたんだから、今更そのキャラは無理があるわよ、ルート。あとそのエバンズ嬢ってのやめて、怖気がするわ」
カトリーナが苦い顔をすると、キリリとしていた彼の顔が次第にしおしおと萎れていく。
「クソー!なんだよ、かっこつけさせてくれよ!謎の美少女転校生なんてロマンスの始まりだろ!」
「そのロマンスで身を滅ぼしたいならどうぞご勝手に」
「畜生!」
悔しそうに頭を抱える少年に、カトリーナは深いため息をついた。
「まぁ、一応リリにも紹介しておくわね。こいつはルートヴィヒ。ネルソン子爵家のとこの出来の悪い方」
「失敬な!兄貴より剣の腕は立つ!」
「はいはい」
噛み付くルートヴィヒとそれを軽くあしらうカトリーナは、話を聞くに幼なじみらしい。
なるほど、通りで息ぴったりなわけだ、と思ったまま口に出すと、ふたり揃って「「それはない!」」と叫んだ。
「ほら、やっぱり仲良し」
「ち、違うわよ、誰がこんなばか犬……」
カトリーナが慌てて髪を耳に掛けて誤魔化そうとしていると、「そこ、静粛に」とニコラの冷たい声が飛んできた。
「ま、まぁ、とにかく!私たちはリリと仲良くしたいと思ってるから、これからよろしくね」
「ふふっ、うん。こちらこそ、よろしくお願いします」
差し出されたカトリーナの手を握れば、彼女は満足そうに手を握り返してきた。




