最悪の再開
新しいお話頑張る
それでは一話どうぞー
新入生の刈谷俊樹は、体育館の重い扉を開けた瞬間、思わず眉をひそめた。キュッ、キュッと床を擦るバッシュの音。しかし、そこに響くはずの活気ある声がない。かつて県ベスト8の強豪として名を馳せたバレー部。しかし、主要メンバーの大量退部を経て、そこに残されていたのは数人の先輩たちだけだった。「ほら、球下がってるぞ! もう一本!」声を張り上げているのは、3年生でキャプテンの坂口大。彼が懸命にチャンスボールを上げているが、レシーブに下がる先輩たちの顔には、どこか諦めたような疲弊が滲んでいる。俊樹はウズウズする右手をぎゅっと握りしめた。セッターとして、ドンピシャで最高に気持ちいいトスを上げて勝ちたかった。けれど、この活気のない体育館の空気を見て、胸の奥がモヤモヤする。(セッターの俺がどれだけ最高のトスを上げたとしても、打つ人がこれじゃ全然気持ちよくねえぞ……)難しいことはよく分からないが、とにかくバレーがしたい。俊樹が頭を掻きむしりかけた、その時だった。バタン、と体育館の扉が勢いよく開いた。「ハァッ、ハァッ……! すみません、遅れましたっ!」入ってきたのは、汗だくの同じ1年生の少年だった。ゼッケンを握りしめ、肩を大きく上下させている。しかし、その瞳だけは信じられないほどギラギラと輝いていた。俊樹はその顔を見た瞬間、頭に血が上るのを感じた。忘れるはずがない。中学時代の最後の公式戦。ネットの向こう側で、俊樹が「ここだ!」と感覚で上げた完璧なトスを、予測不能な動きと抜群の瞬発力だけでめちゃくちゃにブロックしてきた、あの最悪のアタッカーだ。「……樋口、翔」俊樹が思わず名前を呟くと、少年――樋口はこちらを振り向き、大きく目を見開いた。「あーーっ!! お前、あの時の、細かくて理屈っぽいセッター!!」樋口は俊樹を指差し、体育館中に響き渡る大声を張り上げた。その言葉を聞いた瞬間、俊樹の頭はカッと完全に沸騰した。「んだとコラァ!! 誰が理屈っぽいセッターだ! 俺はいつでも感覚で、一番気持ちいいトスを上げてんだよ! お前みたいな、ただ高く跳ぶだけの空振りバカと一緒にすんな!」ガタッと一歩詰め寄る俊樹に、樋口も負けじと胸を突き合わせる。「んだとコラァ! あれは空振りじゃなくて、ちょっとタイミングがズレただけだろ! バレーはもっとこう、ババッときてドカンと打つもんだろ!」「何がババッときてドカンだ! 俺のトスはな、シュバッときてピタッと止まるんだよ! なんでお前がこの高校にいるんだよ!?」「俺はちゃんと高校でもバレーやるって決めてここに来たんだよ! お前こそ何しに来た!」「俺だってバレーをするために決まってんだろ! お前と喧嘩しに来たんじゃねえよ!」「おい、そこ。突っ立って何してんだ」初日から激しく小競り合いを始めた2人の間に、影が落ちる。仁王立ちしていたのは、キャプテンの坂口だった。その体格と凄みに、2人は一瞬で肩をすくめて直立不動になる。坂口は、目の前の凸凹な1年生2人を交互に見つめた。「部員が足りなくて困ってるところに、威勢のいい1年が来てくれたのは助かる。……が、うちは今、見ての通りまともな練習すら危うい状態だ」坂口の言葉に、体育館の空気が少し重くなる。しかし、2人のバレーバカはそんな重い空気を一瞬で吹き飛ばすように、同時に一歩前に踏み出した。「キャプテン、俺はセッターです。刈谷俊樹です。俺のトスで、このチームを一番熱くします!」「俺はアタッカーの樋口翔です! 技術はこれからですけど、ジャンプ力なら誰にも負けません!」プレイスタイルはどちらも本能。お互いに顔を合わせればすぐにムキになって言い合いばかり。だけど、バレーへの純粋な熱量と、負けず嫌いな単細胞っぷりは全く同じ2人のバレーバカが、この静まり返った弱小体育館で、最悪で最高の再会を果たした。
1話どうでしたかこれから連載続けます




