084⚫️会わないでおこう
「毎日、記憶が消えて行っています。」
「それは、記憶喪失というやつですか?」
「・・・いえ・・・喪失と言うより・・・消失です。」
記憶消失?そんな病名、聞いたこと無いぞ!
「ヒロさんは、新しい記憶を幾何級数的に失っていっています。過剰なデータ処理に耐えきれなくなった結果、必要最小限の情報だけを残して、脳自らが記憶を消去し始めたのでしょう。」
「ということは、任務についていたことも・・・。」
「そのとおりです。あなたとの記憶も、間もなく消えることでしょう。」
「ヒロは、ヒロは生きていけるんですか?」
「あの奇跡的な記憶力を取り戻すのは難しいと思います。しかし、言葉や文字、情緒などの非認知能力は残るようです。3歳ぐらいまでの記憶も、おそらく大丈夫でしょう。ある意味で、’普通’に戻るんですよ。」
普通?普通って何だ?ヒロは普通だ!
ちょっとばかり憶えるのが得意なだけで、
たまに生意気で、トマトが嫌いなだけの、普通の女の子じゃないか!
俺は、憤りと悔しさと悲しさと・・・理由のわからない何かで胸が一杯になる。
「これから、あいつ、どうなるんですか?」
「部長によると、エンユウジ一族が、引き取るそうです。だいじょうぶ。当主の方もヒロさんの受け入れに熱心なようですから。」
そうか・・・。’変な子’と言われた過去を忘れ、
悲しみのない世界でもう一度、人生をスタートさせるんだな。
「会って行かれますか?本当は面会謝絶ですが。今なら・・・。」
「・・・いや・・・やめておきます。記憶の混乱につながるといけませんから。」
ヒロ。苦しい思いをしてきた分、これから幸せになってくれ。
俺は自分の夢を叶えられるよう、まだ、しばらくここでやってみる。
やれやれ。部長が小躍りするのを、
これからも、見つづけなければならん、ということだな・・・。




