060⚫️今になって・・・
スター・トラック社製の旧式戦闘艦をベースにした海賊船。
予算が無かったんだろうな、
内部改造はほとんど施されていなかった。
ブリッジへのルートも、ヒロの記憶にあった設計図通りだったからな。
俺たちは最短距離で中枢を制圧し、機関部を物理的に黙らせてから客船へ戻った。
船長が熱い握手を求め、
レストランでは乗員・乗客から割れんばかりの拍手が起きる。
だが、俺の心境は複雑だった。
目立っちまったじゃないか!
通信が回復すると同時に、連邦警備隊への通報を船長に依頼する。
俺たちの関与については’一般客の協力があった’程度に伏せておくよう念押しした。
が、この船の全員の口を完全に封じるのは不可能だろうなあ。
目的地まではもうすぐだ。できるだけ透明な存在でいたかったんだが。
いや、情報伝播には必ず時間差がある。
到着と同時にマスコミが押し寄せる、ということはありえん。
手続きを済ませて、さっさと迎えと合流すれば、問題ない。
「どうした?子どもは遠慮するもんじゃないぞ。まあ、俺は大人でも遠慮しないがな。」
目の前には、船長から「ふたりの英雄」へのプレゼントとして届けられた、
特注のイチゴのホールケーキ。
だが、ヒロはフォークを握ったまま、動こうとしない。
「・・・うん・・・すごいね・・・でもさ・・・」
ヒロの声は掠れ、小さく震えていた。
「・・・今になってさ・・・急に怖くなってきたんだよね・・・。」
こいつの脳は、忘れることを許さない。
恐怖の瞬間さえも、保存されてしまう。
それが’完全記憶者’が背負う、あまりに過酷な代償だ。
俺は何も言わず、そっと腕を回して、小さな肩を静かに抱きしめた。
その記憶の片隅に、少しでも温かさが残ることを願って。




