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054⚫️本のタイトル

朝の図書館は静かだった。

この時代でも‘紙’の書籍は存在する。


ある考古学者は言った。

「もし記録を何千年と保持したいなら、岩に刻むか、天然素材の紙とインクで残すべきだ」と。


ヒロは子ども向けコーナーで、

いつも読む本を手に取る‘ふり’をして、右隣の古い書籍をひょいと抱えた。

ページを捲る。変わったところは何もない。

ただ、一枚だけ紙質の異なるシートが挟まっている。誰も気づかない。

しかし、ヒロにはわかる。

分子投影シート、Molecular Projection Sheet(MPS)。

ヒロは何事もなかったように本を閉じ、貸出カウンターで手続きをする。

怪しまれる理由はどこにもない。


帰宅すると、自室へ直行し、扉をそっと閉める。

机の上で書籍を広げ、挟まれたシートを摘み上げた。

深呼吸。シートの端を軽く折り合わせる。

カチッ。

部屋の片隅で、一瞬だけ光が咲いた。わずか1.2秒。

艦隊配置、司令官の行動傾向、補給線の計画。

すべてが‘立体のかたち’として脳に沈んでいく。

光が消えた瞬間、シートは空中で跡形もなく分解・四散する。


「・・・うん。ちゃんと入った。」

ヒロは静かに目を閉じる。次に渡すとき必要なのは‘思い出す’ことだけ。

誰にも奪われない記憶が、静かに息づいていた。


「これで全部そろった。さて・・・もうすぐ合流だ。図書館に返却しなくちゃ。この本のタイトルは・・・‘世界線をこえて’だったよね。」


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