三十一話 騒動
迷路状の場所のマップ埋めをし続ける。肉体と精神的な疲労は、治癒方術のリフレッシュで回復。そして、再び探索を続ける。
そんなことを繰り返しているうちに、もう一つ宝箱を発見した。
その中に入っていたのは、例の銀貨だけだった。
「これはハズレだな。いや、二階層の中層域にある宝箱には、銀貨が確定で入っているのかもしれないな」
銀貨を次元収納の中に入れ、再びマップ埋めに戻る。
しかし出くわしたミニゴーレム二匹を倒したところで、問題が発生した。
「石板の一枚目が入ったが、二枚目が入らない。次元収納の容量が一杯になったみたいだ」
仕方がない、石板一枚は諦めるか。
あと、これ以上の探索の探索も止めよう。
モンスターを倒しても収入にならないし、マップ埋めの先は長いし、筋肉疲労も強くなってきたし。
俺はスマホに描いた自分の即席を確認しつつ、第二階層の出入口へと戻る道を進む。
その途中、モンスターと出くわす。ミニゴーレムとゴブリンが一匹ずつだ。
「次元収納の容量が一杯だっていうのに」
しかし、倒さないという選択肢はない。
ゲームの様に逃げて撒ける可能性よりも、追いかけられてモンスタートレインになる可能性の方が高いだろうし。
メイスを振るい、移動速度の差で先に近づいてきたゴブリンを倒す。続けてミニゴーレムを、攻撃手段である腕部を先に壊してから、頭部へとメイスを撃ち込んだ。
ドロップ品は、石板とミサンガ。次元収納に石板は入らなかったが、ミサンガは入った。うまい事、次元収納の容量の隙間に入れられたって感じだ。
「ここで都合良く、次元収納のレベルがアップして容量が増えたりは――しないよな、やっぱり」
今日はもうモンスタードロップ品を拾えないことを覚悟しつつ、モンスターと出くわさないことを祈った。
その祈りは、曲がり角の先にゴブリン二匹がいたので、即効で叶えられなかったけど。
第二階層の出入口付近で、次元収納からリュックを取り出し、その中にミニゴーレムの石板を詰め込めるだけ詰め込む。そしてバックのポケットに、ゴブリンミサンガと全ての謎銀貨を詰める。
リュックはパンパンになったが、まだまだ次元収納の中にモンスタードロップ品が残っている。
これはリュックじゃなくて、台車と箱が必要だな。
俺は新たに買う物を決定しつつ、東京ダンジョンの外へ。
すっかりと夜になっている中を、重たいリュックを背負いながら、役所の買い取り窓口へ。
窓口で、リュックから石板とミサンガ、そして銀貨を売りに出した。
銀貨を置いた際に、買い取り窓口の職員の目が驚きで大きくなっていた。
あの反応からすると、あの銀貨は良い値で売れるんだろうな。
整理券を受け取ってソファーに座って待っていると、近づいてくる気配がした。
気配の方へ目を向けると、日本鎧が三名に和服に編み笠が二名の探索者パーティー。
ダンジョンでも役所内でも、出くわした覚えのないパーティーだ。
たぶん、俺に用があるんじゃなくて、ドロップ品の売却代を受け取るために窓口に行く最中なんだろうな。
そう結論付けて無視しようとしたところで、あちら側から声をかけられた。
「なあ、アンタ。石板を売ってたのを見るに、第二階層に行っていたんだろ。なのに、どこでダンジョン銀貨を手に入れたんだ?」
あまりにも不躾な質問に、俺はどう反応するべきかを考える。
俺がオリジナルチャートに従って行動すれば、既存チャートとの違いで目立つことは想定していた。そして俺のチャートが有用だと知れば、何をやっているかを聞きにくる探索者が現れることも予想していた。
だから、俺が普通の探索者なら、ごく普通の対応をすればよいだけの話だろう。
しかし、俺のダンジョンに入っている目的が、不老長寿の秘薬を手に入れることだという点が、事情をややこしくさせる。
なにせ、この目的を考えたら、安易に探索者の知り合いを増やすことは悪手なのだから。
不老長寿の秘薬は、この世の権力者や富豪が血眼になって求めている。もし誰かが入手したと情報が流れたら、権力者とのコネや富豪からの大金を理由に、入手した人が襲撃されることは間違いない。その誰かが、同じ探索者パーティーの仲間であっても。
だから俺は用心のために、単独でダンジョンに入ることを決めた。そして俺の仲間になりたいと思う人が現れないよう、イキリ探索者を装うことで悪評を意図的に流し続けている。
そういった事情を考えると、この話しかけてきた奴らへの対応の仕方も、自然と決まってくるようなもの。
「なあ、アンタ。聞こえているのか?」
「うっせえなあ! マナー違反のクズが、俺に一丁前に質問なんかしてきてんじゃねえ!」
俺がソファーに座ったまま怒声を響かせると、質問してきた日本鎧が狼狽えた。
「な、なぜ行き成り怒鳴って」
「はああぁぁ?! 俺のお前は初対面だよなあ!? 友達じゃねえよなあ!? なのに、人が窓口に売ったものを盗み見て、どこでドロップ品を手に入れたのかの情報をタダで寄こせだあああ?! 頭湧いてんのかってんだよ!!」
俺が大声を放ち続けると、役所の中にいた探索者や、窓口の向こうにいる職員が、何事だって目で見てきた。
注目が集まったことに、俺に質問してきた、探索者パーティーが狼狽える。
よしよし。この注目を利用して、俺と関わると損だって、周囲にアピールにするぞ。
「こっちは一人だってんのに、そっちは五人でゾロゾロと来やがって! なんだあああ! 情報を教えなきゃ、俺をフクロにでもする気だってのか! あああああんん!?」
「い、いや、そんなことしない。ただ単に、教えて欲しかっただけで」
「人が窓口で売ったドロップ品を盗み見て情報を盗み取る、そんな無礼者に教えるわけねーだろ! 馬鹿か、テメエは!」
俺がギャンギャンと吼えていると、異常事態だと思われたようで、役所内にいた警備員が二人飛んできた。いや、警備員じゃなくて、警察官だな。警察の制服だし、腰に拳銃吊っているし。
「どうしたんですか?」
穏やかな声色での、警察官の問いかけ。
しかし、声をかけてくれた方の警察官は警棒に手を伸ばしかけているし、その相棒は密かに拳銃ホルスターの留め金に指をかけている。
この二人の警察官の動きは、少し過剰な反応に思えるだろう。
だが、メイスを次元収納に入れている俺とは違い、対する探索者パーティーは日本鎧に刀を装備している。
このパーティーが刀を抜いてきた場合、刀の脅威度と鎧の防御力から、拳銃を発砲することでしか制圧対応は難しい。
そういった事情を考えると、警察官の動きは真っ当どころか、むしろ拳銃を抜いて銃口を突きつけているぐらいしても良いとすら思える。
ともあれ、第三者の介入があったので、俺は被害者面で訴えることにした。
「聞いてくださいよ、お巡りさん。こいつら、俺に情報を吐けって詰め寄ってきたんですよ~。こっちは丸腰だってのに、鎧に日本刀って物々しい格好で言ってくるもんだから、怖くて怖くてー」
俺が棒読み演技全開で語ると、警察官二人は困り顔になってから探索者パーティーの方へ顔を向ける。
「こう言っていますが、本当ですか?」
「えっ、いや、どこでダンジョン銀貨を手に入れたかを、教えてもらおうと――」
その自己弁明を断つように、俺は大声を張り上げる。
「言っておくが! 探索者が窓口に売る物を盗み見るのは、マナー違反なんですけど! そして俺とそいつらは、今日が初対面で、友達でもなんでもないんですけどお!」
俺が自分に正義があることを疑わない論調を披露すると、警察官たちの俺を見る目が面倒くさい相手へのものに変わる。
「えーっと、事情はわかりました。そちらの人たち、ちょっといいでしょうか?」
警察官たちは探索者パーティーを連れて、俺から距離を取った。そして俺に聞こえないように小声で会話を始める。
俺が耳をそばだてて聞いてみると、警察官の声が断片的に聞こえてくる。
その断片を繋ぎ合わせて聞こえない部分を補完すると、『探索者になろうという人は色々な種類の人がいる、だから誰でも彼でも不用意に声をかけるな』って感じのことを語っているようだ。
警察官の言うことは、まさしくその通り。
探索者はモンスターを倒して金を得る商売だ。
その特色から、反社系の武闘派自営業の方々が探索者をやっていたりする。
だから変に声掛けすることは、危険に足を踏み入れる行為であるため、止めた方がいいわけだ。
警察官はそういう事情も話しているのか、探索者パーティーに数分語りかけてから、俺から離すように追い立てた。
探索者パーティーが役所の端へ行ったのを確かめてから、警察官二人が俺に近寄ってきた。
「安心してください。彼らには注意しておきましたので、もう話しかけてくることはないと思います」
「いやあ、助かりましたよ。ホント、探索者ってのは、なにをするのか分からなくて恐いなあ!」
俺が気分良さげに語ると、警察官たちの目が『お前もその探索者だろうが』と言いたげな皮肉が籠ったものになっている。
俺はその目に気付かないふりをしながら、警察官たちへのお願いを口にする。
「この後すぐに、モンスタードロップ品を新たに売る予定なんで、探索者が俺にちょっかい出さないか見張っててくれません?」
「えーと。騒動を避けるためなら」
「助かります。いやあ、持つべきものは、職務に忠実な警察官だなあ!」
あははははっと大声で笑ったところで、俺の整理券番号が呼ばれた。
俺は窓口で売却代金を受け取ると、その金でホームセンターへ直行し、大型の運搬台車とそれに括りつける箱と紐を購入。
箱を取り付けた台車を手にダンジョンに入り、次元収納の中に入っている全てのモンスタードロップ品を台車の箱の中に入れ、再び役所に戻ってきた。
「いやあ。次元収納がダンジョンの外でも使えれば、こんな面倒なことをしなくて良かったんだけどなあ!」
台車の中からドロップ品を出して売却窓口に積み上げる俺の姿を、役所の中に居合わせた探索者たちが物言いたげに見ている。
既存チャートに従っている探索者たちの情報では、次元収納のスキルの容量は、登山リュック一つ分。
しかし俺が窓口に積み上げている物量は、明らかにその容量を越している。
その謎について俺に尋ねたいが、先ほど声をかけた探索者グループの醜態がある。そして警察も面倒事を嫌って、俺に他の探索者を関わらせないよう、目を光らせている。
こうして俺は、他の探索者に煩わされることなく、大量のモンスタードロップ品を売り払うことに成功した。
大量の通常ドロップ品と、確立に比した量のレアドロップ品があったため、売却益は四十万円を越えていた。




