三十話 迷路系通路の先には
モンスターを倒し、曲がり角を進み、モンスターを倒し、分かれ道で直進を選び、モンスターを倒し、また分かれ道で直進する。
その歩みを、スマホに入れたダンジョン用のアプリで、マップ上に書き込んでいく。
そうやって直進し続けた果てに、行き止まりがきた。
なにかしらのギミックがないかを探すが、今回は空振りだった。
「壁のどこにも、隠し部屋がありそうな空間がないな」
壁を叩いていたメイスを引っ込めると、来た道を引き返す。
そして直近の分かれ道で、俺は描き込んだマップに目を落とす。
道程としては直進を選んできたが、何回も曲がり角を進んだため、役所が公開しているマップの通路の端から、だいぶ左下へと進んで来てしまっているようだ。
「それなら、この付近のマップを先に埋めるか」
更に左下へ行くように分かれ道を進む。
再び、モンスターを倒し、曲がり角を進み、分かれ道を選び、モンスターを倒して、進む。
すると、かなり早い段階で、行き止まりになった。不幸なことに、ここにも隠し部屋などの新しい発見はなかった。
再び道を戻り、分かれ道で別方向へ。
やはりマップの端では変化が乏しいようで、またすぐに行き止まり。ここもまた、新発見はない。
「これは、精神的に厳しいな」
徒労感が半端ない。
そして、こんな場所まで探索者が来ない理由を、心底理解する。
「分かれ道をしらみつぶしにするなら、必然的に多くのモンスターと戦わなきゃいけない。すると、モンスタードロップ品で、荷物が圧迫されちゃうわけだ」
第二階層の中域層での嫌なところは、通常ドロップ品は売れないものばかりで、売れるレアドロップ品も扱いが難しかったり重かったりする。
なにせ通常ドロップ品で良い値がつくのは、ミニゴーレムの石板のうち、良い石材で出来ているものだけ。ゴブリンのミサンガやゾンビ犬の腐肉は、一山いくらの捨て値。
レアドロップの、ゾンビ犬の毒牙は別の袋で保管する必要があるし、ミニゴーレムの石板とバックラーとゴブリンの短剣は良い値で売れるが防具と武器なので重たい。
つまり、運が悪ければ延々と低賃金労働することになり、運が良くても重量という苦行を課せられる。
これにマッピングという地味な作業が加わるわけだ。
俺が考え付いたように、この迷路のような通路の場所に、なにかしらのレアアイテムがあると睨んだ人がいても、地味な苦行の連続に心が折れてしまっても不思議じゃない。
そして心折れた人ばかりであろうことは、役所が公開している地図の、探索が途切れた通路が物語っている。
「俺には、レベルアップした次元収納があるから、お金の面だけはクリアしているけどな」
いま倒したばかりのミニゴーレム二匹から得た、二枚の石板を次元収納へ入れる。
ゴブリンのミサンガやゾンビ犬の腐肉も、売っても安値しかつかないが、次元収納で量を集めれば塵積って山となるで小金になる。
レアドロップ品の重量も考えなくていい。
だから運が良くても悪くても、俺には安定した収入が入るってわけだ。
「それに俺の目的は不老長寿の秘薬だ。ここにあるかもしれないんだから、しらみつぶしに探すことは理に適っているはずだ」
俺は来た道を引き返し、分かれ道で未だ調べていない方向へ。無駄足に終わっても、更に戻って、再び別の方向へ。
繰り返し、繰り返し、モンスターを倒しながら、マップを埋めていく。
精神と体に疲れを感じたら、治癒方術のリフレッシュで回復し、次元収納から軽食を出して腹ごなしをしてから、さらにマップ埋めを続ける。
そうやって、何度となく無意味な行き止まりに辿り続ける。
なかなかに心折れる作業が連続する中で、ようやく行動が報われる時が現れた。
「おおっ! あれは、宝箱!?」
四角い箱にドーム状の覆いがついた、まさに宝箱といった見た目のものが、通路の行き止まりに置いてあった。
喜び勇んで、その覆いを開ける――なんて真似はしない。
第一階層にあった隠し部屋にも罠があったんだ。宝箱にも罠があると考えて行動した方がいい。
しかし俺には、罠の有る無しを見抜ける目はない。
ならどうするかというと、出来るだけ安全に配慮した開け方をするだけ。
もしも宝箱に罠があるのなら、覆いを開ける人に当たるよう、宝箱の正面近くに被害がでるような罠にしているはずだ。
それならと、俺はメイスの柄の端を持つと、宝箱に大して斜めの位置に立ち、覆いの角にメイスの先端を引っかける。そして力を込めて、覆いを開けた。
幸いにして、俺の用心は不用に終わったようで、宝箱に罠はなかった。
「さてさて、中身はっと」
宝箱の中を覗いてみると、親指大の魔石一つと、見たことのない柄の貨幣が入っていた。
魔石は即座にメイスの強化に使用して、次に貨幣を手に取ってみた。
「大樹の柄と、人の顔の柄。材質は、色味からすると、銀かな?」
五百円玉大のくすんだ銀色の貨幣が、宝箱の中に十枚。
ここまで頑張ってマップを埋めて、魔石一つと銀貨が十枚か。
「いやまあ、どちらも売れば高い値段がつくんだろうけどさ……」
同じ苦労をするのなら、モンスターを倒してドロップ品を得た方が、労働対収入の面で優秀のような気がする。
これがせめて、なんらかの水薬だったり魔具だったりしたら、喜びようもあったんだけどなあ。
「……よしっ。次だ次! まだまだ未探索通路はあるんだ。そっちには、もっと良い宝箱があるかもしれない」
俺は萎えかけた心に気合を入れ直して、迷路のような通路の道を解明する作業に戻ることにした。




