復活呪術師と疑似魔法剣
自宅に戻って家族と寛いでいると教会から手紙が届いた。どうやら不死者を撃退した事で教会からお礼が言いたいらしい。ついでに聖人認定するそうだ。お断りですね。俺はただの傭兵であって聖人ではない。
尤もらしい事を書いて如何に俺が聖なる所業をしたかを言及しているが、俺がやったのは不死者特攻の剣を振っただけだ。動機は家族を守る為だし、間違っても万人から崇められるような人間ではない。
丁重にお断りの返事を書いて教会に出してきた。俺が笑顔で渡したので、受け取った神官のオッサンは俺が話を受けるだろうと勘違いをしたのだろう。ニコニコ顔でお礼を言っていた。後日、オッサンは教会の上層部から咎められるかもしれないが、俺は自由を愛する傭兵なので聖人認定するならば結果的に聖域を作り出した神官のオッサンにしてもらいたいものだ。
◇◇
聖人認定をスルーしてから三か月後、新しい年が始まった日にそれが起きた。
「新年もよろしく頼むぜ英雄さん!」
「またズバッと暴れる姿を拝みたいねぇ」
「不死殺しがいりゃあ、この街も安心だぜ!」
三か月前からお決まりの声が掛かりつつ新年の挨拶巡りが終わった。こんな言い方もなんだが、アオンボの事件が尾を引くなぁ。ご近所さんが無くなったりと一時期は街中が陰鬱になったものだが、教会と貴族が結託して俺を英雄扱いしだしてからは、街中の雰囲気がずっとこの調子だ。まぁ、暗く沈んでいるよりはマシかもな。
そんな新年の浮かれ気分に町中が騒ぎ立てている中、町はずれの教会が高らかに爆発して街中に轟音を轟かせた。音を全身で聞いた俺たちは身を屈めて同じ方向を見る。何と空には立派なキノコ雲が出来てるじゃねえか。
何が起きたと周囲が騒ぐ中、俺は妙な違和感を覚えた。教会で爆発。魔術の類。ここ最近で教会にあった事件と言えば何か。運び込まれた魔術師の遺体。そこまで連想すると、ずっと前に読んだ古書を思い出した。死後に発動する呪術が存在するらしい、と。
思いつくのと同時に周囲に俺は叫んだ。
「全員家に戻れ!あの教会には呪術師の死体が保管してあったはずだ!不死者が現れるかもしれねえ!全員家に戻れ!」
腹に力を入れた声は良く通り、俺の言葉を聞いた民衆は我先にと家に走った。俺も家々の屋根を跳ねて自宅へ急ぎ、家族の元へ戻ると装備を身に着ける。六歳になった三人兄弟は既に腰に短剣を身に着けさせている。
「教会に行ってくる、何か良くない事が起きてるかもしれん。子供たちを連れて地下室に隠れていろ」
「「「はい」」」
三人の妻たちが返事をするや否や子供達を抱きかかえ、上の子供達を走らせる。俺も地下室へ急ぎ、外から鍵を掛けて出発した。胸騒ぎがする。
先刻から感じている魔境の感覚は、どう考えても呪術師の影響だろう。不死者が現れた時の日じゃないくらいの強烈な魔力を感じていた。併せて強烈な冷気が首筋を撫でる感覚。これは確実に不死者だろう。
家々の屋根を飛び跳ねて移動すると、爆発で木っ端みじんに瓦礫の平地となった教会跡に一人の化け物が浮かんでいた。立っているのではない。宙に浮いていたのだ。その顔は若い女で身に纏うは黒い装束。死者を葬礼するときに着せる衣服だ。シスターが身に纏う衣服と酷似したそれは、ローブのようにヒラヒラと宙を舞う。女は若く、青い肌をしていた。
「死んで若返りやがったか」
「モダロ、ハカ、ハカルカッサ!」
「悪いがアオンボの言葉は解らんのでな!」
止めを刺した時と同様に魔法剣を剣に纏うと、強大な魔力が周囲を包んだ。どうやら俺の魔法剣を自分の魔力で押し消したいらしい。それなら、その魔力すら利用してやるぜ。
俺が疑似魔法剣と呼んでいるこの現象は、あくまで『天恵:全装備』の機能を応用しているに過ぎない。全装備に魔力が蓄えられる現象を利用して、武器防具の進化や各種装備の能力を発揮しているに過ぎないからだ。
となれば、やる事は一つ。全装備の機能の一つである【周囲の魔力を吸収する】という機能を全開にしてやればいい。その吸い取った魔力で疑似魔法剣を最大限活用してやるぜ。
「ぬおおおおおおおおおお!!!!吸いつくしてやったぜ!いくぜオラァン!」
「ハッ!?」
巨大になった白い炎の剣が奴の体を焼き切る。そのまま魔力の剣が奴の体に突き刺さったまま、魔法剣の形状を変化させるように強く願った。その形状を棘が生えるように。奴の体内で棘が拡がるように。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
白い炎が奴の目鼻口耳から飛び出して焼き尽くす。たまらず奴は両手で魔法剣を打ち砕き、凄まじい魔力の波を手元に集め、黒い光の玉を作り始めた。それなんて最終奥義だい?
「ジリエエエエエエエ!!!」
死ねとでも叫んでいるのだろうか、両手に集めた黒い玉が俺に飛んでくる。これは聖属性の出番だろう。頼みます、神聖銀の両手剣様!
「ぐぎぎぎぎ」
天恵の使い過ぎなのかさっきから頭が痛いが、死ぬよりはマシだ。俺ってば何でこんなのと戦ってるんだろうか。いや、集中、集中。聖なる光よ、俺の剣に宿れ!そして闇属性を打ち払え!ついでに呪術も弾き返してやれ!
「ふんっぬぅぁ!」
黑い光を一刀両断すると、俺の両脇に黒い光が弾けて通り過ぎていった。後方の家々に被害が無かったと思いたい。一瞬一瞬の戦いになっている以上、それを確認する余裕は既に無いんだよ。
「アラジャ、マヌアクアツア!ジリエエエ!」
「何言ってんのか、分かんねえよ!」
不死者は両手に黒い光を集め、グローブのような形にするとそれで俺ん剣を弾こうと必死に藻掻いている。ところがどっこい、こちとら十年以上は毎日剣の鍛錬を繰り返しているんだぜ。聖属性の魔法剣+剣使いさながらの華麗なる剣捌きが、付け焼刃のダンスで防げる訳なかろうが!
「もらったぁ!」
「イギアアアアアアアア!」
片腕を斬り飛ばし、もう片方も斬り飛ばす。一呼吸でそれを済ますと、八相に構えた剣に再び強烈な白い光を灯らせた。トドメだ。
泣きそうになっている顔の不死者の脳天から股下まで一閃した。綺麗に二つに切り分けられた不死者は全身の穴という穴から白い光を放ち、次第に灰になって消えていった。灰は塵となって茜色の空に散っていく。どうやら日が暮れる前に決着できたらしい。
戦闘状態を解除して周囲に気を配ると、どうやら観戦者が多数居たらしい。振り返ると教会の生き残りと街の住民が呆けた顔でこちらを眺めていた。
ああ、最後の黑い玉が通り過ぎていった被害もあったらしい。家々が遠くまで崩れているのが見える。十数件は被害に遭っただろう。酷い事をしやがる。
あの黑い光で殺された結果、不死者になったりしないよな。そこのところを確認してから帰るか。
「おーい、神官のオッサン!アンタも生きてたのか!ちょっと手伝ってくれ!」
先に一度、家に帰るかな。家族を地下室に押し込めたままだ。前の事があったから多少は過ごしやすいように改善したが、以前から武器庫として使っているから狭いし生活するような場所じゃないのは変わらない。早めに用事を済まそう。




