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王子とデーモン

 この街に居着いて何年だ…十年目か。随分と長い事居るよな。俺も家庭を持って齢27だ。上の子の三人は既に王都の学校に入っている。俺というエリート教育者が居たせいか、随分と頭でっかちになっているらしい。少しは剣も振らせた方が良いだろうか。

 それは兎も角、一連の不死者事件があってから俺は地方で不死者の情報が出ると、王都だろうが反対の西部領土だろうが、竜籠と呼ばれる飛竜便で運ばれるようになってしまった。時速数百キロの超特急便である。俺は平気なのだが、飛竜の首にまたがる御者が毎度辛そうにしているのが憐れ味を誘う。

 三人の妻たちは昨年も子を産み俺の子は既に十二人ですが何か。こうなってくると広い邸宅を購入して良かったと心底思うわ。そんな子供達を養うために日々魔境に潜るのですよ。

 子供達の中には傭兵になりたいと剣の天恵を得た奴も居る。そんな子のために全装備の進化機能を使って装備品を用意してやりたいが、折角、剣に関する天恵を得たのだから騎士を目指してほしいものだ。アレってなりたくてなれる者じゃないからね。いや、強制する訳じゃないが、勿体ないだろう。嫌?あ、そう。

 因みにその子は女の子である。女で傭兵かぁ。まぁ、良く居るけどさ。女の傭兵ってあんまり良い印象ないんだよなぁ。ガサツで汚くて股も頭も緩いし、あんな風になって欲しくないんだよなぁ。

 一人で魔境に潜り、一人で報酬を得る。俺が金を稼げているのはそれが最大の理由だ。次点で全装備のお陰だな。他の理由だと前世の記憶とか魔導具の有無とかその辺だろう。うちの子は同じようには出来ないだろうから、信頼できる仲間が居てくれれば良いなぁ。

 そんな事を考えながら傭兵組合に換金に向かうと、どうやら竜籠の御者が来ていたようだ。俺を見て疲れた顔の中に笑顔を見せた。


「おお、聖戦士殿!!また、お願いします!」

「やぁ、またかい?」

「また、なのですよ」


 ここ数年は繰り返した遣り取りだ。やっぱり聖戦士呼ばわりは慣れないなぁ。



 ◇◇



 魔境採取品の換金中に話を聞いてみると、どうやら次はデーモンが相手らしい。ただ、今のところ人に化けているらしく、確実にデーモンなのかと言えばそうでもないらしい。御者さんが小声になって話した情報に、思わず俺は眉をひそめた。


「はぁ?王子がデーモン?冗談でしょ」

「声が大きいですって!かなり確度の高い情報です。第一王子殿下は外征した際に亡くなられ、今はデーモンがその姿を取っていると思われるのです」

「そんな、王子が居る場所にどうやって近付けと?」

「貴方の叙勲を行おうという話になりました。その場に第一王子殿下も居合わせます」

「フル装備で王様の前には出られないだろ。無茶苦茶だって」

「大丈夫です。これは国王陛下直々の依頼ですので。というかこれまでの依頼は全て国王陛下の依頼なんですけどね…」


 知らんがな。俺は指名依頼を受けたから傭兵として受けただけだ。こっちの自由という領分を侵さない限りは依頼を受けるという条件のもと、これまでの無茶苦茶な依頼を受けてきていたのだ。国王陛下の依頼だろうと出来ない事は出来ないんだぜ。

 そんな事より、デーモンか。人に化けられるデーモンってヤバくね?俺に勝てるだろうか。そもそもデーモンって魔力がデカいだけで不死者の要素は薄いんだよね。だから聖属性で叩き切っても特攻になるかというとそうでもない。完全にゴリ押し戦法頼りになるのだ。しいて言うなら魔法が効きやすいってところか。

 デーモンは要するに魔法生命体と言われる化け物で、彼らは肉体が無いと言われている。だから第一王子の体にデーモンが入り込んでいるのだろうと目されているのだろうし、そのデーモンを王子の体ごと叩き切って良いものかどうか……。これは終わった後で断罪される案件じゃなかろうか。あとから何とでも言えるよね。


「お断りだな。例え国王が許可した体であっても、他の貴族が俺を王子殺しにするのを止めてくれたりはしないだろ。終わった後で方々の貴族が罪人呼ばわりしてくるんだろう。貴族ってのはそんなもんだ。第一、俺はただの傭兵だぜ。貴族同士の争いにデーモンを使ってるだけだろ。そんなもんに巻き込まないでほしいぜ」

「ぐっ…確かにそうかもしれませんが、このままだとデーモンが国王になりかねないんですよ」

「そこはアンタら貴族の戦場だろう。畑違いだって言ってるのさ。というか俺以外にもデーモン退治できる神官とかいるでしょうが、そっちを頼れよなぁ」

「彼らは既に断りました。故に、聖戦士殿にお願いしているのです」

「俺は聖者でも聖戦士でもない。ただの傭兵だ。アンタら貴族も条件を煮詰めれば俺を動かせることは知ってる筈だ。その上で聞くぜ。どうするんだ?」

「うっ………」


 この御者さんも実は只の一般人ではない。男爵位を戴いている歴史ある家柄の貴族だ。代々で飛竜を飼育し、情報伝達や配達などを一家で担っている一族なのだ。それ以外にも飛竜の育成や販売などを担い、何で男爵なのか不思議なくらいの家柄なのだが、何故か俺の御者をやっている。多分、国王命令だろうけどさ。


「条件は家族持ちの傭兵を動かすだけの内容だ。貴族のゴタゴタに関わる以上は、政治的な被害を受けないよう、俺の家族を守る事。それからこれだけヤバい案件を俺にやらせるってんだから相応の報酬。最後に王子がデーモンだという確信と周知を終えてからの作戦実行。これだけの条件をクリアできるのかい」

「王家ならば出来ます」

「そうかい。それじゃまずはその確約を取って来てからまた依頼しに来てくれ。あーばよ」

「聖戦士殿っ」


 追い縋る御者を振り払い、俺は家路についた。



 ◇◇



 三日後、俺の提示した条件を呑んでくれるというので指名依頼を受ける事になった。家族の待つ家には騎士の護衛が着いて居る。この街の騎士だから見知った顔なんだけどな。三人の騎士が家に来たが全員、女性騎士なのは驚いた。いや、知ってる顔だけどさ。妻子を守るのと不貞を疑われないようにするために女性騎士だけで護衛をするのだそうだ。随分と気を遣ってくれるのは、それほどまでにこの依頼を受けてもらいたいという意志の裏返しか。

 御者の青い顔を見ながら竜籠から降りると、到着した王都の着陸地点には知らない女騎士が居た。随分と格式高い騎士礼装を纏っている。団長格だな。似たようなのを戦地で見た覚えがある。


「よく来た。お前が傭兵のダグレオで良いな。着いて来い」

「少々お待ちを、サンドリーヌ騎士団長閣下。陛下の元にお連れするのが私の任務ですので、私も同行させていただきますぞ」


 蒼い顔をしつつも凛とした態度で御者のオッサンが宣言すると、一瞬だが女騎士サンドリーヌが御者のオッサンを睨みつけた。どうやら違う場所に連れて行かれそうになったらしいな。それとも、陛下の命令だとか言って軟禁若しくは監禁されそうになったか。騎士側からすれば王子の案件で俺が横やりを出しているかのようにも見えるだろうからな。気分は良くないだろうよ。

 いや、この指名依頼に条件を付けたのが気に食わなかったかな。たかが傭兵が生意気な~ってな。


「ドラコーン男爵。近衛騎士団を預かる私としては、身分不確かな輩を検めもせずに陛下の御前に出すわけにはいかぬ。取り調べをした上でそちらに引き渡そう。それで良いな」

「騎士団長閣下。陛下の直臣である私が、陛下の勅命を受けて彼の身柄を保証していると事前に申し伝えたはずです。それも直接、騎士団長閣下に。それを疑うと言う事は陛下を疑うと言う事で宜しいか。その旨を陛下にお伝えさせていただく」

「…そこまで言うならば私も陛下の御前まで同行させてもらおう。人心不確かな輩を連れて行くのだ。それくらいは当然であろう」

「どうぞご自由にされてください」


 この騎士団長は恐らく剣術系の天恵じゃないな。独特な魔力の動きからして、俺と同じように特殊な天恵を授かっているのだろう。ヒト一人が纏う魔力量じゃねえな。

 先頭に御者のオッサン、俺、女騎士団長が歩いて続く。向かう先は謁見の間だそうだ。近い場所にある待合室に案内されると、部屋の中を眺めた。どうにも魔力が濃いな。何らかの魔術が常に動いているようだ。王城の、国王陛下が近くにいる場所なんだから防御系の魔術が仕込んであっても当然か。

 そう考えると俺って、呪術系には強いけど魔術系の攻撃は搦め手に弱いんだな。単純な攻撃魔術だったら属性耐性で防げるが、動きを遅くしたり、木の根で縛られたりすると自力で対応するしかなくなる。デーモン対策として何らかの手段を考えておいた方が良さそうだ。そうだ、折角王都に来てるんだし、スラムの魔導具屋にでも行ってみるか。

 ボンヤリと考えていると静まった部屋の中にノックオンが三度続いた。


「陛下の御準備が出来ましたので謁見の間でお待ちください」


 言われるがままに立ち上がり、御者のオッサンの後に続くと巨人が使いそうな大扉が観音開きで開く。赤いじゅうたんが白い部屋に映えるな。柱には金銀の細工があしらわれていて美しい。

 目の前の玉座も黒い台座に白銀の椅子。金の細工で台座も椅子も煌びやかだが、椅子の背後には竜を模した彫刻が謁見するものを睨みつける様に置かれていた。圧迫感ヤバいな。圧迫面接だよこれ。故郷の国はブラック企業だったのか。

 御者のオッサンに倣い膝をつき首を垂れる。後ろの女騎士も跪いたようだ。


「面を上げよ」


 御者のオッサンが顔を上げてから俺も上げると、少し高い位置に座る王様がジッと俺を見た。台座の下、俺の右手側には王子らしき若い男性が一人、続いて王女らしき若い女性と幼い男の子が二人、手前側に続いて立っている。

 俺の左手側には陛下の直臣だろうか、黒い髭のオッサンと、頭つるつるなマッチョが軍服を着て立っている。ありゃ、噂の黒ひげ宰相と国軍の大将軍だな。手前側に北の大地で見た覚えのある味方の将軍が数名立っていた。

 さて、標的たり得る王子はというと…確かに人間の気配じゃねえな。闇属性が強すぎる。だが、それだけでデーモンか不死者かと問われればNOと答えるだろう。呪術師の時のような背中が凍るような気配じゃない。周囲の魔力濃度も特段に高くなってる訳じゃない。あくまで主導権は王子自信が掴んでいるのだろうか。デーモンに意識を乗っ取られたわけじゃないのかな。


「其の方が聖戦士ダグレオか」

「いいえ、国王様。私はただの傭兵ダグレオです」


 御者のオッサンが答える前に俺が答えた。オッサンが俺に振り返るが、ここで頷いたら一生、聖戦士のままだ。それはお断りだね。


「そうか、ただの傭兵か。では、ただの傭兵ダグレオに問う。デーモンは殺せるか」

「相手によるとしか言えません。不死者殺しは得意としますが、同じ瘴気を纏うデーモンを同じ要領で殺せるとは限りません」

「それであの条件を出したのか」

「あれは面倒事を避けるための条件付けに過ぎません。デーモンを殺せるかどうかとは関係ありません」

「で、あるか。ならば今、余の前でデーモンかどうかを見極めてみせよ。出来ぬのならば更なる条件を出すが良い」


 そう来たか。デーモンは精神にまつわる技法が独特だと聞いた。であるならば、精神異常無効のサークレットを全装備内に持つ俺に通用するかどうか試すか。麻痺と毒攻撃も無効だし、呪いは跳ね返せる。改めて考えると俺って化け物だな。


「それでは彼の方の手を握らせて頂いても宜しいでしょうか」

「許可しよう。フューリアス。ダグレオの前に出よ」

「………はっ」


 苦虫を噛み潰したような、とはこういう顔を言うんだろうな。苦み走った顔で第一王子は俺の前に立つと、全身の魔力が強く、そして早く流動し始める。一瞬だけ構えたが、そのまま彼の前に立ち上がって進み出た。

 後ろの方で女騎士団長が立ち上がった音がした。ガントレットを付けた手を剣に添えた音がした。構わず前に進み、第一王子に差し伸べるべく動かした右手を、俺の頭の横に置いて切り払われたであろう剣を掴んだ。その剣は後方から攻撃された剣だ。俺の膂力で掴まれたまま剣は空中で静止していた、恐らく女騎士も。


「さて陛下、これはどういう事でしょうか。私を殺すべく呼び出したというのであれば事情が変わってくるのですが、ご返答願えますか」

「待て。サンドリーヌ!!何の真似だ!!!」

「い、いえ、これは!私はっ!」


 本気で困惑し、本気で動揺したと思しき声がサンドリーヌ騎士団長から放たれる。目の前の第一王子殿下の眼は俺ではなく後方を睨んでいた。なるほど、操ったか。

 剣から手を離すと同時に素早く前に出た。開いていた左手を王子の首に伸ばすと、王子は上体をのけぞらせつつ後ろに飛ぶ、馬鹿めそれはフェイントだ。

 足運びを素早く動かして陛下を背にしつつ王子の斜め後ろに移動する。ちょっとだけ足元の赤いじゅうたんが焦げた気がするけど仕方ない。必要経費だと思ってくれ。

 姿が消えたと錯覚した王子は俺の居ない方向に首を回して後ろを見ようとするが、その動きに合わせて王子の死角に移動しつつ、足を引っ掛けて転ばせ、その腕を捻り上げた。そして発動するのは聖属性攻撃だ。

 神聖金の両手剣の効果を俺の両手に発動すると、途端に肉が焼ける匂いがした。王子の首と、掴んだ右手首の焦げる匂いだ。


「がぁああああああああああああああああああ!」

「悪いが、オイタをしたからには動きを制限させてもらうぜ!デーモンさんよ!」


 完全同意の魔像人形の効果を発動させ、デーモンが発動するであろう闇属性魔法を闇属性で散らす。同じ属性の魔力は魔術混濁の効果が発揮されて、魔術をキャンセルする効果があるって実証されてんだからな。


「ぐっぬぅぅ!ふぅぅぅ!」

「お得意の闇魔法もこれで発動したって無効化できるってなもんだぜ。諦めな」

「ちぃっ!」


 メキゴキと第一王子は関節を鳴らしながら俺のロックから抜け出そうと必死に暴れる。その度に肩の骨が外れ、腕の骨が外れ、見るも無残な姿へと変貌していく。それを見ていた王女殿下や幼い王子たちは口を押えて悲鳴を上げる。

 このままだと肉体が持たないかもしれない。


「てめぇ、どうして王子の体に入ってやがる!」

「カカッ、それが、契約、だから、だ!!」

「ああ、そうかい!それじゃその契約は反故だな!」


 全力で聖属性攻撃を発動すると肉の焼ける匂いが謁見の間に拡がり、第一王子の声とは思えない程の絶叫が響く。次第にその体から瘴気が漏れ出し、周囲は黒い霧で覆われ始めた。


「避難を!抜け出したデーモンが他の誰かに取り付いたら面倒だ!!」

「わかった、聖戦士殿はそのままデーモンを頼む!」

「任せろ、御者のオッサン!」

「御者って!」


 だってアンタ飛竜の御者じゃん。って、そんな事よりも結界魔道具を使ってみるか。魔力の膜が黒い霧を閉じ込められるかも知れねえ。腰のポシェットに手を突っ込んで魔導具を即時発動させると、俺の腰から球状の結界が拡がっていく。ある程度まで広がると強力な膜となって周囲を包み込んだ。

 第一王子殿下から抜けきった黒い霧は、膜の内側を流れるように流動している。まるで出口を探して彷徨う幽霊のようだ。それを諦めたのか、俺から少し離れた場所に落ち着くと、どうやら観念したらしい。デーモンフォグとでもいうべき相手は次第に人の形を成していった。

 黒い霧そのままに肌は黒く、赤い眼光。そして赤く捩じれた角が二本だけ側頭部から生えている。歯も爪も赤く、体の局部は紫色の鱗で覆われていた。背中には飛竜のような形をした紫の羽が生えている。

 たしか、レッサーデーモンとか言う奴だ。かなり前に読ませてもらった教会の聖書に書いてあった姿そのままだ。こんなのに取り付かれてよく平気だったな、王子さんよ。

 ゆっくりと剣を抜いて構えると、疑似魔法剣を用意した。もちろん聖属性だ。白く輝く剣を動かすと、ブゥゥゥンと振動音を立てながら周囲の黑い霧の残滓を消し飛ばす。赤くなくて良かったぜ、こー・ほー。

 一歩斜め前に動くと、相手は斜め後ろに下がる。それを続けていると、次第に俺たちは円を描くように間合いを計り出した。その縁が次第次第に小さくなっていくと、伸ばした爪でレッサーデーモンが飛び掛かって来た。

 だが遅い。全力で踏み込み、脳天から股下まで一閃すると動きを止めた俺の足は二つに分かれたレッサーデーモンの後方に辿り着いていた。抜き胴ならぬ抜き面かな。

 振り返ると相手は二つに分かれて塵に還る所だった。一体どうして王子に憑りついていたのか知らないが、詳しい事情を本人から聞ければ良いな。もしかしたら他にもいるかもしれないしな。


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