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アオンボと不死者

 ケルピーの素材というのは良い金になる。強靭な鱗を持つ革は防具として優秀だし、眼球や心臓や魔力袋などは薬品の素材として高級品だ。肉も美味しく食べられるし、食べると魔力回復効果が期待されている。魔術師垂涎の魔獣なのだ。

 俺は革だけ確保して防具を作った。これで水耐性も得られるだろうか。水属性の武器も作れればいいなぁ。そうだ、属性武器を増やすことを考えよう。今の俺ならケルピークラスの強敵にも戦えるようになるかもしれない。色々と対策を考えないといけないし、強敵の居場所も幾つかピックアップして旅に出る事も考えた方が良いな。その場合は、家族はどうしようかな。置いて行くのも悪いしな。まぁ、急ぎの話じゃないし、子供が大きくなって家族が落ち着いてからまた考えるか。

 ケルピーの肉を食卓で囲みながら、家族の顔を見つつ俺は考えるのであった。



 ◇◇



 夏の暑い間だけケルピーを狩り、その他の季節は新たな魔境へと挑戦する。そんなサイクルを更に三年程繰り返していた頃だった。傭兵組合に一つの依頼が持ち込まれた。アオンボの本拠地を発見したから傭兵の参戦を願うというものだった。俺はその依頼が書かれた木板が掲示板にぶら下がっているのを見て参戦の是非を考えていた。


「よぉ、ダグレオ。お前も行くのか」

「いや、今回は止めておくよ。虐殺したいわけじゃないからな。それに嫌な予感もする」

「おいおい、ビビったのか。森の木々ごとアオンボ共を切り殺した化け物がビビってんじゃねぇよ」

「言っただろ、虐殺したいわけじゃないってな。俺は戦士は斬るが、それ以外の人間は斬らないんだよ」

「ちっ、じゃあ俺の英雄譚を聞いて後悔するんじゃねえぞ」

「へーへー」


 傭兵の知り合いが去っていくと俺も俺もと他の連中が続いた。どうも、何かしらの見落としがある気がしてならない。アオンボは呪術を使うと聞いていたのに、俺がこれまで倒してきたのは槍使いばかりだった。本当に呪術師がいるのか、もしくは温存していたのか、そもそもこれまでの戦いが呪術師の仕込みなのか。ああ、どうも嫌な予感が消えてくれない。腹の底から不安感が込み上げてくるような感じだ。

 それから一週間後、子供達を抱えながら討伐隊を見送った。七人に増えた子供は我が家を所狭しと駆けまわっている。上の三人の子供は既に天恵を貰っている。どの子も傭兵業とは関りのない天恵で安心したと同時に、少しだけ寂しい気もした。まぁ、殺し合いの中で生きるよりはマシかと安堵した事にしておこう。

 アオンボ共と殺し合うのは、家族の中では俺だけで良い。



 ◇◇



 アオンボ討伐隊が出発して三日後、不意にそれは来た。家の中に居るというのに魔境に足を踏み入れたかのような感覚。魔力が充足する感覚だ。

 子供達の相手をしている最中だが、急いで自室へと戻り装備を整えた。素早く妻たちに指示を出して戸締りを徹底させた。魔導具を取り出して魔よけの結界を張り、家族を底の内側へと非難させる。戸惑う家族を尻目に玄関から家の外を覗くと………不死者が街の中を歩いていた。

 くそっ、やられた!アオンボの呪術師だ。しかも歩いているのは出発した筈の討伐隊だ。騎士も傭兵も知った顔の死体が歩いてやがる。


「全員、結界の魔導具を持ったまま地下室へ移動しろ。俺が行くまで何があっても地下室の扉を開けるな。良いな、絶対だぞ」


 困惑する家族を地下室に押し込めると、外から鍵を掛けて鉄扉を閉めた。良し、あとは外に居る不死者を片付けるだけだ。勇み足で俺は地下室の階段を登った。

 外に出ると逃げ惑う人々と、殺された人間が起き上がるのが見えた。どうやら死者は例外なく不死の呪いを受けて復活するらしいな。


「おぉ、ぅおぉ、あっぅぁ」


 呻き声を上げながら何かを訴えているかのようにも見える不死者を切り伏せ、その死体から白い靄が剥がれていくのを確認した。どうやら浄化できたらしいな。最初の不死者戦が知合いとか勘弁してくれよ。ご近所さんだぞ、チクショウ!

 逃げ惑う人々を交わしながら不死者を斬り続ける。探しては斬り、探しては斬る。それを繰り返していると、やがて逃げ惑う人の姿も見えなくなってきた。遠くでは剣戟の音が聞こえてくる。どうやら生き残った傭兵か騎士が不死者と剣を交わしているらしい。加勢しに行くか。



 ◇◇



 一時間程、街中をパトロールして不死者を倒し続けると標的は見当たらなくなった。どうやら街に入り込んだ不死者は全員斃したらしい。街の門は閉ざさせたので一件落着と言ったところか。それ以上にヤバい事態になってるみたいだけどな。

 俺は街の東が側にある外門に近付いて騎士に声を掛けた。


「そこの騎士さん!外の様子を教えてくれ!」

「お、お前はダグレオか。無事だったようだな。ふぅ。お前が不死者になってたら街の終わりだったぜ」

「それより、門の外はどうなってる?討伐隊がそっくりそのまま不死者化してるんだ。アオンボ共の積もり積もった死体が総出で襲い掛かってきても不思議じゃないぜ」

「ああ、それだけならまだしも、魔境の魔獣が死体になって襲ってきたら流石に守り切れないかもしれん。いや、待てよ、それが目的で…くそっ、最悪じゃないか」

「詳しい状況は掴めてないって事でいいか」

「ああ、伝令すらも姿を消しちまったから、どうなってるのやら分からないぜ」

「ちょっと外を見て来るから、絶対に門を開けるなよ」

「ああ、っておい!?」


 ある程度の力を込めてジャンプすると眼下には門に押し寄せるアオンボの骨、骨、骨。辛うじて腰蓑がついて居るからアオンボの不死者だと判るが、体の肉は腐ったのか食われたのか、全くなくなっていた。目の奥は赤い光が灯って不気味に輝いている。スケルトンってやつだな。

 着地と同時に走り出し、次々に襲い掛かるスケルトンを切り伏せていった。っていうかスケルトンって走るんだな!?ちょっと予想外だぞ。フラフラと歩いて動きが遅いのかと思ったら、なかなか機敏に動きやがる。これも呪術の力なのかねぇ。

 大抵のスケルトンは頭を斬ると白い靄を出しながら崩れていく。どうやら頭が弱点らしいな。脳みそでも入ってるのかと思ったが、殆どのスケルトンは頭空っぽだった。あとは半端にゾンビ化しているのは最近死んだ個体だろうな。臭い。

 あらかた片付いたので俺は上を見上げて観戦している騎士を見た。


「おぉい!他の門の状況はどうだ!」

「…はっ、そ、そうだな!他の門の状況を確認してくる!お、おい。お前ちょっと走って聞いて―――」


 どうやら状況把握は未だ出来て良い無いらしい。情報共有があるまで東門の周囲だけでも掃除しておくとしよう。



 ◇◇



 終わらねぇ。東門の周囲には森から出て来たスケルトンが大挙して押し寄せてきている。それらを一体一体片付けていると、頭上から声が聞こえた。


「おーい、ダグレオ!他の門は異常なしだ!不死者に襲われてるのは東門だけだ!」

「そうか!出来れば神官を呼んで来てくれるか!俺一人じゃ間に合わない!」

「今、呼んでるから耐えてくれ!」

「急いでな!」


 剣を振りながら騎士を見もせずに応対すると、門の上からの気配が増えている事に気付いた。アレだけいるのに神官は居ないのかよ。いや、神官が来たとして浄化できる奴なのかどうか分からないな。くっそー、俺一人で対処しない可能性が出て来たぞ。

 きっと今の俺は苦い顔をしている事だろう。スケルトンは一刀のもとに倒せるが、如何せん数が多い。どれだけ大量のアオンボを殺してきたのか、その報いを受けているかのようだ。こうなるように呪術師は仕組んできたのだろうけれど、本当の意味で仲間の命を捧げて俺達を殺しに来ているんだな。

 というか、こんな凄まじい効果を発揮するにはどれだけ強力な呪いが必要なのか。もしかしたら発動した呪術師は死んでるんじゃないかとすら思うよ。呪いについて少しだけ調べた事があるが、それなりにリスキーな部類に入る。呪術によっては使い手の命を捧げて効果を発揮するなんてものもあるくらいで、魔術全般から見ても異端なんだよな。

 そういう類の呪いは大本である発動者を浄化しないといけない場合が多く、俺が此処で剣を振っていても終わりが見えない可能性がある。そう考えると気が遠くなりそうだ。


「ダグレオー!神官が来たぞ!」

「お祓いを頼むぜ!出来れば纏めてな!」

「そ、そんな、こんな大量の呪いなんて…」

「良いから早くしろよ!」

「は、はいぃ」


 上を見上げると気の弱そうな神官のオッサンが祈りを捧げていた。はてさて、どれだけ効果がある事やら。



 ◇◇



 結論から言うと効果覿面だった。ただ、大量の呪いを払った神官のオッサンはぐったりして気絶しちまった。どれくらい効果覿面かというと、俺が東門に居る限り、神銀の効果と相乗効果を発揮して聖域を作り出したくらいだ。今は其の聖域で飯を食らってる最中である。

 スケルトンは現在も東門に近付いているのだが、聖域に入った瞬間にボロボロに崩れ去っていく。それを眺めて食べる飯の何と不味い事か。グロ画像見ながら空飯は美味いか?不味いに決まってんだろ!


「ふぅ~、それじゃ、体力も戻ったし、俺はそろそろ呪いの元凶の所に行って来るぜ」

「何だそれは、呪術師か?」

「ああ、今までも不思議だったんだが、アオンボには呪術師が出てきていなかった。この様子だと俺たちが殺したアオンボは、元々スケルトンにするべく送り出されたんだろうぜ。だから送り出した呪術師が居るであろう、奴らの本拠地に行ってくる。そこに呪術師本人か、もしくは不死者と化した元呪術師がいるだろうぜ」

「そういう事か。それならば俺達も行くぞ。傭兵におんぶにだっこじゃ、騎士の名が廃るってもんだ」

「…まぁ、好きにしな」


 神官のオッサンが目を覚ますのを待って出発する事になった。連れだって移動する騎士は十二名。他は街の防衛に当たるそうだ。ゲッソリした神官のオッサンの見送りを背に、俺たちは森の中にあるというアオンボの本拠地へと歩を進めた。


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