第七話
∞迫りくる魔物∞
一方その頃、司は響と闘っていた。
相手から繰り出される炎を纏ったパンチを防壁を作ることでなんとか軽減し、反撃のチャンスを伺う。
「ふっ、腕は落ちてないようだな司」
不敵な笑みを浮かべ手元の機械を操作する相手はとても楽しそうだった。
「……まあな」
そんな相手――響が繰り出した波動弾をかわし、司は渾身の一撃を拳に込め電気を纏ったパンチを喰らわせた。
そして二人が見つめる先にはファンファーレとともに、デカデカとKOの文字が刻まれた。
「あちゃ、負けたー」
「ギリギリだったな」
司達は特に不穏な気配も何もなく、あっさりと響の家にたどり着いたのだった。そのまま戸締りや元栓の確認をし、泊りに必要そうな物をいくつか鞄に詰めた。
司は懐かしいと思いながらベッドに腰掛け足元に鞄や買ってきたお菓子などの袋を置き部屋をみまわした。最後に来たときからあまり変わった様子は見受けられないが、描き途中らしきキャンバスや油絵の具など絵描きの道具が増えたように思う。
キャンバスにかかっていた布を捲ると水没した都市が描かれていた。
「お待たせ~。莉乃にもメモを残したし行くか」
「ああ」
司の家にも何事もなく辿り着くと母親への挨拶もそこそこに響に先に部屋へ行くように言い、司は台所へコップや皿を取りに向かう。戻ってくると荷物を広げた響がすでにゲームの準備をしているようだった。
司は持ってきた皿に買ってきたお菓子を広げながら響が持ってきたゲームを一瞥する。
「どれからやるんだ?」
格闘ゲームやRPGなど色々なジャンルのゲームを持ってきているようだ。一晩でクリアできるのだろうか。響は女のキャラが描いてあるパッケージを手に取りニヤリと笑うと。
「パラレルキッチンって言うエロg「却下だバカ」冗談だって。クロスファイターって書いてあるゲーム取って。そうそう、その青いパッケージのやつ」
「ほら」
司はふざけた提案を間髪入れずに却下すると響はカラカラと楽しそうに笑い、別のゲームを指差す。昔遊んだことのあるゲームのリメイクされたものらしい。
言われたとおりのパッケージを取り出し渡すと響は、「サンキュー」と言って受け取り本体に電源をいれセットした。
それからは司がほぼ初心者ということもあり操作方法を学びがてらストーリーモードを数キャラ分クリアし、あとはひたすら対戦し今に至る。
「流石に格ゲーも飽きてきたしなぁ」
ここに来てから休憩もいれたが、かれこれ1時間は遊んだと思う。
一応互いの状況を報告し合うために連絡は随時行うと打ち合わせはしたはずだが、なかなか英佑達から到着したとの報せが来ない。メールを何度か送っているが送信エラーでほぼ失敗している。
――17:20
窓の外は夕焼けが蒼みを帯びてきており薄暗くなってきている。
「……だいぶ暗くなってきたな」
「うぉマジか。もう6時なんじゃん。莉乃もダチと楽しんでんかな~」
響の言葉に司は目を外に逸らすと何かが窓に映ったような気がした。窓に近づき外を一睨みした後、そっとカーテンを閉めた。
窓の外には宙に浮く複数の人形の影が司の家に近づこうとしていたが見えない壁に阻まれながら数回体当たりを繰り返し、やがて諦めた様に一点を目指して飛んで行った。
⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎
「何、これ」
ポカンと外を見つめる莉乃は外が暗くなった事で鏡のようになった窓ガラスを見て己の体を見た。体が人形化し始めた時から恐ろしくてここ2、3日鏡を全く見ていなかったが流石に違和感に気がつく。
自分のサイズに合わせて買ったはずの真新しい制服がブカブカになっており体がだいぶ縮んでいた。
「莉乃……やっぱり小さくなってるのか?」
「人形と人という立場が代わり始めてるみたいだね。だからこそ、今晩中に終わらせるんだ」
しんとした部屋の中で突如着信音が鳴り響いた。英佑は落ち着いた様子で画面を見るとそこには霧島先生の名前が記されていた。通話ボタンを押してみんなに聞こえるようにスピーカーに切り替える。
『よぉ、そっちは無事か?桜庭から連絡が来ないと聞いたが』
「こっちは今んところ全員無事です。ただ、姫ちゃんは身体が縮んでます。俺達は人形の世界に姫ちゃんの家ごと引きずり込まれた可能性があります。だから先生が持ってる電話じゃないと通じないのかも」
『あぁ、なるほどな。現時点で調べた情報によると人形の魔物は物陰に潜む性質がある。おもちゃ箱、押入れ、クローゼット。人形がありそうな場所には迂闊には近づかないこと。仕事が片付いたから俺も今からそっちに向かう』
「了解です。とりあえず二人を守りながら本体の位置は探ってみますね」
『気を付けろよ。それと桜庭からの情報によると、複数の人形やぬいぐるみがそっちに向かって行ったと言っていた。今回の相手は数が多いかも知れんから十分注意しろ』
「はーい」
霧島先生の言葉に翔馬が辺りを見回す。何処に何が潜んでいるのか分からない状況と言うのは恐怖でしかない。薄暗く奥の見えないベッドの下に闇が蠢いているような錯覚に翔馬は慌てて視線を外す。
通話を切ると英佑も部屋を見渡し首を傾げる。
「英佑先輩、魔物本体の位置は割り出せそう?」
「んー。いろんな気配が蠢いててさぁ、なぁんか異様に殺気立ってる奴らが何体かいて。でも狙いは姫ちゃんではない……みたいな?本体は逆に気配を消しててよくわからないなぁ」
「人形に取り憑いた魔物だし持ち主の部屋にでも居そうなものですけどね。そういや莉乃ちゃん。夢に出てきたっていう女の子っぽい人形に見覚えはなかったの?」
夕映は今朝出会った時から憔悴状態で中々聞くことができなかった昨日見たらしい夢の話に出てきた女の子について改めて聞いてみた。しかし莉乃は力なく首を振る。
「わからない……。でも、その子はお兄ちゃんの事も知ってるみたいだったの。アタシがその子を置いてお兄ちゃんと何処かに行っちゃったって。すっごくボロボロの部屋で一緒に暮らしてたって言ってた。でもその部屋にも見覚えは無いの」
「一緒に暮らす、か。その人形はもしかしたら、姫ちゃんが覚えてないくらい小さい頃に遊んでた玩具だったのかもね」
「うーん。でもアタシ、動物のぬいぐるみはいっぱい持ってるけど、人形系は買ってもらった覚えもないの。お兄ちゃんとは体を動かすような遊びばっかりやってたし」
「……小さい頃、金髪の女の子、人形。響さん」
翔馬はそのワードが頭の片隅に引っかかり首を傾げた。翔馬はそれこそ小さい時から、赤ん坊の頃から莉乃と一緒に過ごしていた。金髪の女の子の人形なんてよくある物だが、それを莉乃が抱えていたのを翔馬も見た覚えはなかった。
翔馬は必死に思い出そうとしていた。
泣いている女の子が年上の男の子に縋り付いている光景。
男の子は困ったように笑って女の子の頭を撫でて慰めていた。
―お兄ちゃん・・・・じめ・・・・・の―
「アタシが囮になって本体を誘い出しますか?」
莉乃が発した提案で翔馬は現実に連れ戻された。もう少しで何かを思い出せそうだったが、莉乃と英佑の言葉に耳を傾ける。
「それは最終手段かなぁ。今のところ姫ちゃんはまだ理性を保てている。つまり邪魔者の排除を優先しているってことだね」
「大丈夫って言ったら良いか分からないけれど、わざわざ囮にならなくてもしびれを切らした魔物は必ず襲ってくるわ」
英佑は目を瞑りひとつ頷くと作戦を告げる。表情は安心させるようにかこの場に不釣り合いなほどに楽し気な笑顔だ。
「とりあえずこの人形の世界を探索してみようか?この家の中も外みたいに姫ちゃん家とは別世界になってるかもしれないし。少し体を動かしたいし!」
「そうですねぇ。既にこの部屋を魔物が囲ってないと良いですけどねぇ」
夕映がちらりとこの部屋にある唯一の出入口に視線を送る。つられて翔馬や莉乃も部屋のドアを見ると、ガンっ!と何かがぶつかるような音がする。
英佑は臆することもせず苦笑を浮かべながら扉の方へ向かっていく。
「わぁ、そりゃきーびしーいや!ほんじゃあ、扉を開けるよ。人形たちが突っ込んできても良いように構えててねっ!!」
「え!?」
三人に返事も待たずに英佑が勢いよく扉を開くと三体の人形が飛び出してきた。
その人形たちはどれも、人型、動物型関係なく、複数の人形やぬいぐるみが、無理矢理繋ぎ合わされたような姿であった。
「そーら、殺気立ってる奴等のお出ましだ」
「うえっ、気持ち悪っ!!」
「………………人形たちがあんな……可哀想だよ……」
クリクリとしたこちらを見つめる目には光はなかった。
閲覧ありがとうございます




