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魔好人  作者: 覇夜
4/12

第三話

∞賑やかな帰り道∞

 その後、特にこれといってやることもなくなった対魔部は莉乃のボディーガードをするため、一緒に帰宅することにした。

 ほとんどの部活動は今日から仮入部者を含めた本格的な部活動体験を開始する。季節部も例外ではないが霧島先生の計らいで対魔部の三人は莉乃と翔馬を勧誘するためという口実のもと、早々に部室を引き上げ玄関で待っていた二人と合流した。霧島は一応先生であるため一緒には帰れないとのことだ。

 莉乃と夕映は部活に関する話に花を咲かせていた。


「莉乃ちゃんは入る部活決めた?」


「全然、魅力的な部活が多くて。一応小中はバレー部だったから高校でもやろうかなって思ったんだけど。文化部も楽しそうだなって思うんだぁ」


「文化部も結構大変だよ?運動部より結果を残しにくいし。でもバレー部かぁ。莉乃ちゃんは体力には自信ある?」


「うん!持久力は結構あると思う。アタシ長距離走も得意なんだ。そういえば夕映ちゃんって同じ一年生なのにもう部活に入ってるんだね。先輩ともすごく仲良さそうだし」


 莉乃はずっと思っていたことを聞いてみた。まだ入学して一週間も経っていないのにこの学校にかなり馴染んでいるのだ。俺も気になってた、と前を歩いていた翔馬も二人の少女の方を向く。


「私は中学の時に先輩達にお世話になってたからね。部活もその頃から参加してたのよ」


「「中学の時から!?」」


 莉乃と翔馬は驚き揃って声をあげる。夕映は人差し指を口の前に持っていき、二人に声を潜めるよう指示する。


「そ。アタシたち三人も霧島先生も、元々魔好人なのよ。機関に所属してる人のほとんどは元魔好人で構成されてるの」


「助かったときに魔物の力を逆に取り込んじゃって不思議な力を手にいれることがあってさ。手にはいる力も十人十色。まぁ魔物がとり憑いたモノに依存するけどね」


「それじゃあ、先輩たちって漫画みたいな力が使えるんですか?」


 夕映たちは頷き司をちらりと見るが、司は首を振る。


「近いうちに嫌でも見る機会があるだろう」


「あわわわわ」


「まじかよ……」


 翔馬は見たいような怖いような複雑な心境になった。見てしまえばもう普通の生活には戻れない気がしたからだ。

 そんな翔馬を見て夕映は笑った。


「でもね、魔好人だったから先輩たちに出会えた。私は先輩たちに助けてもらったのよ。それで私も先輩達の手伝いがしたくて中学の頃から対魔部に所属してたの」


「中学生でも高校の部活動に参加できるの?あ、ひょっとしてこっそり?」


「ふふ。この高校って前期入試が9月にあるじゃない?前期で受かった中学生は11月から高校の部活動に参加できるのよ。部活動推薦で受験した人限定だけどね」


「ふぇ~、でも前期入試はスッゴク難しいって聞いたけど……」


「部活動推薦受けるための条件が現役部員による推薦なのよ。アタシは一応季節部として司先輩と英佑先輩に推薦してもらったんだけどね。まぁ推薦受けるまでが大変だから、部活動推薦は普通に受験するよりは受かりやすいんだけどね」


「そっかぁ。あっ、でも筆記試験はやっぱり難しかった?この高校、前期と一般の試験レベル全然違うって友達が前に言ってたの」


「まぁ、それなりにね。でもそれはどこの学校も同じだと思うけどね」


 そんな話をしながら歩いていると商店街に出た。まだ時刻は四時を過ぎたばかりのため、たくさんの人で賑わっていた。ある店を通りすぎようとしたところで莉乃が急に声をあげた。


「あれ、お兄ちゃん?」


 莉乃が文房具屋で見つけたのは、彼女の兄である姫神 響(ひめがみ ひびき)だった。響も莉乃に気づき軽く手を挙げる。


「んぁ?おお、莉乃。今日は部活体験はないのか?」


「ううん。今日は翔ちゃんと一緒に季節部の体験中……かな?」


「そっかそっか」


「響さん、こんちには」


 翔馬も響に気づき挨拶をすると響はにっと笑い「おう!」と返す。そして莉乃と翔馬を勧誘中の季節部は誰だろうと周りの人物を見て目を丸くした。


「……あれ、司?」


「…………」


 司は露骨に顔をそらし少し困ったように眉を寄せる。その様子に英佑は苦笑した。


 (まだ避けていたのか)


 しかし響は特に気にした風でもなく司に嬉しそうに話しかける。


「なんか学校以外で会うの久しぶりだよな。今年はクラスも一緒だしさ、暇あればまた前みたいにどっかに遊びにいかないか?」


「…………暇が合えばな」


「お、約束な。あっ、部活といやぁ…………」


「それより響、後ろにいる子はお前の連れじゃないのか?」


「へ?」


 司が示した方には莉乃や夕映と同じ制服を着た小柄な少女が大きな荷物を両手で抱え、まるで従者のように静かに立っていた。その少女を見て一番に反応したのは夕映だった。


「あらっ、奏(かなで)!」


 奏と呼ばれた少女は夕映ににこりと微笑み手首だけで手をふる。響も奏に気づきごめんごめんと謝りながら、奏から荷物を受け取る。


「声かけてくれればよかったのに、重かったろ?」


「大丈夫です。それにお話の邪魔をしたくなかったので」


「そっか。ごめんね」


「あの、お兄ちゃん。その子は?」


 すっかりおいてけぼりの莉乃はおずおずと響に尋ねる。


「ん?ああこの子は水鏡(みかがみ) 奏ちゃん。お前と同じ一年生で総芸部の新入部員な!」


 総芸部こと総合芸術部は柳月高校における最も変わった部活動である。様々な分野の芸術作品を作ることを目的にした部活で、部活内でも五つの班に別れており、それぞれの分野に特化している。

 元々は美術部や文芸部と別れていた。部員の減少により合併して何とか生き残った部活だったが、近年の活動が評価され、柳月高校の総芸部は部員の数を取り戻しつつあった。

 しかし不真面目だったり幽霊部員だったりする新入部員が増えたことにより、本当にやる気がある生徒以外は即退部という厳しい部活でもある。


「……新入部員なのにすごく仲が良いんだね」


 莉乃はじとっとした目と声をしていたが響は気付かず楽しそうに語り続ける。


「この子が中学の頃から目をつけてたからな!美術展で知り合ってからなんとか説得してうちの学校に受験してもらったんだ。推薦したら前期で受験してくれてさ。受かった後、わざわざ部室にまで来てくれてその日から総芸部美術班の一員さ。なぁ奏ちゃん!」


「は、はい」


 どこか満足げに語る響の話を聞き、夕映は頭をおさえ少し緊張している奏に話しかける。


「…………前に言ってた奏が知り合った高校生って」


「え?あ、うん。姫神先輩。ふふ、面白い先輩なんだよ?」


「見ればわかるわ。でもちょっと英佑先輩に似てて不安にもなるわね」


「ちょっとちょっと、夕映。それどういう意味!」


「そのままの意味です」


 英佑は不服そうに後輩をじと目でみるが、まぁいいかとすぐに視線を別の方へ向ける。莉乃の様子が明らかにおかしいのだ。

 この数時間で観察した感じではいたって普通の明るい女の子だったが、兄である響に会ってから敵意を感じるようになっていた。なんとなく翔馬にだけ聞こえるように確認してみる。


「ねぇ、岸くん。姫ちゃんの雰囲気ちょっと変わってない?」


 かなりフレンドリーに呼ばれたことに眉をしかめつつも、それを聞いた翔馬は目線を泳がせ少しためらった後ため息をつき、声を潜めて英佑に耳打ちをした。


「あいつ、その、響さんのことがかなり好きなんで、他の子と仲良くしてるのみて嫉妬してるんですよ」


「ブラコンなんだね~」


「はっきり言わんであげてくださいよ」


 ズバッと言いきった英佑に翔馬は苦笑しながら莉乃をみる。機嫌悪そうにほっぺを膨らませいかにも怒ってますな雰囲気で響をみている。英佑の方を見ると驚いたことに真剣な表情で三人をみてポツリと呟いたのを聞いてしまった。


「……ちょっと危険かな」


「え?」


 翔馬は聞き返そうとして英佑をみやるが何でもないよと笑顔で言われ頭を撫でられる。「やめてください!」と手を払うと英佑は払われた手をひらひらと振って少し離れたところにいる司の元に行ってしまった。


 (……逃げられた)


 仕方ないとため息をつき、翔馬は莉乃達の方に歩いていった。


「響さんハーレムだね」


 からかいながら近づくと、響はにっと笑い莉乃の肩と奏の頭に手を置き、


「ははっ、いいだろう?」


 と、ノリノリで答えてくれたが、奏の方は夕映によって手を払われ引き離されている。莉乃は響に手を置かれたことによって少し機嫌が直ったようだ。それでいいのかと思いつつ響を見やる。

 翔馬はもう一人の幼馴染みである響には敬語は使うなと耳にタコができるくらい言われていた。翔馬にとって響は友達のようでもあり憧れのお兄さんでもあった。だから莉乃が響が大好きな気持ちは痛いほどわかる。

 

 でも、危険とは一体どういうことだろう?誰が、何が危険なのか……。


 魔好人になった莉乃がか?莉乃に好かれている響が?それとも、そんな莉乃に嫉妬されている奏だろうか?

 翔馬の頭のなかで今までの状況がぐるぐると回る。

 しかし考えていてもこれといった答えは出てこなかった。翔馬の考え事は誰かの携帯の着メロによって遮られた。見回してみるとどうやら響の携帯だったらしく時間を確認した後眉をしかめ、夕映達とおしゃべりしていた奏を呼ぶ。嫉妬も多少治まった莉乃とも大分仲良くなったようである。


「やっべ、もうこんな時間か。奏ちゃん、急いで学校に戻るぞ!部長がお怒りだ。そんじゃあ俺達行くな」


「えっ?はっはい!あ、夕映ちゃん、莉乃ちゃんまた明日~」


「気を付けるのよ、奏!!」


「うん!また明日ね」


 二人は軽く手をふり重たい荷物をもって小走りで学校へ戻っていった。奏は体力が無いらしく、すぐにばてたようで、結局は奏にあわせつつといった様子だった。

 その様子を莉乃はじっと見つめていたので翔馬は思いきって話しかける。


「莉乃、俺達も帰るぞ」


「……アタシのお兄ちゃんなのに」


「……っ!莉乃、帰るぞ!」


 呼び掛けても答えず不穏なことを呟く莉乃に焦りつい強く言うと、莉乃は一瞬ビクリと肩を跳ねさせ、我に帰り翔馬を見た。


「っ!?へ?あっ翔ちゃん。うん、えへへ、帰ろう帰ろう!」


「………………」


 その様子を司達は少し離れたところから静かに見ていた。

 今日は魔物に襲われることもなく、莉乃もいつも通りの様子で、二人は無事に家に帰ることができた。



 しかし、莉乃の体は少しずつ魔物に浸食されていた。

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